ニュース

MaaS発展はオンデマンド交通の理解にあり!概要から事業開発まで一気に解説【寄稿:リブ・コンサルティング】

2021/11/29(月)

近年、各エリアにおける移動需要の多様化によってオンデマンド交通が広がりを見せる中、都市型/地方型それぞれのサービスの在り方の模索が続いている。

都市部においては、テレワークの普及や三密回避よる移動パターンの変化から新たな移動手段として、また、地方部においては持続可能な公共交通の新たなモデルとして、オンデマンド交通の普及が進んでいる。

同じ「オンデマンド交通」という移動手段であっても、サービス導入の仕方、また、採算ラインを超えるための収益ポイントは大きく異なるのではないか。

今回は昨今注目を集めるオンデマンド交通のサービスとしての特徴、そして、事業開発上のポイントについて確認をしていきたい。

■オンデマンド交通のサービス分類


オンデマンド交通とは、利用者の要求(デマンド)に対応して運行する交通サービスであり、交通空白地などのバス路線が少ないエリアや、コロナ禍における新たな通勤手段として需要が増加している。

全国各地で様々なオンデマンド交通の取り組みが推進されているが、大別すると、「社会課題解決型」「事業課題解決型」の2つに分類が可能である。それぞれの特徴を見ていこう。

《社会課題解決型》
地域の移動課題の解決を主とした交通サービスであり、
・都市部では、渋滞の解消や環境負荷の少ない交通網の形成
・過疎化が進んだ地方部では、公共交通の維持・代替
など各地域が持つ社会課題を解決するためにオンデマンド交通が導入されている。



《事業課題解決型》
その一方で、企業などの事業者が持つ移動ニーズに対応するため、オンデマンド交通を導入するケースも存在する。近年は“BtoBtoE(Employee)”というワードも生まれつつあるが、具体的な事例として分かり易いのは、従業員向けの「乗り合い通勤サービス」である。ニューノーマル時代の新たな通勤スタイルとして様々な地域で実証実験が進んでおり、事業課題解決型の中でも事業化に一番近い領域ではないだろうか。



このように、同じ「オンデマンド交通」という名称であっても、どのような移動課題の解決を目指すかによって採用すべき事業モデルや論点が変わってくる事を前提に、オンデマンド交通の導入を検討すべきである。

■事業開発上のポイント

上記の通り、様々なタイプのオンデマンド交通が存在するが、全てのパターンにおいて共通する3つのポイントが存在する。

《1.地域内のODデータの収集》
ODデータとは鉄道やバスなど公共交通機関の乗降人員データの一種であり、オンデマンド交通の運行区域、運行時間、車両の導入台数などの運行計画策定に必須のデータとなる。

オンデマンド交通サービスを導入したものの想定よりもユーザーが増えないパターンの多くは、そもそもの「地域の移動実態を正しく把握していない」という事が最大の理由である。

一般的には以下の図が示すような各種交通モードのデータが必用となるが、地域や事業者によっては、データが未整備であるケースも多いため、不十分なデータや情報については仮説やシミュレーションを組みながら補う方法が主流である。



《2.運行ルートの最適化》
オンデマンド交通は魅力的な移動サービスであるものの、全ての移動手段を代替する事は効率性の観点から難しく、既存の公共交通、特に路線バスとの共存関係が前提となる。

その場合、オンデマンド交通の導入にあたって重要なのは、以下2つの視点である。

A:オンデマンド交通の導入によって、“縮小/撤退する路線”はどこか?
B:オンデマンド交通の導入によって、“新たに追加する路線”はどこか?

