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特集:次世代を拓くデータ連携基盤JMDS活用を堺市モビリティハブから探る

2025/3/28(金)

モビリティのデータ共有・標準化インフラ「Japan Mobility Data Space」(JMDS)が機能を拡充している。JMDSは、内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期/スマートモビリティプラットフォームの構築プロジェクト。データカタログ数が1万件を超えて増えている。

同時に、必要なものを見つけ出すキーワード検索・チャット検索の最適化や、見つけたデータを分析し、シミュレーションする機能「デジタルサンドボックス」の使い勝手向上が進む。今回は、JMDSの使い方について大阪府堺市で行われたモビリティハブ実証実験「泉北ぷらっと」を例に紹介。新たなモビリティを生むデータスペースの具体的な活用を検討する。

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JMDSの概要と、構築に携わった越塚登 東京大学教授の解説はこちらから。

JMDSにおけるデータ活用の具体的な流れ

JMDSに登録することで、データ活用のためのさまざまな機能にアクセスできる。公開されているデータ活用事例から施策の検討に向けたデータの活用イメージをつかみ、データカタログにて欲しいデータを検索。データ提供者へ提供依頼を行い、取得したデータをデジタルサンドボックスにてシミュレーションもしくはデータ関連サービス提供者に加工・分析依頼をすることもできる。

JMDSにおけるデータ活用の流れ

JMDSにおけるデータ活用の流れ



JMDSの主要な機能であるデータカタログとデジタルサンドボックスとはどのようなものか。それぞれについて紹介する。

データカタログ データ利用者と提供者をつなぐ場

JMDS機能の基礎となる「データカタログ」は文字通りに種々のデータが集まるカタログ。利用者はキーワード検索やAI対話型のチャット検索を使って求めるデータを探す。企業や団体はデータ保有の主権を持った上で有償または無償でカタログにデータを提供し、柔軟に選択できる。これが分散連邦型データスペースであるJMDSの特長。

モビリティに関連するプローブデータや人流データ等から、今後、自治体の人口や観光、気象など、モビリティに組み合わせることで新しい事業をつくりだす可能性をもつデータが格納されていく予定。事業者が活用を探るデータ、オープンデータとして公開されているもの、その種類はさまざま。

そこで気になるのは必要とするデータをどのように見つけるかだろう。キーワードやカテゴリでの検索に加え、生成AIとのチャットを通じてデータを検索する機能も搭載している。データ活用に不慣れな方でも欲しいデータを容易に探せるよう、JMDSを推進するNTTデータが検索の利便性向上に努めている。

生成AIとのチャットを通じてデータを検索

生成AIとのチャットを通じてデータを検索



今後、データ提供者や加工者とJMDS上でコミュニケーションを図り、データの調達やデータ加工の実施、「デジタルサンドボックス」を活用しながら、データ分析や事業可能性の検討が行える環境を目指していく。だれが何を持っているか分からないモビリティデータの「カオス」な状況を、主権を確保したままデータを集めることで変えることが、JMDSの目的。そのためには、データの利用者、加工者、提供者が広くJMDSを使うことが近道となる。

「見せる」ことで社会受容を支援 デジタルサンドボックス

データカタログと連携したデジタルサンドボックスは、見つけたデータを用いてそのままシミュレーションできる機能。この機能の特長は、必要なデータを探し出したらすぐさま検討に移れる速さだ。「新しいモビリティ実装で重要なのは社会受容性」とは多くの事業者が口を揃えるところ。デジタルサンドボックスを使ったシミュレーション画面や動画で「実装の効果」を見せることにより、新しい試みをするための関係者との調整が楽になると期待されている。

現在は、GTFSデータを活用し、地域における公共交通の利便性を可視化するシミュレータを実装している。今後、本シミュレータの改良やシミュレータを拡充していくことで、公共交通の導入計画や関係者との合意形成など、さまざまなユースケースで対応できる環境の提供を目指していく。

デジタルサンドボックスで公共交通のアクセシビリティをシミュレーションする様子

デジタルサンドボックスで公共交通のアクセシビリティをシミュレーションする様子



JMDSの使い方と課題 堺市モビリティハブ実証を通じて

ここからは、モビリティ実装に向けて汗を流す事業者がJMDSをどう使うのか、JMDSに何を求めるのかを探る。堺市の泉北ニュータウンで行われたモビリティハブ実証「泉北ぷらっと」事例を通じて紹介する。

