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伊藤慎介の “Talk is Chap” 〜起業家へと転身した元官僚のリアルな産業論  第1回 このままでは 「次の自動車産業」で世界に負ける

2017/11/29(水)


では日本ではどうか?

ベンチャー企業として新しい乗り物に挑戦していると、世界の急速な動きに対して日本の現状は極めてお粗末だと言わざるを得ない。

米国や中国ではあらゆる種類の電気自動車ベンチャーが登場しているのに対して、日本では数えるほどしかなく、われわれを含めて多くの会社が資金調達、部品調達などで苦労が絶えず、ベンチャー企業同士で助け合ったり慰めあったりしている状況にある。

電気自動車にとってのコア部品であるモーターであるが、経産省時代の人脈をたどって国内のある大手メーカーに相談したところわれわれのようなベンチャー企業に売るのはリスクなので販売することができないと言われ、オープンイノベーションとは程遠い対応に失望した。また、同じくコア部品のバッテリーについては車両に搭載できるパッケージでの提供となると日本メーカーよりも台湾メーカーの方が圧倒的にコスト面でもスピード面でも対応が優れている。

このような状況からモーターもバッテリーも海外からの調達を余儀なくされそうであるというのが現状での正直な見通しなのである。

また、自動運転やライドシェアについては「海外に負けてはならない」という危機感は極めて強いが、規制や既得権益の問題などもあり、海外と比べて見劣りする状況にあると感じる。

我々が挑戦している超小型モビリティについては、2013年に国土交通省の発案でスタートした制度であり、3年程度の実証実験後は一般ユーザー向けに市販することができる「車両規格」が整備される予定であったのだが、現時点でも実証実験が継続されており、車両規格がいつ整備されるかについての見通しが不透明な状況にある。このことは、当社の事業計画や資金調達に重大な影響を及ぼしかねないと懸念している。

 

二子玉川でのセグウェイ走行ツアーの様子


国が旗を掲げた制度であってもそのような状況であることから、そもそも「車両」として扱われていないセグウェイや電動スケートボードなどの「パーソナルモビリティ」の場合は非常に厳しい環境下にある。2006年から国内販売が始まったセグウェイは未だにつくば市や二子玉川などの限定された場所でしか走行が認められていない。

 

日本発のパーソナルモビリティ:Cocoa Motorsの“Walker”
出典:http://www.cocoamotors.com/


日本でもCocoa Motorsなどパーソナルモビリティのベンチャー企業が登場し始めているが、このままでは本拠地を海外に移転しかねない。

 

このままでは「次の自動車産業」で世界に負ける

自動車が誕生した欧州、自動車の大量生産を生み出した米国に並び、世界の三大自動車産業大国となった日本。今や自動車産業は日本経済の背骨ともいえる重要な産業であり、この産業無くして日本が大量に外貨を獲得することができる産業は未だに現れていない。

その自動車産業が100年の歴史で初めて重大な転換期を迎えようとしている。そして、その震源地は、日本を支える重要産業であったエレクトロニクス産業を苦戦に追い込んだシリコンバレーである。

このような米国の動きに対して、欧州は地域主導で、中国は官主導で独自色を出そうとしており、魅力的な企業やサービスが誕生し始めている。

一方で、我が国は過去に敷かれたレールが障害となり、独自色をなかなか出せない状況にある。

このままでは「次の自動車産業」で世界に負けるのではないかと心配になってしまう。

著者紹介:
伊藤慎介-株式会社rimOnO 代表取締役社長
1999年に旧通商産業省(経済産業省)に入省し、自動車、IT、エレクトロニクス、航空機などの分野で複数の国家プロジェクトに携わる。2014年に退官し、同年9月、有限会社znug design(ツナグデザイン)代表の根津孝太氏とともに、株式会社rimOnOを設立。

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