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自動運転に欠かせない3DマップをつくるHEREの次なる狙いとは?

2017/3/8(水)

HERE JAPANオートモーティブ事業部 アジア太平洋地域担当本部長 マンダリ・カレシー 氏
 
ブレグジットに米大統領選、2016年はまさに世界的な激動の一年であった。そして、世界的な高精度地図プラットフォーマーとして躍進するHEREにとっても、特に2016年は激動の一年であったようだ。同社のアジア太平洋地域担当本部長を務めるマンダリ・カレシー氏へのインタビューを通じ、HEREの動向に迫る。
 
HEREは2016年3月1日、Edzard Overbeek氏をCEOに迎え、経営陣等も一新。Edzard氏は、世界最大のネットワーク機器開発会社であるCISCOにて、日本、中国、アジア太平洋地域の統括に携わってきた。株主構成の面でも、従来のドイツ自動車メーカー三社(ダイムラー、BMW、アウディ)に加え、米IntelやGIC(シンガポール政府投資公社)、中国のTencent(騰訊控股)、NAVINFO(四維図新)の四社から新たに出資を受けた。

また、パートナーとしてもMicrosoft(米)、MOBILEYE(蘭)、NVIDIA(米)、DJI(中)、PELAGICORE(スウェーデン)、RIGHTWARE(フィンランド)などが新たに加わる。

こうした動きを踏まえ、HEREは2017年以降、従来の自動車会社向けのシェア獲得といったステージから脱却し、プラットフォーム戦略へ注力していくことを明確に打ち出した。特にTencentやIntelなどのプラットフォーム・カンパニーが投資関係に入ってきたことで、HEREのプラットフォーム戦略もより盤石になるだろう。

 
HEREの中国・アジア戦略

Tencent、NavInfo、GICからの出資を受けたことで、アジアでの基盤がより強固なものになるはずだ。また、NavInfoとはHERE Auto SDKを中国向けに提供するJV(ジョイント・ベンチャー)を組む計画。グローバルでのHADソリューション(高度自動運転ソリューション)の提供も加速させていく。
 
「NavInfoとは、以前にもJVを組んだことがありましたが、今回のJVは製品という意味で大きく異なるものになります。というのも、以前はただ単に地図という静的なデータのデータベース情報を提供するというだけでしたが、今回はSDKのプラットフォームを提供していくことになるためです」とカレシー氏はNavInfoとの新たなJVについて語る。売り物が変われば売り方も大きく変わってくる。従来のJVとは大きく異なった動きになるだろう。
 
また、「特に中国での展開については、中国と中国以外の国で大きく差が出ない形で自動運転ソリューションを提供していきたい」というのがカレシー氏の考えだ。IVI(In-Vehicle Infotainment:車載インフォテインメント)と自動運転の技術は連動するべきであり、100%同じということは現実的ではないにしても、応用性のあるものを開発していく必要があることは間違いない。
 

CES2017で発表された、新たな株主とパートナー

 

サービス重視のパートナーシップ

HEREはプラットフォームへの注力を表明したこともあり、従来のディベロッパー重視をより強固にしなければならないという意識があるようだ。PELAGICOREやRIGHTWAREとのパートナーシップはまさにその表れといえる。PELAGICOREは、ディベロッパーツールの開発を手掛けており、特にIVIにオプティマイズされた開発環境を提供している。RIGHTWAREは、UIやUXの開発を手掛けており、パーツやテンプレートをカスタマイズすることで簡単にIVIを開発できる環境を提供している。
 
ドローンの開発を手掛けているDJIとのパートナーシップでは、オフラインの地図の利用が注目されている。例えば、山奥を飛行している際に、GPSが機能しなくなってしまうこともありえる。ドローンが飛行する場所に、必ずしもコネクティビティがあるとは限らない。そういった緊急の際に、ドローン自身が自分のリターンパスを決めて移動することが求められるが、そのためには高精度の地図を搭載しておく必要がある。こうしたニーズは個人よりも、むしろ高価なカメラやセンサーを搭載した業務用のドローン利用者に多く見受けられるという。
 
そして、Microsoftとの協業では、Bing MapsやCortana(Microsoftの提供するデジタルエージェント)との連携でシナジーが見込まれている。というのも、Microsoftのプラットフォームを使って、位置情報サービスを開発する企業もHEREの地図データを利用することができるようになるためだ。これによって、地図情報を利用するサービスのさらなる深化が見込まれるだろう。
 

