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「EV電池循環市場のグローバル戦略の要 バリューチェーン・エコシステムに迫る」セミナー開催【LIGARE×日本総研】 

2022/5/10(火)

LIGAREと株式会社日本総合研究所(以下、日本総研)は、3月23日に「EV電池循環市場のグローバル戦略の要 バリューチェーン・エコシステムに迫る」と題したビジネスセミナーをオンライン上で開催した。経済産業省、自動車リサイクル促進センター、カウラ、ブルースカイテクノロジーなどが登壇。

脱炭素社会の実現に向けて、世界的にEV化への流れは加速している。その一方で、使用済みEV電池の有効活用が進んでいないという課題も存在。潜在能力が70~80%残っていながら、残存価値評価の技術や仕組みが確立しておらず、基準が明確に定められていないなどの理由で、将来的に大量廃棄が懸念されている。

本セミナーでは、現在のEV電池循環市場の国際標準化動向を明らかにしつつ、電池循環市場に必要なバリューチェーン・エコシステムに迫った。

■自動車用だけでなく、産業用、小型用を含めたリユース・リサイクルのバリューチェーン構築が急務

最初に登壇したのは、自動車リサイクル促進センター理事長/ISO TC333国内委員長/東北大学名誉教授の中村崇氏だ。「電池循環市場の構築に向けた国際標準化動向と課題」と題した特別講演を行った。

電池循環市場の効率化に向けてEUでは、2020年12月に欧州委員会から「EU電池規則案」が発表されている。その中で、回収率目標は2030年までに産業・自動車用・電気自動車用ともに100%。リサイクル率は、コバルト、ニッケル、銅が95%、リチウムが70%という目標を掲げている。

中村氏は「このEU電池規則案ではすべての電池が対象のため、日本でも車載用電池だけでなく、スマホやパソコンなどの小型電子機器に使用されるリチウムイオン電池を含めたリユース・リサイクルのバリューチェーン構築が重要だ」と話した。

また、国際標準化の動向について中村氏は、「TC333はあくまでリチウム関連材料までで、リチウムイオン電池そのものは含んでいない。ただ、正極材やリチウムを含む電解質や、使用済みリチウムイオン電池を破砕選別した後に残るブラックマス(活物質濃縮物)に含まれるリチウムは、範囲に入る可能性があるので注意が必要」とした。

TC323(サーキュラーエコノミー)については、「ワーキングの成果を組み合わせて、EU内で議論されているバッテリーパスポートへ発展する可能性がある」と中村氏は指摘。

車載用リチウムイオン電池の循環市場をみると、中古自動車はディーラーと解体業者に送られる。ディーラーは、自動車メーカーがデータを持っているので、診断工程に問題はないと思われるが、解体業者側は診断が難しい。そのため、リチウムイオン製造業者、自動車産業、リユース・リサイクルビジネスが相互に連携するITプラットフォームの構築が必要だという。「特にトレーサビリティの担保が重要になる」と述べた。

■リチウムイオン電池活用には、GHG排出課題、資源大量消費、人権リスクなど課題が山積

続けて、経済産業省自動車課戦略企画室 課長補佐の佐藤岳久氏が「サステナブルなEV電池のバリューチェーン構築に向けて」と題した特別講演を行った。

まず、蓄電池の製造・廃棄プロセス上の課題を説明。「GHGの大量排出」、「コバルト、ニッケル、リチウムなどの鉱物資源の大量消費・大量廃棄」、「鉱物の採鉱・加工プロセスにおける人権・環境リスク」の3つを挙げた。

解決策について佐藤氏は「蓄電池の性能向上と、製造・廃棄プロセスをより高度なものにしていく必要があり、技術開発の推進と制度的枠組みの整備の両面からアプローチしていかなければならない」と述べた。

