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自動運転にはどんな性能が必要?─自動運転を評価する試験場「Jtown」

2017/5/4(木)

「Jtown」全景

 
日本自動車研究所(JARI)は3月28日、国内初のたる自動運転の評価拠点「Jtown」を公開した。

4月1日から正式に運用が開始し、研究開発や自動運転の標準化の取り組みを世界に先駆けて行おうとしている。

 
Jtown設立の背景と目的
日本自動車研究所(以下、JARI)は、つくば市研究学園に自動運転評価拠点「Jtown」を設立した。もともとJARIは2006年に衝突実験場と模擬市街路を整備しており、そこでITSや予防安全の研究開発を行ってきた。

今回は、この模擬市街路を拡充する形で「多目的市街地」「V2X市街地」を整備、さらに「特異環境試験場」を新たに整備。さまざまな環境下で自動運転の性能評価を行うことが可能となっている。

本施設は、経済産業省の平成28年度補助事業である「自動走行システム評価拠点整備事業」として採択され、15億円の補助を受け総額22.5億円で設立された。

今回の発表にあたりJARIの代表理事 研究所長である永井正夫氏は「1969年に正式に財団法人として創立され、2019年はちょうど50周年。世の中まさに自動運転時代の幕開けのようになっており注目されている。

2、3年前からユーザーの声として自動運転の評価ができないかという話が出てきている。政府の活動としても自動走行ビジネス検討会やSIPが起ち上がり自動運転評価拠点の必要性が出てきた」と、施設の設立背景と必要性を述べた。

 
雨や霧など特異環境下での性能評価「特異環境試験場」
今回注目すべきは新設された「特異環境試験場」だ。自動運転車はもちろん、通常の自動車と同様に夜間や雨・霧といった環境下でも走行しなければならない。その際にシステムが正常に作動するかどうか試験を行う場所が必要になる。この「特異環境試験場」は全長200メートルにわたる走行路で、日光を遮蔽し暗闇を再現できる。施設内には信号機や標識、人形などが設置され、実際の走行環境に似た環境を再現している。

この暗闇の中で、日照設備のデモが行われた。この装置は照度20000ルクス以上の光を照射することが可能で、色温度も変更でき、朝日や夕日など、さまざまな状況の日射を再現できる。また、試験場内の照明設備自体も照度をさまざまなに変更でき、夜間から薄暮までの明るさを再現することが可能になっている。

 

日照設備のデモ。日光を遮断した状態で装置から光を照射した状態。朝日や夕日などの表現ができる上に、20000ルクスという強い光を照射することができる。

 
次に霧発生設備のデモが行われた。この設備では、視程が15メートルのかなり濃い霧まで再現することができる。霧の粒径も細かく、ほとんど実際に起こる霧を再現しているといっても良いほどだ。

 

霧が発生した状況を再現している。視程が15メートルほどの濃霧を発生することができる。

 
続いて降雨のテストが行われた。施設上部に設置された装置から雨滴が射出され、30mm/h、50mm/h、80mm/hと「強い雨」~「非常に激しい雨」の3段階の強さの調節ができる。路面に水たまりができれば、光の反射の再現も可能となる。

このような装置を組み合わせることによって、霧の中の照明や、逆光での障害物認識、降雨中の信号認識など、多種多様な環境下で自動運転自動車が周辺環境を認識できるかどうかテストすることが可能となる。

 

特異環境試験場で雨天環境を再現した様子。3段階で雨の強さを調節でき、今回は車両2台と信号機、標識、横断する歩行者を設置している。水たまりの反射も再現できる。

 
路車間協調の試験が可能な「V2X市街地」
旧模擬市街路を使って整備された試験場の1つが「V2X市街地」だ。片側2車線、全長400メートルの道路に、交差点が4カ所設置されている。交差点では、信号制御装置、路側無線機(760MHz)、歩行者・自動車センサーが整備され、コース手前には光ビーコンも設置されている。主な用途は、インフラ協調型安全運転支援システムと、グリーンウェーブ走行支援システムだ。

インフラ協調型安全運転支援システムでは、一時停止などの規制情報や信号情報を車両に対して提供することができる。また、右折時に死角となる場所に車両や歩行者がいる場合、無線によりアラートすることができる。

グリーンウェーブ走行支援システムは、現地でのデモを見ることができた。これは、光ビーコンを利用して、各交差点を青信号で通過するために必要な速度を車両に通知するものだ。この他にも、V2X市街地では、一番近い信号と、次の信号が同時に見えたときにきちんと認識できるかどうか、また矢印信号を認識できるかどうかなどの試験を行うことができる。

 
V2X市街地の様子。交差点ごとに信号機が設置されており、通信することで連動して作動することができる。写真中央下の装置に光ビーコンが設置してあり、車両の通過状況を読み取り、グリーンウェーブ走行支援の実験を行うことができる。

 
必要に応じて道を変更できる「多目的市街地」
旧模擬市街路を利用した2つ目の試験場が「多目的市街地」だ。一番の特徴は、コースの真ん中に100メートル四方のアスファルトの広場があることだ。ここに、移動式の白線や縁石、障害物を自由に配置することで、さまざまな市街地の状況を再現することができる。利用目的に応じてY字路、変速交差点、合流、ラウンドアバウトなどの交差点に変えられる。

<img06>多目的市街路の様子。大きなスクエアのゾーンが広がり、そこに交差点やラウンドアバウトなど、実験に必要な道路を再現できる。

<img07>白線は写真中央上のような移動可能なものとなっている。

また、この多目的市街地にはデジタルマップが整備されており、コースに工事など特異な状況をつくり出し、デジタルマップとのずれの評価を行うこともできる。

 
自動運転の標準化に貢献
このような自動運転を評価する施設は日本では初めてで、世界でもアメリカ・ミシガン大学のUMTRIなど、あまり数は多くない。世界に先駆けて自動運転の標準化を進めていこうという思惑があるようだ。

「JtownのJは、JARIの施設であると同時に、All-Japanの意味を込めている。オールジャパンで自動運転の評価拠点を盛り上げていきたい。評価拠点の使い方は大きく分けて2つある。
1つはメーカー、サプライヤ、ベンチャー企業、または大学などとJARIの共同研究を行い、産学連携の拠点にしていきたい。一方、JARIは自動車業界の中立機関なので、日米欧共通の自動運転の試験方法・評価方法を先導してやっていく拠点にしたい。標準化に関わるルール作りに貢献していきたい」と永井氏は最後に語った。

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