【特集】JMDSを用いた秩父市の2次交通サービス実証からデータ活用・分析の真価を探る
2025/12/5(金)
モビリティ分野に特化したデータ共有のための共通基盤「Japan Mobility Data Space」(JMDS)の構築が進む。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期の取り組みであり、自動車メーカー、交通事業者、自治体、IT企業など、モビリティや都市に関わる多様なプレイヤーの利用を想定している。
JMDSは、ワンストップでのデータ取得・分析・可視化をはじめ、公共交通機関の効率化や新規事業支援といった幅広い利用可能性が見込まれており、自治体の課題解決もそのうちの一つだ。JMDSを使用することで、人口分布や観光客の来訪状況、公共交通運行状況などを容易に収集・分析できる点が大きな特徴。今回は、観光分野に移動課題を抱えた埼玉県秩父市での2次交通サービス実証を取り上げ、JMDSによるデータ活用と分析について考える。
▼関連記事JMDSは、ワンストップでのデータ取得・分析・可視化をはじめ、公共交通機関の効率化や新規事業支援といった幅広い利用可能性が見込まれており、自治体の課題解決もそのうちの一つだ。JMDSを使用することで、人口分布や観光客の来訪状況、公共交通運行状況などを容易に収集・分析できる点が大きな特徴。今回は、観光分野に移動課題を抱えた埼玉県秩父市での2次交通サービス実証を取り上げ、JMDSによるデータ活用と分析について考える。
※本記事には、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の下で推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期/スマートモビリティプラットフォームの構築」(研究推進法人:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)(NEDO管理番号:JPNP23023)の成果が含まれています。
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秩父市の観光課題と理想像
秩父市は、三峯神社や秩父神社、羊山公園の芝桜など豊富な観光資源があり、高い人気を誇る。しかし、観光客が特定の観光スポットに一極集中して渋滞が発生するほか、周辺の観光スポットを巡らずに帰る傾向があり、宿泊率の低さや観光収益の伸び悩みにつながっている。こうした現状を踏まえ、混雑緩和と各観光スポットの周遊・滞在時間のバランス確保を目的に、JMDSを活用した施策の検討が始まった。併せて、収集したデータを参考事例として整理し、今後の利活用へと発展させることも視野に入れている。
JMDSを用いたデータ可視化と課題明確化
観光客が周遊しにくい原因の一つとして、「観光スポット間を結ぶ交通手段の乏しさ」が浮かび上がった。そこでJMDSを使い、交通空白地・人口分布・観光地ポイントを重ね合わせ、地域の移動課題を可視化した。分析の結果、居住者がいるエリアは公共交通機関が比較的整っている一方で、観光スポットによってはアクセスが不十分であり、特に時間帯や運行頻度に課題があると判明。人材不足のため市としても対応が難しい状況にあり、新たな解決策として2次交通の整備が検討された。
自治体の課題解決には、さまざまな要素の複合データから分析することが効果的だが、膨大なデータからピンポイントで必要なものを探さなければならない。JMDSのデータカタログでは、「観光・輸送」に絞ったデータ検索やチャット検索で生成AIにデータを効率的に出力させることができるため、課題の可視化にも大きく役立つ。
2次交通整備に向けたデータ分析
続いて、現状導入されているキックボードマイクロモビリティやレンタサイクルの利用状況を把握するため、2次交通の利用者情報や移動データの分析が行われた。まず、レンタサイクルにGPSを取り付けてデータを取得し、普通自転車と電動アシスト自転車に分けて、移動距離ごとの人数を分析。さらに、これら以外のモビリティの利用範囲も推定している。結果、普通自転車や電動アシスト自転車の利用が適している範囲(利用者の50%が収まる範囲)を超えて走行している利用者が約18%存在し、利用に適したモビリティが提供されていないと明らかになった。
加えて、キックボードマイクロモビリティについても移動データを分析。主な移動範囲は5-10kmであったことから、街中での短距離移動に最も適しており、周遊には向いていないと考察された。
このデータを元に、観光客の周遊促進のため、航続距離が長いモビリティのシェアサービス導入を検討。導入するモビリティとして、完全電動で疲れにくいこと、座って利用できること、ヘルメット着用が努力義務で免許が不要なことから、特定小型原付が選定された。
特定小型原付シェアサービス導入実証と今後の展望
特定小型原付シェアサービスの導入実証期間は2025年6月から9月末。実証と得られたデータの分析を通じて、有効な手法を抽出し、将来的にはモビリティサービスの導入からデータの取得、分析による効果の把握まで一連の過程を支援する横展開可能なサービスを創出することで、他の自治体や事業者が秩父市の事例を参考に、効果的な施策を円滑に導入できる環境形成につなげていくことを目指す。また、データを分析・シミュレーションする機能「デジタルサンドボックス」に実証データの可視化ダッシュボードを搭載することで、都市OSに入れたデータをJMDS上で分析できる仕組みも作る計画となっている。
そして、次世代の生活ゾーンと賑わいのある道路空間創出を目的に、行政が提供するサービスとモビリティサービスを融合したサービスの検討と実装を図る方針だ。
JMDSで進化するモビリティデータ活用
今回活用したJMDSは、交通に関する多様なデータを保有する事業者や自治体のデータを集約し、データカタログの提供をはじめとして、今後はデータ提供における購入や契約も支援することで、データのマーケットプレイスを目指している。また、今回のようにデータの可視化を通し課題の明確化につなげるなど、モビリティ分野におけるデータの活用の可能性を大いに広げるソリューションと言えるだろう。2025年11月時点で8つのデータプラットフォームとの連携と1万件以上のデータカタログ掲載を達成し、50社/団体以上の会員を獲得。JMDSは開発途上であり、今後さらなる機能拡充やサービス拡大を予定する。「自由に自立して安全・快適に環境・他人・まちに優しく、ヒトやモノ、サービスが移動できるモビリティディバイドのない社会」の実現に向け、ますますの発展が期待される。















