循環型エネルギーの実用化へ。マツダといすゞのバイオ燃料で広がる選択肢【JMS2025】
2025/12/2(火)
ジャパンモビリティショー(JMS)2025では、脱炭素・循環型社会を見据えた燃料技術が数多く披露され「化石燃料に依存しないモビリティ社会の構築」が来場者の関心を集めた。なかでも、微細藻類や廃棄油を利用したバイオ燃料は、日本の技術を生かした動きとして注目される。マツダといすゞは、両社とも異なるアプローチで次世代バイオ燃料の共同開発を進めている。JMS2025では、従来のガソリンやディーゼルを代替する具体的な道筋を提示した。
走るほど環境にいい燃料。マツダが目指すカーボンネガティブ
マツダが出展した燃料は、微細藻類「ナンノクロロプシス」を原料にしたバイオ燃料だ。ナンノクロロプシスは、成長する過程で大気中のCO₂を吸収する性質を持っている。走行中に排出するCO₂は、ナンノクロロプシスと相殺してカーボンニュートラルが実現する仕組み。
さらに、製造過程で出る残渣(しぼりかす)も無駄にならない。これらは肥料や家畜の飼料だけでなく、健康食品の素材として活用できる。また、製造時に回収されたCO₂を自動車部品やプラスチックやカーボン製品として再利用する技術開発も進行中だ。
こうした循環型の仕組みが確立すれば、製造から使用、再利用に至るまで、廃棄物や余分な排出がほとんど生まれない。将来的には、CO₂排出量を吸収量が上回る「カーボンネガティブ」、つまり「走れば走るほど空気がきれいになる」社会が実現するといえる。
同社スタッフは「燃料は消費されるだけのものではなく、社会全体のカーボンサイクルを改善する仕組みに変えられる」と話し、新しい価値観で開発が進められていることを示した。
廃油から生まれる燃料で走る未来。いすゞが進めるHVO実装
一方、いすゞは、廃食油を再利用した「HVO(ハイドロトリーテッド・ベジタブル・オイル)」を出展した。このHVOは、廃油に水素処理を施して不純物を除去し、成分をディーゼル燃料に近づけたもの。見た目や使い方は従来の軽油に近く、車両を大きく改修せずに使えるのが特徴だ。欧州ではすでに市場投入が進行中で、いすゞも2024年秋に国内で実証実験をスタートさせた。
HVOは従来のディーゼルと比べて約50%のCO2削減が期待されるにもかかわらず、走行性能や燃焼効率は遜色がないという。運転感覚はそのままに、環境負荷だけ減らせる燃料として期待が高まっている。また、これまでバイオ燃料の弱点とされてきた「時間が経つと劣化する問題」もない。
ただし課題も残る。日本ではまだ販売網や給油設備が整っておらず、価格も軽油の2~3倍と高い。それでも同社スタッフは「普通のガソリンスタンドで給油できる仕組みをつくりたい」と語り、実装へ向けた意志を示した。
マツダといすゞの取り組みに共通するのは、公共交通や物流といった社会インフラ領域から次世代バイオ燃料を導入し、段階的に普及を拡大していく戦略だ。大量の燃料を必要とするこの領域では、車両の電動化だけでは対応が難しい。今ある仕組みに新しい燃料を適応させていく発想は、今後の有力な選択肢になり得る。
燃料の選択肢が化石燃料から多様なエネルギーへと広がるなか、新たな技術が実験段階から社会実装フェーズへ移りつつある。カーボンニュートラルの実現に向け技術と思想が進化する今、バイオ燃料は社会の仕組みそのものを変える可能性を持つ。
(取材・文/平井千恵美)
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