越塚登教授に聞く、スマートモビリティ2.0生むデータ連携基盤JMDS
2024/12/26(木)
モビリティのデータ共有・標準化インフラ「Japan Mobility Data Space」(JMDS)が始動した。JMDSは内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期/スマートモビリティプラットフォームの構築プロジェクトの取り組みの一つだ。JMDSは日本のモビリティ産業に何をもたらすのか? 日本のデータ連携を推進する東京大学 越塚登教授に聞いた。
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日本のモビリティデータを網羅する流通基盤
――JMDSの概要から教えてください。「そもそもデータスペースとは何かというと、データを共有したり流通したりする取り組みのことです。データを使いたい、持っているデータを提供・販売したいという人や企業がいろいろ出てきて、そうしたプレイヤーがデータをやり取りするために必要なシステム、組織、技術そうした要素を全て合わせてデータスペースと呼んでいます。データのエコシステム(生態系)ともよく言い換えられますね。日本のモビリティ分野でデータスペースを作る必要があるとの考えから生まれたのがJMDSです。データスペースの構想自体はモビリティに限らず製造業のサプライチェーンや防災、農業、医療など多分野にあります」
JMDSリンク12月5日、会員限定に分析・シミュレーション機能(デジタルサンドボックス)の提供を開始した
https://mobility-data-space.jp/
目指す姿はデータのオンラインモール
――JMDSが目指す姿を伺えますか?「バス、鉄道、航空、旅客、運輸、道路など日本のモビリティに関するデータがワンストップで手に入るJMDSというのが目指す姿です。ただ、ワンストップといってもデータがJMDSの1カ所に集まっているのではなく、各データの主権は企業や大学が持って分散したままでデータがつながる分散連邦(フェデレーション)型のデータスペースです」
「オンラインモールを考えてもらうと分かりやすいと思います。オンラインモールというプラットフォームに集まっていて、売り場やカタログは提供して一覧性があるけれど、参加店舗はそれぞれの商品を売っていますし、モールで売らなくてもいい。でも、みんな集まるから便利だねと。JMDSというプラットフォームがあり、「データカタログ」もありますが、データ主権は参加者にあります」
データカタログリンク
https://www.catalog.mobility-data-space.jp/
――各プレイヤーが主権をもったままデータを共有する仕組みを教えてください。
「それはAPIを使うということになります。データを自分でコントロールすることができ、データにアクセスがあったときに料金を支払ったから出すとか、支払っていないから出さないといった選択ができます。選択可能なことがデータ主権をもつということです」
「もう少し詳しく説明すると、データを生成したり、持っていたりするプレイヤーが存在する法域の中で解決すること。つまり日本と米国では法律が異なる、法域が異なるので、国際的なデータのやり取りでデータ主権を適用すると、日米でデータの取り扱いルールが違ってきます」
データスペースの効果は大、「カオス」な現状変える
――JMDSによってどんなことができるのでしょうか?「モビリティに関するデータをワンストップで入手できれば、利便性も高くなるし、そこから新しいビジネスも生まれるだろうと見込んでいます。僕から見てモビリティの分野は、既存のデータがたくさんある。でも、現在は、どこに何のデータがあるのかわからない「カオス」な状況で、全部知っている人はいないんじゃないかと思います。まさにデータスペースが求められている最良のモデルケースです。みんなバラバラなデータをつなぐことがJMDSの一番の役割ですね」
――既存のデータをつなぐことが重要ということですね。
「JMDSが発足した背景にはSIP3期スマートモビリティプラットフォームの構築プロジェクトが関係しています。モビリティのデータ連携の必要性は前から言われていて、例えば公共交通に限定すれば僕も関わっていた公共交通オープンデータ協議会がすでにあるし、他の取り組みもあって、でも他分野連携はできていません」
「そこにプロジェクト長である筑波大の石田東生先生が移動というのは楽しくなければいけない、モビリティをより安全に、生活の一部としてもう一度再定義しよう、新しいモビリティをデザインしようとなり、僕はそれをスマートモビリティ2.0と呼んでみたのですが、それにはワンストップで情報を入手できるデータスペースが必要だとJMDS構築が決まりました」
――改めてモビリティ分野でデータを活用する重要性について教えていただけませんか。
「僕の専門のコンピュータと違って、モビリティだけでなくて都市も土木建築もハードはつくるのに膨大なお金がかかるので、つくった後になってあれは失敗でした、が許されないので、つくる前に試さないといけません。データを利用してシミュレーションをして、運用するときもモビリティと乗客の動きをみてマッチングしているか見ないといけないよと。データを使うメリットが非常に大きい分野だと思います」
「また、モビリティでも街づくりでも一番の課題は社会受容性、地元の理解を得ることと言われています。地元の理解を得るにはモビリティが、街ができたらどう変わるのと分かりやすく見せる必要がある。シミュレーションと人流を動画とVRで見せたら一目で分かると思いますし、何度も会議を開いて提案書を作ってよりコストも減らせます」
スマートモビリティ2.0へ新旧のデータをつなぐ
――どんなデータがスマートモビリティ2.0で必要になるのでしょう。「交通事故を避けるためにこの道路で子供が遊んでいるとか、車いす利用者が移動しやすい道というのが必要になってきます。そうすると公共交通のデータだけではつくれない、自動運転や3次元地図のデータベースはすでにあるけど、道路インフラ、スマートシティの分野にも関わってきます。そのため、既存のもの、新しいもの、いろいろなデータをつなぐデータスペースが必要だ、そういうデータスペースって今までなかったなということです」
――すると、JMDSと他のデータスペースはどこが違うのでしょうか。
「モビリティと他の分野のデータスペースの違いというと、一つにモビリティのデータ流通にはみんなあまり抵抗がありません。バスや電車がどこを動いているか、道路の混雑状況、こうしたデータは公共性が高い。サプライチェーンは企業機密そのものですし、医療はプライバシーが関係してきます。欧州では公共交通が公営なのでみんなオープンデータです。反対に難しいところはどこかというと、プレイヤーが山のようにいて、データの利用状況は先ほど言ったように『カオス』なので、まとめていくのは大変だろうなということですね」
――モビリティのデータは出てきやすいけれども、まとめるのに苦労しそうというわけですね。JMDSの運営はだれがどのようにしますか?
