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自動運転の国際的なルール作り 日米欧の自動運転の普及と標準化が焦点

2017/3/3(金)

自動運転の国際的なルール作りについてのシンポジウムが、2017年2月24日(金)に芝浦工業大学豊洲キャンパスにて行われた。その中で、「自動運転の国際ルールの今後について」というテーマでパネルディスカッションが行われた。モデレーターは、河合英直氏(自動運転基準化研究所所長)で、パネラーは、Bernard Frost氏(イギリス運輸省、WP29GRRF議長)、Chan D. Lieu氏(元NHTSA Senior Professional Staff)、久保田秀暢氏(国土交通省自動車局技術政策課国際業務室長)、中野裕二氏(経済産業省産業技術環境局国際標準課統括基準認証推進官)、横山利夫氏(日本自動車工業会自動運転検討会主査)の5名。日米欧の自動運転車普及に向けた取り組みと、国際的な標準作りについての議論を紹介する。


国際的な基準作りには何が必要か
河合:はじめに、リウ氏へ質問です。NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)のガイドラインの要件の中で、今後国際的な基準として整備が必要となる項目はどれか、また、どのような項目から標準化、国際基準化というものを進めていくのがよいと考えていますか?

 
リウ:衝突安全や事故後の対応は検討できると思います。根本的なところでは、ODT(Operation Design Domain)、OEDR(Object Event Detection & Response)、オブジェクトディテクション、イベントディテクション、それから認識といったものが基本的な点になってくると思います。これによってシステムの限界がどうなるかが分かっていきます。
課題としては、アメリカでは自己認証(メーカーの方が既存の安全の規格に合わせて認証するということ)、その他の地域では型式の認証のシステムが用いられているので、この2つのアプローチについて、どのように規制のあり方を調和するかということが挙げられます。

 
フロスト:ハーモナイゼーションが進めば自己認証も型式認証も扱うことができます。これを進めるためには、全ての政府と話し合いながら、いろいろなところの相違を合致させなければいけません。共通認識に基づいて、課題を乗り超えていけると思っています。そうできれば、比較的容易にどんな規制も関係なく要件をまとめられるのではないかと思っています。

 
久保田: 2016年9月のG7の会議では、自己認証方式のアメリカ、カナダや、政府認証の欧州や日本が出席しています。そこで共通の認識として、自動運転について一番大事なことはみんなで情報共有し、同じ認識の下で何が大事かを考えようということが言われました。認証の方法の違い以前に、まず自動運転とは何なのか、何を懸念しているのかなど、考えていることを箱の中に入れて、その中身について共通認識を持つことが大事だと思います。レベル2の基準作りは始まっていますが、レベル3、4では、まず箱の中に物を入れて、それを共通認識として、どのように整理しようと考えるフェーズだと思っています。レベル3以上については問題点の共通認識を持つことがスタートラインです。

 
横山:世界で共通認識を持つということは、その通りだと思います。単にレベル3,4,5だけで議論するのではなく、使われる場所や人、その人の置かれている環境を総合的に判断し、どういった自動走行システムが、どういった場所でどういった使われ方に適しているか議論することで問題点がはっきりするのではないかと思います。

 
リウ:アメリカでは、UBER、百度(Baidu)、テスラなどいろいろな企業が実験を行っています。自己認証という制度があるので、こうしたメーカーの頭の中には「車両が安全基準を満たしてさえいればいい」という考え方があるようです。最先端のシステムがアメリカで展開されていますが、標準や基準以前だったのです。これがある意味、アメリカの政府にとってはプレッシャーになっています。メーカーが政府の規制を受けずに展開できるかどうか、こういった展開・試験からどういった学習ができるか、そしてそれをもとに長期的な提案を行い、法的な形でアメリカの道路において規制ができるかということを考えていかなければなりません。

 
技術の発展を阻害しない基準作りへ
河合:技術的にはレベル3,4,5と高度なものが出てくるときに、規制していくのか、メーカーの自由な開発に任せるのかは大きなポイントです。メーカーの開発の促進もしくはサポートという点に対して、標準化がどのように貢献していくのか、また将来的な基準化についてどのように連携していくべきか意見ありますでしょうか。

 
中野:新技術に関しては、基準と標準は非常に近いと思います。技術の発展を止めないように標準を作ろうとすると、性能標準を決めて、実際にどのような技術でそれを達成するかは技術の発展に任せるという形がよいと思います。

 
横山:安全要件は、機能要件として必要だと思います。ただし、その要件をどういった技術で達成するかはまだ技術が開発途上で、成熟していない場合はいろいろな方法論があるので、いくつかの選択肢が自由に選べるような環境が望ましいと思います。技術が成熟してしまえば1つに収束するので、そのときに標準化することでコストパフォーマンスのいいシステムになるという流れだと思います。

