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MaaSをやっても儲からない?日本におけるMaaSの現状を徹底解剖【寄稿:リブ・コンサルティング】

2021/11/15(月)

MaaSによって、人々の移動体験は大きく変わろうとしている。

国内においても都市部・地方部を問わず、様々なエリアでMaaSの取り組みが行われており、令和3年度「スマートモビリティチャレンジ」では合計14箇所の実証地域が採択されている。

地域の公共交通の衰退が叫ばれる中、MaaSの重要性は今後更に高まる事が予想されるが、その一方で国内においては未だ、採算ラインを超えている事業は決して多くない。

筆者も仕事柄、MaaS領域に関わる企業とのミーティングが多く、その中で最も頂く質問は、「なぜ、MaaSは儲からないのか?どうすれば採算ラインを越えられるのか?」という質問である。

今回は、MaaSに取り組む事業者が抱えるこの課題に対して、解決の糸口を考えていきたい。

令和3年度 地域新MaaS創出推進事業


上記資料は、経済産業省(https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210824001/20210824001-1.pdf)より引用

■そもそものMaaSの思想とは「より安く、より効率的に」


そもそもMaaSとは、フィンランドのヘルシンキで生まれたサービスコンセプトであるが、
MaaSが誕生した背景には、ヘルシンキが持つローカルコンテクストが存在している。

《ヘルシンキが持つローカルコンテクスト》
・地球温暖化という問題への高い意識
・自家用車を減らすという明確な政策目標
・ノキア発祥の国としての情報通信先進国のプライド
・もともと公共交通が行政に一元管理、運営されている

このような背景の中で生まれた新たな概念がMaaSであり、
・自家用車の購入&維持コストよりも安く移動が可能
・各種公共交通機関をシームレスに繋ぐ事により、都市部の移動においては、
 自家用車での移動よりも利便性が高い
・行政主体で別々に管理していた鉄道やバスなどが持つデータを一元管理/運用し、
 ストレスフリーな移動が可能
 というポイントがあり、結果として多くのユーザーの支持を獲得し、現在に至っている。

■世界はビジネスモデルの誕生を待っている


上記のような背景の中でスタートしたMaaSだが、現在ではビジネスサイドの可能性の高さから、
世界各国でMaaSの導入が進んでいる。

では一体、“MaaSのビジネスサイドの可能性”とは何なのか?

それは “人の移動・モノの移動”というビッグデータを活用した新たなビジネスであり、一説ではモビリティサービス(MaaS)の世界市場規模は2030年には米・欧・中合わせて1.4兆米ドルへと大幅な増加が予測されている。

このようにMaaSへの期待値が増す一方で、国内においては十分に利益をあげているMaaSサービスは存在していない。

十分な利益が出ない(=儲からない)理由はシンプルであり、“そもそも儲かるビジネスモデルが存在していない”というのが筆者なりの解釈である。

例えば、Googleを代表とした「検索エンジン×検索連動型広告」というのは誰もが知っているビジネスモデルだが、このような儲かるビジネスモデルが、MaaS領域には未だ存在していない。
つまり、「MaaS×●●」の「●●」が未だ発見されていない、という事である。

そして、MaaSビジネスモデルの発見の旅は、2000年代のGoogleを中心としたインターネット業界の歴史をなぞっていると考える。

Googleも創業当時は世界で最も洗練された検索エンジンを開発するという事が出発点であり、
最初から今のビジネスモデルがあった訳でなく、検索ワード数が爆発的に増加する過程の中で、
検索連動型広告というビジネスモデルが生まれた事は有名な話である。

1つの可能性としてMaaSも同じようなプロセスを踏むのではないか?
世界中でMaaSの進化が進む中、どこかのタイミングでコップから水が溢れるかのように、
これまでの歴史を変えるような新たなモデルが誕生する日は近いと考える。

■4つのメガトレンドにおける収益ポイントの創り方


様々な視点からMaaSのビジネスモデル開発が進む中、ポストコロナにおけるMaaSの潮流として、
大きくは4つのメガトレンドが生まれ始めている。
ポストコロナにおけるMaaSメガトレンド

ポストコロナにおけるMaaSメガトレンド



各トレンドの詳細説明についてはこの記事では割愛するが、ポストコロナを見据えた直近での事例を紐解いていくと、大きくは4つの流れを確認することが出来る。

そして、この4つのメガトレンドに共通するポイントとしては、
・どこで儲けを出すのか?という収益ポイントの明確化
・サービスを通じて獲得した属性・人流・購買の3つのデータの利活用
が見受けられる。

例えば、trend2の「移動の“エンタメ化“」のユースケースとして、10月に日本でもサービスローンチした「Miles」を見ていこう。

Milesは、全ての移動手段を対象とした、スマートフォン型マイレージプログラムであり、貯めたマイルはギフトカードや協賛企業の特典に交換する事ができ、最強のポイ活アプリと評価されている。

すべての移動に、マイルを

すべての移動に、マイルを


上記資料は、Milesホームページ(https://www.getmiles.com/jp)より引用


Milesの現状でのビジネスモデルとしては、「1、ホワイトレーベルやSDKでのシステム提供による収入」と、「2、協賛先からの広告手数料の収入」の2種類に大別されるが、今後、ユーザー数の獲得が進めば、2の広告手数料の比率が高くなるはずである。

Milesのアプリシステム上では日々、大量の属性データ、移動データ、購買(利用)データの蓄積が進んでおり、各協賛先に対する強力な販売促進機能を持つようになるはず。例えば、毎日の通勤・通学で通る導線上での小売店の特典利用をプッシュ通知で促すなど、実店舗への送客や単価向上に繋がるマーケティング施策を行うことが可能である。
※実際に、米国では2018年以降、Milesへの特典提供を通じ、パートナー企業は310億円以上の売り上げをたたき出している。

このように、Milesの事例からの考察においても重要なのは、事業としてのグロースを考えた時に、収益を生み出すポイントの明確化と、データの利活用を目的として、そもそも何のデータを、どのような方法で収集していくのか?というデータ基盤の設計である。多くの事業開発プロジェクトにおいても、ここの議論や検証が不十分なままPoCをスタートしているケースが多く、結果として途中で頓挫してしまうケースが少なくない。

高齢化や過疎化によって地域の公共交通のアップデートが求められ、また、働き方改革やテレワークの普及など移動需要の多様化が進む中、今後、ポストコロナを見据えた新たなモビリティサービスが生まれてくるはず。

各地域に根差したモビリティサービスの開発を進めるためにも改めて、持続可能なビジネスモデルをどう描くのか?、また、そのために必用となる3つのデータの収集と活用方法は何か?を主要論点として、これからのモビリティサービスを設計すべきではないだろうか。

文:西口 恒一郎(株式会社リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ マネージャー)

2015年、リブ・コンサルティングへ入社。自動車メーカー、公共交通事業者、自治体を対象に、中期経営計画の策定、新規事業開発、M&A/PMIなどのテーマを担当。現在は、MaaS事業開発、地域モビリティサービスの展開など持続可能なモビリティ社会の実現に向け活動中。2020年より、三重県伊勢湾熊野灘 広域連携スーパーシティ推進協議会のメンバーとして、交通空白地の移動題解決に向けたモビリティサービス開発を担当

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