あらゆるソリューションをひとつに


2017年の戦略的な注力分野

 
自動運転技術の開発に際し、IntelはCPUソリューションを、NVIDIAはGPUソリューションを、MOBILEYEはセンサーソリューションを重視している。カレシー氏によると、「これらはどれが正しいというのではなく、将来的にはどの車両にもCPU、GPU、センサーが複合的に搭載されていくはずだ。したがって、どれかひとつと限定するのではなく、連携して大枠としてのプラットフォームを形成していく必要があります」とのことだ。
 
Intelから出資を受けたことで、高度自動運転向けのHDマップをリアルタイムで更新するためのPoC(Proof of Concept)アーキテクチャの開発が加速することになる。とはいえ、共同開発を進めていくといっても、常に同じように動かないといけないというわけではなく、逆に共同で動くこともできる。

「IntelもIntelなりのやりかたをそのまま使えばいいし、HEREとしてもそれを活用することもできるというように、柔軟な形で進んでいくことができます」(カレシー氏)
 
NVIDIAはAI技術で地図を作成するMapWorksや、自動運転用のプラットフォームであるDrive PX2などを手掛けている。HEREと競合関係にもあるが、パートナーシップによってバックエンドで双方の情報を使うことができるようになり、サービスに厚みが増している。NVIDIAのプラットフォームでの開発環境に慣れ親しんだエンジニアでも、その開発環境から出ることなしにHEREの情報を利用することができる。
 
MOBILEYEは、ロードブックという製品を開発している。ロードブックはセンサーデータに基づいて作成された軽量版の地図だ。MOBILEYEとしては、このロードブックをグローバルに展開する際、クラウド側のインフラをゼロから作りあげるよりも、むしろHEREと組んで提供した方が良いと判断したようだ。HEREの地図とMOBILEYEのロードマップでは競合する部分もあるが、MOBILEYEの顧客層にグローバルな顧客が多いこともあり、グローバルな展開をしていくことを考えると、HEREのインフラを使った方がやりやすいという判断だ。

「MOBILEYEは以降のロードブックの作成と維持にはHEREのプラットフォームを使い、HEREはMOBILEYEから発生した情報を取得できるという形で、お互いにうまい付き合い方ができています。もし、将来的にMOBILEYEがHEREとは別でやりたいとなったときにも、ロードブックはMOBILEYE自身のものとして自由に利用可能で、HERE側もMOBILEYEの追加のレイヤーは利用できます」とカレシー氏は語る。“お互いに動きやすい”というのも重要な要素として挙げられるようだ。

HEREのプラットフォーム

HEREはオープンでサービス指向かつアジャイルなプラットフォームの開発に向けて大きく舵を切った。さらに、Tencent、Intel、マイクロソフトなどのプラットフォーマーとの資本提携・業務提携を通じ、位置情報を利用したサービスの厚みを増していく方針だ。ただ厚みを増すだけでなく、異なるソフトウェア間の共存など、開発者エコシステムを確立させていくことも重視している。

「たとえば、あなたがNVIDIAのGPUソリューションを使った開発を行うとしましょう。そこで、自動運転用のHERE HD Mapを使いたい場合には、モジュールを配置するだけで利用可能になります。これは、HEREとして独立のラベルが貼られたようなものではなく、あなたの作業フローの中にHEREが入って位置情報などを提供するというもので、あなたは自分がやるべきことに集中することができるでしょう」(カレシー氏)

 

オープン・ロケーション・プラットフォームのイメージ
 

2017年以降の動き

2017年は、自動車OEMなどに向けて、インフォテインメントへの対応を加速させていくほか、センサー自体が生み出すサービスにも注力していくようだ。HEREビークルを走らせてデータを集めるということは既にしており、将来的にはLIDARやカメラの情報から差分更新を自動的に行えるようなサービスを検討している。クルマの様々なセンサーから自発的に情報をあげて、それをまたサービスに自動的に変換していく、といった開発も進めている。
 
「2017年は自動車とIoTなど、既存の分野でのパイを固め、流通やインフラ、ヘルスケアといった他の分野にも横展開も視野に入れながら開発を進めていきます。この際、プラットフォームには頑丈さや使い易さがより求められてきますから、そこに非常に力を入れて進めています」とカレシー氏は述べる。最後に「特に自動車分野に関しては、自動運転を作りたいのなら誰でもHEREのプラットフォームを使うことができるようにし、“自動運転の位置情報ならHERE”という地位の確立を目指します」と、HEREの今後について決意を語った。

 

 

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