 
久保田:技術の進展を阻害しないということは一番大事だと思っています。基準作りは、その道筋をガイダンスするという意味が1つあります。それだけでなく、安全を考えることも必要です。日本では、ハンドルやアクセルペダル、ブレーキペダルのないクルマに対し規制を緩和する枠組みを持っており、クルマに対する一般的な規制と特別なクルマに適応される規制を組み合わせて規制を作るというアプローチをとっています。

 
 
新たなる脅威への対抗策:サイバーセキュリティー
河合:レベル3以上の自動運転が現れると、安全基準の考え方も新しくしなければならないと思いますが、それについてはどうお考えでしょうか。

 
久保田:典型的なものはサイバーセキュリティーです。衝突安全もその1つかもしれません。人が運転しないとことになると、遠隔操作でテロなどにならないような対策が非常に大事になります。その段階に至るためには、法的な整備、事故が起きた場合に誰の責任になるのかということと当然セットで考えていかないといけません。

 
リウ:現在、アメリカでもこの議論が展開されており、2年前にAuto-ISEC(Information Sharing and Analysis Center)という組織ができました。たくさんのサイバー攻撃にさらされている金融業界が開始したものですが、以降の安全のために情報共有をしようという趣旨です。最近では自動車業界でも情報共有が行われ始めています。課題は、業界全体で文化の問題、信頼関係を乗り越えて情報共有ができない可能性があるということです。サイバー攻撃の脅威は業界全体に対する外からの脅威です。部品・ソフトウェアが共通であれば各社が同じ脅威にさらされてしまうので、マインドセットの変革が必要になります。
 
中野:サイバーセキュリティーの問題はISOでも議論されています。ISO 2700シリーズは、ITのサイバーセキュリティーが基本的にそれぞれの分野でも使われるというものであり、プロセスとマネジメントを標準化しています。現在、SAEとISOの共同提案で、プロセスとマネジメントが自動運転に適応できるように議論が進んでいます。

 
フロスト:深刻な脅威は悪意のあるプログラムが自動車に害を加えることであり、基準化・標準化団体が動的にこれに対応していかなければなりません。自動車メーカーとシステム開発者に新しい責任が生まれ、数百万台のアップデートを必要とした場合、迅速に行うにはOver the air updateを考えなければなりません。基準の観点からベストプラクティスをサーバーのレジリエンスを何らかの形でソフトウェア開発の標準としていく必要があると思われます。実際にすべてのセクターがこのリスクを考え始めているのは嬉しいことです。
 
自動運転が社会に与えるインパクト
河合:今後カーシェアリング・ライドシェアが普及していくと考えられますが、これに対して自動運転車が与えるインパクトと、職業ドライバーの雇用に与える影響はどのようにお考えですか。

 
久保田:まず、ライドシェアと自動運転の関係は、非常に親和性が高いと思います。究極の自動運転車になると、クルマの所有は必要なくなるかもしれません。日本では高齢社会が進行し、労働者不足の問題も自動運転が解決の一助になるという期待が高まっています。ただし、10年や20年でそんな世界が来るとは思いません。今は将来を見据えて現状をより良くするという方向で一致するのが良いのではないかと考えています。

 
中野:完全自動運転車が出た場合、クルマを所有しなくてよいという話がありましたが、今はそこまで至らない段階です。ある程度自動運転車ができた場合、今働いている職業ドライバーの仕事を奪うのではなく、逆に赤字で今までやっていないようなところに自動運転車が入っていき、利便性が上がるのではないかと考えています。

 
リウ:ライドシェアは世界中でも人気が出ていますが、2020年にはライドシェアの40%が自動運転車になると言う人もいますが、それは野心的なスケジュールだと思います。ライドシェアが自動運転になると経済的に魅力的ですが、個人所有を考えると94~95%が稼働率が低いです。これに投資することで、都市部の稼働率を上げればたくさんの人にサービスを提供できると思います。また、アメリカでは300万人がドライバー雇用です。自動化は自動車業界だけでなく破壊的な影響を及ぼします。再教育・再雇用も考えなければいけないかもしれません。

 
 
自動運転のレベルの違いと、完全自動運転車の未来
 
河合:ヨーロッパやアメリカでは、レベル2と3の区別についてどうお考えでしょうか。

 
リウ:レベル2はすでに量産体制に入れます。大きな違いは、レベル2はドライバーが常にコントロールをしなければならないことです。足をペダルに乗せたり、ハンドルを握っていたりしなくてもいいですが、どの段階でもコントロールできないといけないということで、この期待度がレベル3ではかなり低いです。ドライバーは居眠りなどやほかのことをしても大丈夫、警告があった時に対応できれば大丈夫ということになっています。

