【特集】自動運転バスのデザインコンペ結果発表。川崎市内で最優秀賞ラッピングバス走行
2025/10/27(月)
交通安全環境研究所と筑波大学公共心理研究室が主催する「自動運転バスのエクステリア・デザインコンペ」の受賞者が決定し、10月13日に川崎市役所で表彰式が開催された。ラッピング部門の最優秀賞は、福嶋咲氏の「人と自動運転の協調性」。ボディ部門では、本田耕氏の「NIWA-BUS 地域で育てる庭のようなバス」と福田英盛氏の「K-mo-limo 軽自動リムジン✕ケモノなノリモノ:ケモリモ」が最優秀賞に選ばれている。なお、ラッピング部門最優秀賞作品は、自動運転バスにデザインとして施され、川崎市内を走行する予定だ。
■技術とデザインで社会的受容性向上へ
近年、自動運転技術は急速に発展し、安全運行の技術も整いつつある。しかし、まだ発展途上であり、万能なレベルには至っていない。交差点で停止したり、道路交通法を遵守するあまり安全に偏った運転をする場合もある。その結果、周囲のドライバーが不満や苛立ちから、あおり運転や進路逸脱などの危険行動に出ることも懸念される。また、無人やハンドルから手を離した自動運転車に不安を感じる人も少なくない。こうした問題を解決し、自動運転技術を普及するには、他のドライバーや走行区域周辺住民などの社会的受容性を高める必要がある。
筑波大学 システム情報系 社会工学域 教授 谷口綾子氏らの研究によると、幼いイメージやあまり高性能に見えないデザインほど、周囲のドライバーに不満を抱かせにくいと報告されている。また、地域になじむデザインであることも重要としている。
そこで、交通安全環境研究所と筑波大学公共心理研究室は川崎市の協力も得て、自動運転バスのエクステリア・デザインコンペを開催。技術だけでなく、外観のデザインにより、周囲の人に優しく受け入れられる自動運転車を目指し、社会的受容性向上を図った。
コンペでは、ラッピング部門とボディ部門を募集。ラッピング部門は、既存バスの車両形状に対して塗装をデザインする部門で、社会的受容性・地域へのなじみ度・意匠性が審査された。一方、ボディ部門では、自動運転バスのボディ形状そのものを提案し、社会的受容性・実現可能性・意匠性が評価対象となった。
募集期間は6月1日から7月31日の2カ月間。一次審査は8月13日、二次審査は9月10日に行われた。参加資格はデザインの専門家またはデザイン系学生に限られ、両部門の応募数はそれぞれ約40作品に上った。
審査員は、河合英直氏(交通安全環境研究所 自動運転研究統括監 自動車安全研究部長)、佐治友基氏(BOLDLY 代表取締役社長兼CEO)、谷口綾子氏、根津孝太氏(znug design 取締役)、山本早里氏(筑波大学 芸術系 教授)、山本卓身氏(Takumi YAMAMOTO 代表)の6名が務めた。
■ラッピング部門:最優秀賞は初心者マークで成長可能性を表現

ラッピング部門最優秀賞:福嶋咲氏作「人と自動運転の協調性」
(画像:自動運転バスのエクステリア・デザインコンペ公式サイトより)
ラッピング部門で最優秀賞に輝いたのは、福嶋咲氏の「人と自動運転の協調性」。コンセプトは「初心者・人との協調・地域とのつながり」に定めた。初心者マークの色で、自動運転バスの成長可能性を表し、人々の理解と受容性を高める狙い。また、色の混じり合いで人々の協調性を表現した。さらに、川崎大師の八角五重塔や音楽、レッサーパンダなど、川崎市由来の要素を取り込み、地域に寄り添うデザインに仕上げている。
福嶋氏は「試行錯誤が結果につながり、とても嬉しい。人と自動運転バスの協調性をどう形にするかや、川崎市らしさをどう出すかに悩んだ。制作を通して、社会におけるデザインの役割を改めて考えるきっかけとなった。今後もデザインを通して地域と関わりを持ち、社会に貢献したい」と話した。
この最優秀作品は、実証運行中の自動運転バスにラッピングとして施され、羽田連絡線では10月23日から11月26日まで、川崎病院線では2026年1月に走行する予定だ。
優秀賞+審査員賞は湯山愛梨氏の「自動運転修行中!熱血漢カワサキさん」、特別賞は馬場愛氏の「アートの町 川崎」と免田慶祐氏の「音楽のまち・かわさき」、審査員賞は奥村杏理氏の「バスを動かすために頑張る生き物」が受賞した。
審査員の谷口氏は「今回応募いただいた皆さんが、社会的受容性と川崎市にどうなじむかをいろいろな角度から考えており、想定外の素晴らしい作品が数多くあった」と振り返った。
■ボディ部門:最優秀賞は「NIWA-BUS」と「ケモリモ」
ボディ部門では、最優秀賞に本田耕氏の「NIWA-BUS 地域で育てる庭のようなバス」と福田英盛氏の「K-mo-limo 軽自動リムジン✕ケモノなノリモノ:ケモリモ」が選ばれた。審査員賞は塩月卓也氏の「生命を包むモビリティ」であった。
ボディ部門最優秀賞:本田耕氏作「NIWA-BUS 地域で育てる庭のようなバス」
(画像:自動運転バスのエクステリア・デザインコンペ公式サイトより)
NIWA-BUSは、地域の人が参加して育てる庭のようなバスを意図している。実現可能性の高さとバス停や待合ベンチも含めたデザインでモビリティ・ハブを体現した点が高く評価された。
本田氏は「地域に愛される空間として活用できるバスを考えた。川崎市は緑が非常に豊富で、こうした環境で走行できるようぜひ実現したい」と述べた。

ボディ部門最優秀賞:福田英盛氏作「K-mo-limo 軽自動リムジン✕ケモノなノリモノ:ケモリモ」
(画像:自動運転バスのエクステリア・デザインコンペ公式サイトより)
K-mo-limoは、小さな可愛らしいケモノをイメージしており、自動運転に必要なセンサー類は耳や尾に格納されている。車体の前後がわかりやすく、周囲のドライバーに進行方向が伝わる設計となっている。また、リアバンパーには行き先や現在の動作状況を表示する機能もある。
福田氏は「社会的受容性を高める観点から、小さくて丸く、可愛らしいデザインを追求した。普段手掛ける鉄道車両とは異なる分野に挑戦し、デザイン能力が磨かれ、自信につながった」とコメントした。

河合氏(左)から表彰を受ける本田氏(右)
河合氏は、最優秀賞を2作品選定した理由について次のように説明した。
「NIWA-BUSは車両だけでなく街全体をデザインし、自動運転バスの社会的受容性を高める、我々の意図を超えた作品。一方、K-mo-limoは、我々が意図していた可愛いデザインをプロの力で具現化した素晴らしい作品である。方向性が異なるため優劣をつけ難く、最優秀賞を2作品とした」。
また、「技術が進歩しても、交通社会の安全は人と人との思いやりによって達成されることに変わりはない。皆さんの想像力やデザイン力を活かし、安全な交通社会の実現に取り組みたい」と総括した。
表彰式では、川崎市 副市長の藤倉茂起氏が市長の福田紀彦氏のあいさつを代読した。
「川崎市では、全国的な課題である運転士不足への対策として、自動運転バス事業に取り組んでいる。デザインコンペのような機会を通じて、地域の皆様が自動運転バスに関心を持ち、より身近に感じてもらえることは、公共交通の未来にとって非常に意義深いと考えている」。







