普及するEVバスと急速充電オペレーションの課題
2025/5/28(水)
EVバスを導入する事業者が増える一方で、問題の一つとして浮上しているのが、急速充電器の設置についてだ。飲料の自動販売機ほどの大きさの充電器を複数台設置するスペースなどオペレーション面の対応が課題に挙がっている。
省エネ法で進むEV導入、充電器設置と駐車の課題
バス急速充電の現場に詳しいテラチャージの田所仰氏は、バス事業者が抱える課題について話す。まずは設置場所。夜間のバス営業所では、1日の運行を終え、戻ってきたバス車両が、限られた駐車場に隙間なく並ぶ。スペースに余裕がなく、充電器の設置場所は営業所の隅になってしまう。バスの急速充電器の設置には、出力50キロワット以上で1辺1メートル弱の広さが必要。隅に充電器を置いても、車両を充電器の少し前に駐車する必要が出てくるという。また、充電器の冷却ファンの音が騒音だとして近隣の住宅から苦情が出て、訴訟問題になり、バス業界でも話題となったほどだという。EVバス導入が進む背景には、改正省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)に基づき、200両以上のバスを保有する「特定輸送事業者」に非化石エネルギー自動車の入れ替え目標が課せられていることがある。法律は2030年度までに保有車両の5%を目安に更新する中長期計画の作成を事業者に義務づけるものだ。半面、BEV、PHEV、FCVなど電動車両や充電設備の導入支援が行われている。
首都圏バス営業所の限られたスペース
横浜市西区に本社を置く京浜急行バス(以下、京急バス)は約800両の路線バスを保有し、神奈川県内の各地東京都南部の臨海部で運行している。同社が構える営業所は神奈川県内に9カ所、都内2カ所。バス事業統括部整備課課長の山下和彦氏は改正省エネ法に基づき、40両をEVやFCVに入れ替える計画だと話す。2024年度はいすゞ自動車のエルガEVを2両、BYDの大型EVバス、K8を3両、FCVを4両の合計9両を導入。それ以前には、試しにBYDを小型、大型各2両の計4両を導入した。山下氏によると、EVバスは走行音が小さく、加速がスムーズで乗客やドライバーからの反応は良好。一方で、首都園の狭い営業所で充電器の設置場所を確保するには非常に悩んだという。
そこで、充電器の問題を解消するよいものがないかとBYDに相談したところ、ニチコンを紹介してもらった。設置場所の問題を解消し、独自の電力マネジメント方法により消費電力を抑えたり、充電量を容易に管理できたりするサイクリック充電器をこのときに知ったと山下氏は振り返る。
ニチコンはサイクリック充電器を2025年7月に発売予定だが、京急バスは先行導入というかたちで今年2月末、3基を購入した。
それまで使っていた充電器は「大きくて邪魔」「ケーブルが人の腕ほども太く、重い」といった不満がドライバーから寄せられていた。対してサイクリック充電器に関しては現状、不満は聞こえないという。ケーブルが乗用車の急速充電器並みに軽く、乗務員の負担が少ないためではと山下氏は推測する。
輪番充電で電力のピーク時間帯を回避、電気代を抑制
ニチコンのNECST事業本部ビジネスユニット長の津野眞仁氏にサイクリック充電器の開発経緯を聞いた。――バスやトラックなど事業者向けの急速充電器を開発した経緯を伺えますか?
これまでは高速道路のサービスエリア向け急速充電器の開発や販売が中心でした。2年ほど前からバスやトラックの事業者様から急速充電器の引き合いが増え、スペースや導入予算、複数台を並べて充電しなければいけないなどの制約があるという声を多く頂きました。そこでEVバスやラストマイル配送トラック向けの急速充電器を開発しました。
――サイクリック充電器と従来型の充電器の違いは何ですか?
スペースや騒音の問題を解消するために、電源盤、スイッチャーボックス、ディスペンサーが一体となっている従来構造を見直し、それぞれを分割して設置できるようにしました。
また、1基の充電器から複数のディスペンサーを車両複数台につなぎ、輪番(サイクリック)で充電の切り替えをすることで、電力需要のピーク時を避けて充電し、電力コストを抑制できるようにしました。
さらに、充電器の稼働状況を直感的に把握できるインターフェースや充電履歴を簡単にダウンロードできるようにしています。
国内には弊社を含めて4社の大手充電器メーカーがあり、海外メーカーも参入してきていますが、サイクリックやセパレート型の充電器をEVバスやラストマイル配送の商用トラック向けに開発販売しているメーカーはないと思います。
(モビリティジャーナリスト楠田悦子)