「考えられるのは3種しかありません。一つは企業が収益事業として運営する。けれどもJMDSの場合は公益性の高いサービスとして運営する必要があると思います。すると、二つ目は業界団体をつくって協調領域として担う。三つ目は国が担う。この1、2、3のどれか、またはそれらの適正な組み合わせになるのでしょうね」
「欧州のモビリティデータスペースを見ていると、例えば立ち上がりのときは国が費用を出して10年間で少しずつ民営化していくといったやり方もありますね。今、NTTデータ社やNEC社がSIPの中で、JMDSの運営を受託しているわけですが、将来あるべき運営体制を定めていくということになりますね」
――それでは、日本のプレイヤーがJMDSを使う、主権を持ってワンストップでデータのやり取りができるメリットとして何が挙げられますか?
「先ほども話したようにJMDSからデータが手に入るので人が集まり、人が集まるので提供・販売する側も販売機会が増えます。しかもデータの売り方は自分で決められるというのがメリットだと考えます。ただ、具体的なメリットを出すためには一定の規模、クリティカルマスを超えなければいけない。まずデータの集積が必要だということは注意しておきます」
データ使う力を伸ばす「なければ料理すればいい」
――JMDSを使ってプレイヤーが具体的なメリットを出すための課題として、何があるでしょうか?「『JMDSが必要とされるための課題』があると思っていて、『データを使う力』が伸びるほどJMDSの価値が上がると思っています。皆さん『モビリティのこういうデータが欲しい』『ない』『データ連携できない』と言いますが、100%欲しい形のデータが手に入ることはめったにないんですね。人が道路をどの方向に行くか人流が知りたいといって、人流をとるのはけっこう大変。例えばだけど、赤外線センサーを使って何人が通ったかは簡単にとれるので、複数の場所にセンサーをつけて時系列でみるとだいたいの人流を計算できます」
「少し探して見ると似たようなデータがあったりとれたりして、欲しい情報が分かる。『ハンバーグ食べたい』と言ったときにハンバーグはなくてもひき肉も玉ねぎもソースもある、自分で料理できるじゃないというような。データ連携ってそういうことだと思うんですね。すそ野が広いモビリティ産業では中小企業こそがデータの使い手になるので、JMDSを使ってデータを利活用してほしいですね」
データを使うコミュニティへ成長を期待
――データの使い方がうまい業界はありますか?「広告・マーケティング業界が圧倒的ですが、カーナビも乗換案内もデータのかたまりで、そういう意味ではモビリティ業界でも昔から使っていて、それに品質管理だとか各企業の中ではずいぶん使われています。ただ、スマートモビリティ2.0に必要なデータ連携はこれからで、だからこそJMDSが必要とされます。さまざまなプレイヤーがJMDSを使いながらデータ利活用の力を伸ばしていき、新しいビジネスも出てくると考えています」
――JMDSへの期待や活用例についてお話しください。
「最終的なイメージはネット通販/オンラインモールのデータ版といったもので、JMDSを開くとデータの一覧がたくさん出てくる感じですね。他には京都や中国で始まっているデータ取引所、証券のようにデータを取引する場所も近いものがあるかなと」
「そして、中身としてはモビリティデータのコミュニティができることを期待しています。データの典型的な使い方が20個くらいあったり、原因データはたくさんたまっているけど結果のデータがなかったりといったデータを扱う経験、それを形にしたツール、そういうものが集まっていくコミュニティは大事だよねと」