オンデマンド交通の導入によって新たな人の流れが生まれると同時に、路線バスを追加すべき区域や、縮小・撤退すべき区域が変わってくるため、オンデマンド交通の導入を軸として、域内の他の交通モードの在り方を考えるべきである。



《3.UI/UXの最適化》
オンデマンド交通は新しい交通モードだからこそ、ユーザーにとって使い易いUI、そして乗って良かったと感じてもらうUXの磨き上げは必須である。特に地方部では高齢者向けにオンデマンド交通を導入するケースが多いため、WEBやアプリからの配車予約だけではなく電話受付を行うケースが一般的だが、長期的な視点では如何にコールセンター業務を削減し、デジタル化を進めるかが事業継続上、重要なポイントになってくる。

■オンデマンド交通の収益モデル

最後に、オンデマンド交通の収益モデルについて考えていきたい。



まず、収益の核となるのは当然、乗車運賃の部分であるが、運賃モデルも従来通りの都度払い以外に、「定額乗り放題モデル」も始まっており、マイカー利用の代替手段としてオンデマンド交通を利用する層が増えつつある。

その一方で、特に地方部においては乗車運賃だけでは採算ラインを越えられず行政からの補助金頼りの事業運営になっているケースが多い。そのため、乗車運賃による収益を増やしつつも、その他の収益ポイントを作る事が事業継続性を高めるためには重要となる。この点について、具体的な3つのユースケースを見ていこう。

《1.協賛金モデル》
1つ目は協賛金モデルである。移動の目的地として地域の小売店や飲食店、病院などを乗降地スポットとする事で、各企業への送客に繋げる。各企業はその送客の対価として協賛金を支払うモデルである。
具体的なユースケースとしては、アイシン精機が取り組んでいるチョイソコのサービスであり、複数の事業者がエリアスポンサーという形で協賛する事で事業の安定化に繋がり、また、こうしたモデルを採用する事で地域経済の活性化にも寄与している。

《2.貨客混載モデル》
2つ目は、人の移動だけではなく、モノの移動にもオンデマンド交通を活用するという方法であり、こちらも様々なエリアで実証実験が行われている。1日の中で人が移動するピークタイムは偏る傾向にあり、稼働が埋まり切らない時間帯をモノの移動に利用する事で稼働の平準化を図り、安定的な収益の確保に繋げていこうとする取り組みである。

《3.生活サービスモデル》
最後は、オンデマンド交通の仕組みを使った生活サービスであり、以前から買い物代行への利用や高齢者向けの見守りサービスへの活用が行われていた。近年のコロナ禍においては、病院でのワクチン接種が難しい高齢者や要介護者のために、医師の自宅派遣にオンデマンド交通の仕組みを使うなど、新たな活用方法が模索されている。

■最後に

ここまでオンデマンド交通の分類から事業開発上のポイント、そして収益モデルについて考察を進めてきたが、重要なのはやはり「持続可能なビジネスモデルをどのように描くか?」だと考える。

残念ながら各地域の取り組みにおいて、上記の議論が不十分なままサービスインしてしまい、結果として志半ばで事業撤退してしまうケースは少なくない。

地方部においては行政からの補助金に頼らない形での実装は難しいかもしれないが、少しでも採算ラインに近づけるためのチャレンジや新たなサービスモデルの開発は今も、日進月歩で進んでいる。

そして持続可能なビジネスモデルの開発を進めるためのヒントは、地域の人々の“移動課題”だけではなく、日々の生活における“暮らしの課題”に隠されているのではないだろうか。

文:西口 恒一郎(株式会社リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ マネージャー)

2015年、リブ・コンサルティングへ入社。自動車メーカー、公共交通事業者、自治体を対象に、中期経営計画の策定、新規事業開発、M&A/PMIなどのテーマを担当。現在は、MaaS事業開発、地域モビリティサービスの展開など持続可能なモビリティ社会の実現に向け活動中。2020年より、三重県伊勢湾熊野灘 広域連携スーパーシティ推進協議会のメンバーとして、交通空白地の移動題解決に向けたモビリティサービス開発を担当


get_the_ID : 110075
has_post_thumbnail(get_the_ID()) : 1

ログイン

ページ上部へ戻る