泉北ぷらっと ニュータウン内移動と交流を楽に、楽しく

泉北ぷらっとは泉北ニュータウン内の3カ所に電動サイクル、電動アシスト自転車、歩行領域モビリティをシェアリングで利用できるハブを置き、キッチンカー販売なども行うことでニュータウン内の移動を便利にし、住民の交流拠点にもする取り組み。実証は2024年11月から行われている(歩行領域モビリティの貸し出しは2025年1月まで)。

泉北ぷらっと「ももポート」

泉北ぷらっと「ももポート」



ハブは、ニュータウン内「栂(とが)地区」桃山台に設置された「ももポート」と、「泉ヶ丘地区」の団地「UR泉北パークヒルズ竹城台」、両地区の南に位置する商業施設「アクロスモール泉北」の3カ所に設置された。複数地点にモビリティハブを設置する試みは国内初という。堺市では2022年度よりこの3カ所ほか81の停留所を結ぶAIオンデマンドバスも運行しており、バスや鉄道との交通連携も検証した。

堺市では、実証を経て泉北ぷらっとの実装とエリア拡大に向けた動きが進む。市は自治体と住民の共創によるモビリティハブの定着と機能の拡大の取り組みに努めている。

モビリティハブ実証・実装に関するデータ活用と課題について、堺市と共に実証の企画・運営を手掛けた株式会社AMANE 取締役 齊藤せつな氏と、堺市 泉北ニューデザイン推進室 スマートシティ担当 久保徳章氏に聞いた。

「JMDSでユースケース共有を」AMANE齊藤氏インタビュー


株式会社AMANE 取締役 齊藤せつな氏

株式会社AMANE 取締役 齊藤せつな氏



――モビリティハブの立地選定、運営、今後の実装に向けてどんなデータを使った、使うかから伺えますか。
「まずベンチマーク調査としてモビリティハブ設置の基準を規模別に分類した英国の事例『SES tran』『CoMoUK』を参照しました。設置するハブの大枠を決めた後に調べたのが、泉北地区の人口密度や住人の属性、交通の特性です。『国勢調査 人口密度マップ』『堺市地域公共交通計画素案』『国土数値情報標高傾斜度』『jSTAT MAP』、市内のバス路線図といったオープンデータや、実証に参加したOpenStreetのシェアサイクルデータといったものです。1時間ごとの人口密度を把握できる『モバイル空間統計』は今回、初めて購入したデータでしたね。目的地としてどこが人気なのか調べるため、地名のSNS検索もしました」

データからハブ設置場所候補を9つに絞り、最終的に3カ所で実証

データからハブ設置場所候補を9つに絞り、最終的に3カ所で実証



「実証が始まってからはハブに置いたシェアモビリティや3カ所を走るAIオンデマンドバスの利用記録を、OpenStreetやバスを運行する南海バス、南海電気鉄道からいただき、ODデータを分析しました。ハブ別の利用数が事前の予想に反して増減した原因の振り返りや、今後の立地選定に分析結果を使っています」

各モビリティの利用軌跡

各モビリティの利用軌跡



――それらのデータをどんな方法で集めたのでしょう?
「もともとどこを見ればあるのか知識として知っていたデータを、目的に合わせて調べる感じでした」

――JMDSを使っての感想や課題感はいかがですか? モビリティのデータに詳しくない人がデータを集めるには何が必要と思いますか。
「まず、データがJMDSという一つの場でカタログに整理されていて、自分が知らずにいたものと出会える可能性があるというのを非常に魅力に感じます。データの数はどんどん増えていくと思うので、例えば『堺市のバスデータ』などエリア別、市町村別に整理されたり、複数のデータを組み合わせたユースケース紹介があったりすると、利用者の母数が広がるのかなと思いますね。また、モビリティの利用データがプライバシー処理を施した上で提供されたり有償データやデータ分析の単価も分かりやすかったりするといいなと感じます」

2025年度実証でバリアフリー経路提案へ

――2025年度も実証を行うそうですね。今回の成果を踏まえて、どんなことを考えているか教えてください。
「利用データの分析からルートって利用者の安全性にも関係して、とても大事だなというのが分かりまして、歩道が整備されているか、歩行支援モビリティでも動きやすいかといった整備状況を調べようと計画しています。モビリティの利用データを元に、自動物流ロボット実証のデータも組み合わせて歩行支援モビリティのルート提案機能を考えています」

――モビリティハブ実装に向けての課題や取り組みも教えていただけますか。
「3カ月の実証期間に対して泉北ぷらっとの認知度は高いなという印象です。ただ、実際にモビリティを利用した人の数は少ないので、長く続けて定着させることが重要だなと思いますね。堺市がモビリティハブ拡大を目指す中で、AMANEも引き続き協力していきます。同時に立ち上げ支援や運営の手法を地域の事業者と共有し、地域で持続させる仕組みづくりにも着手したところです」