佐藤氏が考える課題と対応の方向性については以下の通り。

(1) 「製造・廃棄における大量のGHG排出」→「蓄電池のライフサイクルアセスメントにおけるGHG排出量の見える化」
(2) 「資源の大量消費・大量廃棄」→「蓄電池のリユース・リサイクルの促進」
(3) 「鉱物の採掘・加工プロセスにおける人権・環境リスク」→「バッテリーサプライチェーンにおける人権・環境リスクの継続的な評価、低減させる仕組みづくり(デューディリジェンス)」
(4) これらを実施していくためのサプライチェーン全体でデータを流通させる仕組み

最後に、経産省の具体的な取り組みを紹介。次世代蓄電池の技術開発を支援しているが、その中でリサイクル関連技術の開発支援に注力していると強調した。また、蓄電池の国内生産基盤の確保のために、リサイクル設備・施設の導入費も支援している。

■BACEコンソーシアムで廃棄電池の適切な診断評価技術確立を目指す。バッテリー循環型経済プラットフォームの構築へ



その後、日本総研 シニアスペシャリストの木通秀樹氏が取り組みを紹介した。

同社は、電池診断技術事業者、保険、商社、自動車部品メーカー、リース事業者、Sier、非鉄金属、エネルギー事業者など11社で構成されたBACEコンソーシアムを2020年10月に設立。蓄電池の課題を「廃棄電池の適切な診断評価技術、中古EVの価値評価情報、リサイクルにおける電池材料の情報連携、信頼性の高いモノと情報管理」と4つの項目に分け、それぞれの機能を実現させることを目指している。

BACEコンソーシアムは、20年度に中国で中古電池データを蓄積。21年度は中国リユースパートナーとともに、リユース向け電池評価サービスの検討を行った。22年度は、リユース製造向けサービスの事業化を検討しており、中古EV向けの実証も進める予定。

一方、日本においては、EVの充電口から直接診断する診断試作機を開発。2022年度は、実証を繰り返しながらデータを蓄積し、リユース向けの実証も開始し、プラットフォームの構築を目指す。

続けて、カウラ株式会社社長の岡本克司氏が自社を紹介。同社は、ブロックチェーン技術に強みを持ち、バッテリーの循環型経済プラットフォーム(KABLIS)を開発している。

2017年から「BRVPS」というバッテリーの残存価値予測システムの開発に取り組む。その中で岡本氏は「バッテリーの製造から消費まで追跡し、不正利用や不法投棄を検知、残存価値を予測するのはもちろん、紛争鉱物であるリチウムイオン電池は倫理調達の証明書を発行が義務つけられておりトレーサビリティの担保には課題が多かった」と話した。

今後について岡本氏は、「2020年第三四半期に、ブロックチェーンを活用しデータの存在証明を行った。今後は、データの“流通”を考えている。通常データは、発生・移動・消費のプロセスをたどる。このプロセスをシステム上で組み上げなければいけない。将来的には、電力発電源証明、カーボンクレジットの履歴データなどの存在証明も行った上で解析まで行いたい。」と構想を語った。

なお、日本総研は、中国国内での事業立ち上げに向けた検討を行うことを目的に、長瀬産業株式会社、カウラ株式会社、横河ソリューションサービス株式会社、日置電機株式会社、三井住友ファイナンス&リース株式会社との間で協定を締結している。

■EV製造は、性能面向上とリユースのし易さを両立するのが困難



その後、ブルースカイテクノロジー株式会社社長の矢島和男氏が、自動車メーカーのリチウムイオン電池のリユース・リサイクルについて考えを述べた。

長年日産自動車に勤め、リーフのバッテリー開発担当者でもあった矢島氏は、「Cell実装効率の向上が近年の大きな流れだ」と最新トレンドを紹介。

現在は、モジュールを廃止しCellをそのままパッケージの中に入れるCell to Packという試みが、中国BYDやテスラで行われている。矢島氏は「無駄な空間が減り、パックとしてのエネルギー密度が向上する利点がある。ただ、故障した場合は容易に直せないというデメリットも」と解説。また、今後はCellとパックが一体化していき、さらなる部品点数の削減で、搭載効率が高められていくという。

