「必要な場所、必要な人に車を」日本カーシェアリング協会の被災地支援
2024/2/8(木)
1月1日に最大震度7を記録した能登半島地震。現地では復旧作業が進む中、一つの問題となっているのが「移動の足」を確保することだ。復旧作業はもちろん、日々の暮らしにクルマが必要な場面は多々存在する。しかし、現状では深刻なクルマ不足に陥っているという。
そんな中、宮城県石巻市に本拠を置く(一社)日本カーシェアリング協会は、1月15日から被災地にクルマを無償で貸し出す支援を開始。続く18日には「廃⾞で被災地⽀援プロジェクト」の実施を発表した。
東日本大震災を機に活動を始めた同協会は、ここ数年頻発する地震・台風・豪雨などによる大規模災害の現場でもさまざまな支援を行ってきた。今回の震災ではどのような支援を進めていくのだろうか?
そんな中、宮城県石巻市に本拠を置く(一社)日本カーシェアリング協会は、1月15日から被災地にクルマを無償で貸し出す支援を開始。続く18日には「廃⾞で被災地⽀援プロジェクト」の実施を発表した。
東日本大震災を機に活動を始めた同協会は、ここ数年頻発する地震・台風・豪雨などによる大規模災害の現場でもさまざまな支援を行ってきた。今回の震災ではどのような支援を進めていくのだろうか?
「廃車で被災地支援プロジェクト」
日本カーシェアリング協会が実施する「廃⾞で被災地⽀援プロジェクト」は、希望者から廃車の寄付を募り、廃車・リサイクル処理の過程で得たパーツや資源の金額を協会への寄付金とする仕組みだ。寄付金は、協会が実施している車両の無償貸し出し支援の活動資金へと充てられる。協会によると、⾞検切れや故障⾞であっても寄付を受け付けるという。プロジェクトの実施は今年3月末まで。全国から集める目標台数は250台に設定し、1,000万円の活動資⾦を確保する方針だ。
日本カーシェアリング協会「廃車で被災地支援プロジェクト」
(同協会のWebサイトへと移動します)
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日本カーシェアリング協会が取り組む「3つの柱」
日本カーシェアリング協会は、宮城県⽯巻市を拠点とする⾮営利団体。東⽇本⼤震災で甚大な被害を受けた同地を中心に寄付で集めた車両を提供し、仮設住宅の住民による共同利用を支援する「コミュニティ・カーシェアリング」を行っている。もう一つの活動の柱が、「ソーシャル・カーサポート」と呼ばれる寄付車の貸し出し事業だ。レンタカーやカーリースの事業に属するこの事業の特徴は、「支援型」に特化している点が挙げられる。例えば、生活困窮者に低価格でクルマを貸し出し、さらに自治体の支援窓口とつなぐことで生活面の改善も支援している。また、資金が不足していたり、法人ローンを組めなかったり、さまざまな事情でクルマを所有するのが難しいNPOやボランティア団体も貸し出しの対象だ。
3つ目の柱が、被災地を支援する「モビリティ・レジリエンス」。この取り組みでは被災者を対象に、車両を無償で一定期間貸し出している。毎年のように地震や台風、豪雨などによる災害に見舞われる日本では、その重要度が日ごとに増している状況にある。今回の能登半島地震を受けて協会が開始した車両の貸し出し支援も、この「モビリティ・レジリエンス」に基づく取り組みだ。
現地で求められる「移動」に関する支援とは?
ここからは、日本カーシェアリング協会で事業部長を務める石渡賢大氏のインタビューをお届けする。石渡氏には、移動交通の視点から見た今回の震災の問題点や支援の進捗状況、協会だからこそできる被災地支援など、広範な内容を伺った。――今回の能登半島地震について、自動車や移動交通にフォーカスすると現状ではどんな問題点があるのでしょうか?
石渡氏:私たちが現場で活動して感じるのは、がれきの量が通常の災害と比べて桁違いに多いことです。がれきを撤去しないことには復旧が進みませんから、現状では貨物車両のニーズが極めて高い状況にあります。大きなトラックでは入れないエリアも多く、特に軽トラックを求める声が多く寄せられています。
また、能登半島は広大な上にクルマ社会で、クルマが生活の唯一の移動手段である人が多いと感じています。そうしたこの地域ならではの事情も影響して、車両の貸し出しを求める人が日に日に増加している状況です。
――現在のニーズはどのくらいの規模なのでしょうか?
石渡氏:2月6日時点で701件の貸し出し要請が届いていて、まだまだこれから増加する見込みです。ただ、クルマの被害に関する統計やデータが全く取られていないため、正確な被害状況を把握しきれていません。この点は、どの災害にも共通する課題でもあります。
――今後、二次避難や仮設住宅の建設が進むことで、ニーズの量も質も変わるでしょうか?