データ裏付けで「人集まる・持続可能なハブ」へ 堺市 久保氏

堺市では、モビリティハブ実装と、スマートシティ構築のためにどんなデータを必要としているのだろう? 久保氏に聞いた。

――泉北ぷらっと実証について、「こんなデータがあるといいな」はありましたか?
「まずAMANE齊藤さんにいろいろ調べていただき、事前に効果の見える化ができたおかげで市役所内の意思決定がスムーズだったと感じています。欲しかったものでいうと、人流や交通量が例えば実証1年前の2023年11月、12月や、コロナ禍の2年前、3年前、その前後と比較したらどうなのか知りたいなとの思いはありますね。また、団地内のモビリティハブに来る方が団地の住民かそうでないかをデータで裏付けられるといいなと個人的に感じているところです」
「団地の外にお住まいの方がモビリティ利用のために来て、またどこへ行くかが分かると、今後の実証も自信をもって進められるかなと。また、人流が増える時間帯や人の年齢層が分かるとハブに誘導する方法も見えて、人が集まると分かれば市によるPR含め注力しやすいなと思います」

堺市 泉北ニューデザイン推進室 スマートシティ担当 久保徳章氏

堺市 泉北ニューデザイン推進室 スマートシティ担当 久保徳章氏



――モビリティハブ設置に当たって土地探しや土地所有者、事業者との調整に市がたいへん力を尽くしてくれたと聞いています。そのあたりの苦労や必要なデータはありましたか?
「土地で言いますと、駐車場の有無、オンデマンドバスやキッチンカー、大きめの車両が入れる広さか、車止めはないか、電源をとることが可能なのかなど細かい話ですが、いっぱいあります。また、バリアフリーされていない場所も意外と多くて突然階段が現れたり、歩道が狭くなったりを調べるにもデータがあると楽になると個人的に思いますね」

――今回の3カ所以外にもモビリティハブを広げ、地域の手で運営したい構想と聞いています。今お考えの内容を伺えますか。
「どこにつくるか実証の結果を分析して予測を立て、よりよいところに広げて定着を図っていきます。皆さまにお力添えをいただいて人が集まる場所、マネタイズができるからこそ持続可能なハブになればと考えています。歩行支援モビリティのシェアリング実装や、飲食に物販、それ以外の様々な生活サービスが身近な場所でモビリィによって提供されることで、泉北での暮らしがより豊かに愉しくなればと思います」

キッチンカーだけでなくさまざまな移動サービスが集まるハブを目指す

キッチンカーだけでなくさまざまな移動サービスが集まるハブを目指す



公民データ連携、JMDSの強いデータスペース化に期待

――ハブとデータの関係ではいかがでしょう?
「鉄道、駅を基点に循環する路線バス、タクシー、既存の公共交通とモビリティの組み合わせについてエビデンスがほしいなと思います。モビリティハブができたことで市民の外出頻度が上がり、乗り換えで公共交通の利用も増えたという結果が出るのが一番ですので。OD調査やパーソントリップとかそういうものが数年分、さっと出てくると作業しやすくJMDSに期待したいところです」

――自治体のデータ活用の課題と感じていることを伺えますか。
「堺市がモビリティハブ、スマートシティに取り組む理由は明確に二つありまして一つが地域課題の解決、もう一つが都市の魅力向上です。どちらの目的でも、やっぱりデータを使うことでより説得力があり精度の高い予測が立てられるでしょう。ただ、私達もデータの分析や活用について弱い部分があるので、こんなデータが世の中にあるという基礎的なところから、データを組み合わせた活用方法など事業者の方々と連携できると、堺市に限らず、どの自治体もうれしいんじゃないかなと」

――JMDSはそうしたデータを利用する人、提供する人を結びつける場も目指しています。データの利用について伺ってきましたが、自治体から提供することも考えられますか?
「自治体は、例えば、住所『町丁』ごとの年齢別人口といった細かい統計情報を公開しています。また、市役所内部には『これ実は役に立つのでは?』という情報が非常にセンシティブなものも含めて蓄積していると思います。こういったデータの活用は、非常に高いハードルがありますが、大阪府が『大阪広域データ連携基盤(ORDEN)』にいろいろな情報を民間事業者のものも含めて入れようとしています。ORDENや日本全国のいろいろな基盤とJMDSが総合的につながると強力なデータスペースになるのでは?と、個人的に感じています」

Japan Mobility Data Spaceの詳細は
こちらを参照

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