次世代のバッテリーパックとして、BYDのHan(漢)を紹介。これは、細長いBlade Batteryを直方体のケースに隙間なく搭載することで、体積効率を従来車に比べ20%向上させている。矢島氏は「搭載効率は非常に高いが、リサイクルが非常にしにくい。パックとしての再利用はあるかもしれないが、電池を接着剤でつけており、電池自体を取り出すのは難しい。電池のリサイクルまで考えた設計にはしていないように思える」と指摘する。

その理由について「自動車メーカーは、自動車自体の性能面を向上し、他メーカーとの競争に勝たなければいけない。そのため、競争原理と循環型社会の構築の狭間で揺れているのだろう」と見解を示した。

一方、日本の取り組みも紹介。日産リーフでは、発売前からリユースを想定した設計がなされており、使用済み電池を住友商事とともに大型蓄電池として活用したり、セブンイレブンやJR東日本とともに、蓄電システムや踏切安全装置電源へ活用したりしている。

最後に矢島氏は、「電池劣化に関わる情報は、BEVの商品競争力に直結するため、自動車会社としては、情報公開についてセンシティブにならざるを得ない。市場で取得した電池関連データは、次期の製品開発を行うための宝の山であって簡単に開示はできないだろう。それでも公開というのであれば、そのデータ取得にかかったコストに見合うインセンティブが必要だ」と述べた。

■情報連携の難しさ、最低限のルール作りが必要

最後に、日本総研の木通氏がモデレータを務め、パネリストとして岡本氏と矢島氏が参加したパネルディスカッションが行われた。

以下、発言抜粋。

――情報連携の難しさについて。

「経産省などが循環型社会を見据え、電池循環の規格などEV生産における最低限のルール作りを行う必要があるのではないか。電池は自動車用と一口に言ってもさまざまな種類がある。将来的にそれらを混ぜて再利用するのは難しい」(矢島氏)

「プラットフォーム構築に向けて、さまざまな団体が議論はしてはいるが、実際にプラットフォームを作って、データを集めて、そして運用するまでには至っていない。まず第一歩を踏みだす必要がある」(岡本氏)

――蓄電池の循環市場は中国が先行している。日本は今後どのような仕組みづくりを行っていく必要があるか。

「廃棄マーケット市場が活発化しているのは中国。日本で課題が解決できていないのは、課題に対するデータが存在していないからだ。そのため日本では、データを取得する、評価する技術がまず必要。中国に倣い、中国企業とも協力しながら、データを取得することから始めないといけない」(岡本氏)

「自動車用電池には、劣化して容量は減っても耐久力はあるという特徴がある。走行距離20万kmでもまだまだ乗れるEVも多い。ただ、現状は使える電池が数多く廃棄されている。廃棄せずに一つの電池を使い切るという視点で仕組みを作れないか」(矢島氏)

――国際競争力を得るために日本が作るプラットフォームの形はどのように考えるか。

「トレーサビリティの担保が重要。ブロックチェーン技術を活用すれば、どこ由来の電源かというのが証明できる。トークン化することで、エネルギー交換・売買が可能だ。また、電池の残存価値に応じて、バッテリーの二次利用マーケットが活発化することも予測される。その際に、使用済み電池のデータが非常に重要になってくる。仕組みはまだなく、まずは必要な人が必要な情報にアクセスできるプラットフォームを作っていくことが大事」(岡本氏)

「中国では国が強制力を持って、経済合理性を後回しにしながらもEVを普及してきたような背景がある。日本は自動車会社が強いので独自にやってきたが、個社でエコシステムを回すというのは国レベルの競争観点では限界もある。日本でもすぐに経済合理性が追及できる話ではないと思うが、最初のうちは国の支援等も受けながら、エコシステムを皆で回すことが必要ではないか」(矢島氏)

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