商用EVの夜間充電問題を解決!ニチコンの「巡回充電」がフリート管理の未来を拓く【JMS2025】
2025/11/26(水)
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、物流や公共交通の分野でEV(電気自動車)へのシフトが加速している。しかし、その裏側で事業者は「多数の車両を、限られた時間と設備でいかに効率よく充電するか」という大きな課題に直面している。
この難問に対し、ニチコン株式会社がJAPAN MOBILITY SHOW 2025で披露したのが、商用EVフリート向け「サイクリックマルチ充電器」だ。その先進性と課題解決への貢献度は高く評価され、2025年度グッドデザイン賞を受賞している。
今回は単なる充電器に留まらない、コスト、スペース、運用管理の課題を総合的に解決する革新的なソリューションの全貌について広報部長の武田旬平(たけだ じゅんぺい)氏に話を聞いた。
この難問に対し、ニチコン株式会社がJAPAN MOBILITY SHOW 2025で披露したのが、商用EVフリート向け「サイクリックマルチ充電器」だ。その先進性と課題解決への貢献度は高く評価され、2025年度グッドデザイン賞を受賞している。
今回は単なる充電器に留まらない、コスト、スペース、運用管理の課題を総合的に解決する革新的なソリューションの全貌について広報部長の武田旬平(たけだ じゅんぺい)氏に話を聞いた。
商用EV普及の裏に潜む「充電インフラ」という大きな壁
路線バスや配送トラック、タクシーといった商用車は、日中の稼働を終えた夜間に営業所へ戻り、翌朝の始業までに充電を完了させる必要がある。しかし、保有する全車両分の充電器を設置するには、莫大な設備投資と広大な設置スペースが必要となる。さらに、多数の充電器を同時に稼働させれば契約電力(デマンド)が跳ね上がり、毎月の電力基本料金が経営を圧迫しかねない。運用面での課題も深刻だ。武田氏は「営業車は夜、人がいない時に充電し、朝には完了して出ていくのが理想です。しかし、夜間に何らかのトラブルで充電できておらず、朝になってその事実に気づく。これが事業者にとって一番困ることなのです」と、現場が抱える切実なリスクを指摘する。無人の営業所では、この「未充電リスク」が常に付きまとう。
さらに、もう一つの課題が「騒音」だ。武田氏は次のように解説する。「急速充電器は効率が97%あっても、残りの3%は熱になります。例えば100kWなら3kW、つまり3000Wもの熱が常時発生します。これを冷やすためにファンが常に回り、その風切り音はかなり大きい。バスが50台ずらっと並ぶような場所で一斉に稼働すれば、騒音のクレームにつながってしまうのです」。
ニチコンの答えは「巡回充電」- サイクリックマルチ充電器とは
これらの複合的な課題に対し、ニチコンの提示した解決策が「サイクリックマルチ充電器」だ。そのコンセプトは「1台のパワーユニットで、最大6台のEVを賢く順次充電する」というもの。これにより、設備コストと電力ピークを抑制できる。
核となるのが「サイクリック(巡回)充電」という仕組みだ。武田氏は「1台の電源で、1台あたり15分くらいずつ順番に充電していきます。これを繰り返すことで、朝までには全車が充電できている状態を作る。これがサイクリック充電です」と、その仕組みをシンプルに説明する。
さらに特筆すべきは、充電の順番にある。車両の充電順位は営業所に到着した順ではない。「一番充電量が少ない車両から充電を開始します。後から来た車両でも、バッテリー残量が少なければそちらを優先する。充電の順番は到着順ではない、というのがポイントです」と武田氏はいう。システムが各車両のバッテリー残量(SOC)を常に監視し、最も充電を必要とする車両からインテリジェントに充電を行う。これにより、充電効率を最大化し、未充電の事態を予防できる。
無人運用を支える遠隔監視とデータ活用
夜間無人運用における管理者の不安を払拭するため、サイクリックマルチ充電器は高度な遠隔監視機能を備えている。管理者はオフィスや自宅から、PCやスマートフォンの画面で全車両の充電状況をリアルタイムに確認できる。
「もしエラーが起きたら、管理者のスマホに通知が届きます」と、武田氏が語るように、充電コネクタの接続不良や機器の異常といったトラブルが発生した際には、即座にアラートが送信される。これにより、問題の早期発見と対応が可能となり、翌朝の安定した車両運行を強力にバックアップする。
さらに、ニチコンのソリューションは充電して終わりではない。「クラウドでどの車がどれだけ充電し、どれだけ走ったかを収集しています。いわゆる“電費”がわかるように、これまでディーゼル車で行ってきた燃費管理に相当する電気版の管理システムを提供しています」と武田氏が説明するように、データに基づいた科学的なフリート管理を実現する。
現場の悩みに寄り添う設計思想と、グッドデザイン賞の評価
ニチコンは、営業所が抱える物理的な制約にも配慮している。「充電器を置く場所が非常に限られている」という現場の声に応え、パワーユニット(電源部)と充電ポート(操作部)が分離できる設計を採用。騒音や発熱の源となるパワーユニットを駐車スペースから離れた場所に集約し、コンパクトな充電ポートだけを引き回して配置することが可能だ。「これにより、狭小な敷地でも導入しやすく、車両の動線を妨げない柔軟なレイアウトが実現できます」と武田氏はその利点を強調する。
この徹底したユーザー視点の設計思想は、外部からも高く評価されている。2025年度にはグッドデザイン賞を受賞。パワーユニットと充電ポートの分離構造は、設置の自由度を高める点が評価ポイントだ。また、誰もが直感的に操作できる使いやすさも、商用EVの普及という社会課題の解決に貢献する優れたデザインであると認められた。機能性だけでなく、使いやすさと社会性まで考慮された設計が、この製品の大きな価値となっている。
DC統合が生み出す未来のエネルギーマネジメント
このソリューションの背景には、ニチコンが一貫して追求してきた「DC(直流)統合」という思想がある。「太陽光で発電する電気は直流、それを蓄電池やEVに貯めるのも直流です。ですから、全て直流でつなぎ、最後に事業所で使う時だけAC(交流)に変換する。変換を1回にすることで、エネルギー効率の低下を最小限に抑えられます」と武田氏。この技術は、産業用の太陽光発電・蓄電連携システムや、家庭用「トライブリッド蓄電システム」にも共通するニチコンのコア技術だ。さらに、蓄えた電力をEVから建物に供給するV2X(Vehicle to X)機能を活用すれば、災害時の非常用電源として活躍。停電しても事業を止めない、災害に強い体制づくりに貢献できる。
取材を終えて
ニチコンの「サイクリックマルチ充電器」は、単にEVを充電する装置ではない。それは、商用EVフリート事業者が直面するコスト、スペース、運用、そして環境という複合的な課題を解決する統合ソリューションだ。また、これらは仕組化された制御とデータ活用、そして現場に寄り添う柔軟な設計によって稼働する。EVシフトという大きな変革期において、持続可能な物流・公共交通の未来を支える、まさに縁の下の力持ちと言えるだろう。
取材・文/LIGARE記者 松永つむじ