石渡氏:二次避難について言うと、「着の身着のままで移動して、移動先で交通手段がなくて困っている」という声は実際に届いています。また、仮設住宅への入居が進めばニーズは変わってくるでしょう。状況は刻一刻と動いていますから、なるべく柔軟に対応していくつもりです。
「廃車が被災地支援につながる」プロジェクトとは?
――今回のプロジェクトは、被災地支援の財源確保が目的だと伺いました。石渡氏:このたび始めた「廃車で被災地支援プロジェクト」には2つの大きな目的があります。おっしゃるように、1つの目的は能登半島で行っている車両の無償貸し出し支援の活動財源を確保することです。
やはり車を維持するためにはお金が必要です。例えば、貸し出すにあたって協会が保険を契約しますし、安全に乗っていただくためにはメンテナンスも欠かせません。また、現地へ車を運んだり、支援活動を行うスタッフを雇用したり、さまざまな費用が発生します。
――もう一つの目的とはなんでしょうか?
石渡氏:新たな寄付の選択肢を知ってもらうことです。今回の能登半島地震で心を痛めて「なんとか力になりたい」と考えている人は全国に大勢いると思います。とはいえ、すすんで寄付することが難しい人もいるのではないでしょうか。
――確かに、金銭的な余裕のない人が寄付をするのは難しいかもしれません。
石渡氏:だからこそ今回のプロジェクトを通じて、いらない車を手放すだけで被災地支援ができることを、一人でも多くの人に知ってもらいたいと考えています。特に2月から3月にかけては廃車が増える時期ですから。
――リリースに「どんな状態の車でも寄付できます」とありましたが、それこそ長年乗らずに放置されているようなクルマにも価値がつくのでしょうか?
石渡氏:今回のプロジェクトでは、クルマのリサイクルの専門業者と提携しています。使えるパーツは解体して再利用したり、それが無理でも鉄やアルミ、銅などに分けて素材として活用したりすることが可能です。たとえ道を走れない状態※であっても、クルマは資源の宝庫ですから問題ありません。
※例外として、廃棄物が積まれたクルマやローンが残っているクルマは引き取り不可。
――こちらのプロジェクトについて、現在の寄付状況はいかがでしょうか?
石渡氏:2月6日時点で71件の寄付希望が集まっています。このプロジェクトでは目標台数を250台としていて、現状ではまだまだ足りません。これから周知活動にも力を入れていく方針です。
――無償貸し出し支援に使用するクルマについては、どんな状況ですか?
石渡氏:現在の協会が保有する車両や、今回新たに貸し出し用として寄付していただいた車両を集めても、およそ100台が不足している状況です。現地のニーズや状況の変化を注視しながら、こちらの車両確保も並行して進めていきます。
「被災地で困っている人を直接支援」
――いろいろな意見があるものの、政府や自治体、企業による支援が次々に行われている状況です。その中で、この協会だからこそできる支援とはなんでしょうか?石渡氏:被災地で困っている人に向けて直接支援を届けることは、とても大きな意味があると考えています。「生活を維持するため、車をいち早く安く使いたい」というニーズが現地には必ずあります。そのニーズに応じて必要な場所、必要な人たちへと届けられることが私たちの強みです。
――今回の震災への支援はもちろんですが、今後の災害支援でもその強みを生かせる場面は増えそうですね。
石渡氏:今後の災害支援を見越して、すでに協会が取り組み始めていることがあります。「モビリティ・レジリエンス・アライアンス」つまり大規模災害時に支援を行うネットワークの構築です。
まず私たちの活動に賛同していただける企業・団体と、災害時の車両の提供や活動資金の援助などに関する協定を結びます。そして協会が個別に自治体と協定を結び、災害発生時に被災地のニーズに応じた迅速な支援を行う仕組みです。
大規模なリソースを持つ企業や団体による支援はもちろん重要です。その一方で、当協会が企業・団体や自治体、被災者たちをつなぐハブの役割を担いながら、「必要な場所、必要な人に車を届ける」ために行う支援も、今後ますます重要になると考えています。
――最後に、今回の能登半島地震に関して呼びかけたいことはありますか?
石渡氏:この機会に知ってもらえるとありがたいのは、「架け橋ドライバー」という運搬ボランティアの存在についてです。被災地に届けるクルマのおよそ8割は、彼らが1台ずつ運転して運んでいます。
「現地でがれき集めや泥かきは難しいけど、運転ならできるから」と協力してくれるボランティアが全国にいらっしゃるんです。私たちの活動はこういった人たちに支えられています。
今回のプロジェクトで発信している廃車を活用した新しい寄付の選択肢に加えて、「車を被災地に届けるボランティア」という役割があることも周知できればうれしいです。
架け橋ドライバー(車両運搬ボランティア)の詳細はこちら
(日本カーシェアリング協会のWebサイトへと移動します)
(取材・文/和田 翔)