 
フロスト:レベル2と3の違いは、やはりドライビングを誰がモニタリングをするかということでしょう。レベル3ではシステムが、レベル2ではドライバーが運転を監視します。ただし、これが市場に出たとき「ドライバーは運転中に別のことができます」という売り文句になるでしょう。しかし、クルマが急なことに対応できないかもしれません。高速で走行するクルマでは、ドライバーが気付くころにはもう事故が起こっているとも考えられます。その辺りを真剣に考えなければいけません。

 
久保田:レベル3とはそもそも何なのか分かっていないところもあります。SAEの定義では、ドライバーはフォールバックであり、技術的にはレベル4より難しいところも有ると思います。レベル3とは何なのか、技術的な部分を固めることとあわせて議論する必要があると思います。

 
河合:それでは最後に、レベル4や5の自動運転車が出てきた場合、どのような方法で社会に導入していこうと考えるのか、また、一般に自動運転車が出てくるのはいつごろになると思うか教えてください。

 
横山:レベル5の実現であれば、少なくとも私が生きている間は難しいという気はします。レベル5の実用化のあり方は、場所や使用状況を限定したりした使われ方で出現するかもしれないです。それは、エリア限定のカーシェアか無人タクシーと言われているようなものかもしれない。ただ、お客様が新しい移動サービスを選んでくれるかどうかは、実証実験などをした結果でないと予測ができないと思います。

 
中野:社会への導入のされ方は、まずは人件費が問題となっているところに導入されていくのではないかと思います。いつごろかというと、限定エリアでは、2020年ごろだと思います。

 
リウ:レベル4は5~7年のうちに実現すると思います。おそらく中国が最初に導入されると思います。都市部は人口密度が高く、環境問題も深刻で、レベル4の自動運転が必要な場所だと思います。また、中央政府も法制化することに積極的です。アメリカでは主要都市などに限定されています。

 
フロスト:レベル5は私の生きているうちは見られないと思います。レベル4はいろいろなガイダンスがこれまでも出ていて、個人を輸送する手段として、都市部であり得ると思いますし、5年以内には出てくると思います。カーシェアについては、違う考え方を持っています。ロンドンでカーシェアの実証が行われましたが、一人ひとり乗りたいという意見が多かった。したがって個人個人が移動手段として使うということが最初に起こると思います。いろいろなシナリオが5~7年で出てくると思います。

 
久保田:基本的に、皆さんレベル5を目指しているんだと思います。ただ、アプローチの仕方が違います。レベル4の限定エリアを少しずつ広げてレベル5に近づけていく方法と、一般道でレベル2を行い、信頼性を上げていくという方法があります。ただ、私が生きている間にレベル5の社会はこないと思います。それまでの間はレベル2,3や限定的なレベル4という社会になるので、その中でわれわれがいかにレギュラトリープログラムを組んでいくのかが大事です。日本の国内だとレベル4、5がフォーカスされがちですが、それと同じぐらいレベル2の取り組みが大事になると思っています。それについて、他の方々はどう考えていますか。

 
リウ:NHTSAの考えでは、レベル2はすでに配備されています。レベル4、5へフォーカスしているかというと、政策的な観点から言って、政策の課題を乗り越えることができればレベル2,3も同じ効果があると考えているからです。レベル4,5の課題を解決できれば2,3の課題も解決できるということです。

 
フロスト:イギリス政府の観点からすると、全ての技術に対して開かれているので、どんな技術であろうと心を閉ざすということはありません。現在、試験・実験が行われていますが、それが正しいアプローチだと思います。政府があれこれ言うのではなく、業界が決定・展開していくのが政府の立場です。イギリスでこれを可能にしていくのが私たちの政策です。いろいろな機能・レベルのものが実証されています。エンジニアリング・一般の方も関与するものであり、どの程度のものが受け入れ可能なのかということもそれにより分かってきています。

 
河合:ありがとうございました。最後にまとめさせていただきます。自動運転技術は非常に早く進化しています。この技術の進歩に遅れることなく、より良い国際基準を速やかに作っていけるように、ということが自動運転車両の安全な普及につながっていくだろうというのがわれわれの思いです。それに対してどのように対処していくのか、各ステークホルダーが情報共有して、問題に対する共通認識を持ちながら、今後も自動運転技術の正しい進歩に対する道筋をガイドできる方向で基準・標準の検討を進めていければ良いと考えています。

 

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