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日本総合研究所 地域連載企画 地域社会の「新しい足」自動走行移動サービスの創出(前編)

2017/11/15(水)

利用者と交通事業者は自動走行移動サービス実証をどうみたか

 

日本総合研究所 創発戦略センター
マネジャー 武藤 一浩 氏


自動走行サービスの利用者を置き去りにして検討を進めてはいないか

自動走行は、2020年の五輪での活用を目標に急ピッチで技術開発が進められており、そのために行われている公道での技術実証や規制緩和には一般の方からも高い関心が寄せられるようになりました。一方で、そうして開発されている自動走行が、実際にどのような形で社会に適用されるかについての関心は比較的薄く、議論も深まっていないのが実情ではないでしょうか。

[LIGARE vol.31 (2017.1.31発行) より記事を再構成]



日本総研では、およそ30団体の参画を得た企業や自治体による民間コンソーシアムでの活動(2013~2015年)を皮切りに、自動走行の車両技術を地域の交通サービスに落とし込むための具体化検討を進めています。

その検討の中で、自動走行のサービスを必要とする地域の一つとして前号のとおり『40~50年前に全国的に展開された住宅地であるオールドニュータウン』に着目するようになり、実証を繰り返してきました。

 

①定ルート走行(電気自動車のi-MiEV:三菱自動車工業)。路線上ならどこでも乗り降り可能。(イオン周辺だけ一部乗降規制あり)
②デマンド走行(電動三輪車のLike-T3:光岡自動車)予約制(スマホ・コンピュータか電話で予約)で、筑紫が丘内ならどこでも送迎可能。



 

■実証(神戸市北区筑紫が丘地域)の概要

目的:近距離低速のモビリティに対する利用ニーズの 有無の確認

場所:神戸市北区筑紫が丘

期間:2016年10月4(月)~10月30日(日)

運行時間:9時~17時

実施方法:自動走行の代わりに黒子の運転手を配置

運営・実施:神戸自動走行研究会(※)

利用登録者数:100人以上

 

神戸市北区筑紫が丘地域で昨年10月に行われた実証もその一つです。本稿では、この実証に参画した地域住民や交通事業者の方々からのコメントをご紹介します。

 

5年以内で地域住民の半数が移動困難者に

 

神戸市北区筑紫が丘自治会
会長松田氏(右)、副会長川渕氏(左)



実証を筑紫が丘で行うという話を聞いた時からとても魅力を感じました。なぜなら、数年後の地域社会の姿に危機感を感じていたからです。

約2,000世帯、6,000人程度が暮らす我々の自治区では高齢化が進んでいます。現在は65歳以上の住民が全体の40%を占め、5年後には50%にまで達する見込みです。この地区は若干の丘陵地となっているため坂道が多く、近距離移動すら困難となる方々が顕在化するようになりました。

また、公共交通が利用しにくいことから移動の多くをマイカーに頼らざるを得ず、特に高齢者では運転で事故を起こさないか不安を感じている住民が少なくありません。

今回の実証で用意されたような近距離を低速移動する単純な移動手段は、我々のような地域では今後必須になると考えています。1カ月と短い期間でしたが、利用登録者が100人を超え、アンケートへの回答もうち68人から得られたことが、期待の高さを表していると思います。

また、当自治会では、防犯活動を行ったり、高齢者の方々を助ける「近助」活動を実施したり、リタイア層が地域コミュニティに溶け込むきっかけを作ったりしていますが、そのなかで自動走行車両が役立つ場面が多いものと期待しています。

実際、日本総研がまとめた住民利用者アンケートの結果では、カメラ機能を持つ車両が地域を走り回ることが防犯に役立つ、近距離で地域住民同士が乗り合うことで顔見知りが増える(地域コミュニティに入るきっかけとなる)といった声も聞かれました。単なる移動手段を超えた、自治活動の強化につながる付加価値まで提供できそうです。

また、アンケートの結果では、定額制乗り放題での利用を希望する声もあり、中には料金を自治会費に予め上乗せることで地域の皆が気軽に乗れるようにするべきとの意見もありました。ひと月の間で利用登録者が飛躍的に増加していることを見ると、確かな期待値があることを実感しています。

今後は、ぜひ自動走行の動きを体験し、自動走行に慣れる(地域受容性を高める)ことで、早期導入が実現することを願っています。

ところで、スマホなどIT機器の使用を前提とした自動走行サービスを考えているのであれば、それは我々の次の世代向きと割り切っていただくこと方がよいかもしれない、ということは最後に申し上げておきたいと思います。今回の実証において、私たちからは、時刻表や車両がどこにいるかを知らせるモニターを、スーパーマーケットや喫茶店などよく立ち寄る施設に設置することを求めました。

時刻や車両の位置情報はスマホからも得られるようになっていましたが、スマホを基本としてしまうと、高齢者の多い当自治会では利用が難しくなってしまいます。スマホを使える仕組みと並行して、全ての人が利用できることを意識した環境整備を望みます。

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