品川港南でモビリティハブ構築へ。NTTアーバンソリューションズ×scheme vergeが次世代モビリティ検証
2025/10/29(水)
NTTアーバンソリューションズとscheme vergeは共同で、次世代モビリティや舟運を用いたモビリティハブ形成の実証実験を行った。実証は10月11日~10月13日に品川港南・天王洲・お台場の3エリアで実施。狙いや展望について、NTTアーバンソリューションズ デジタルイノベーション推進部 デジタル戦略担当 担当部長の加納出亜氏とscheme verge CEOの嶂南達貴氏に聞いた。
■マルチモーダルとマルチスケールの2軸でモビリティハブ構築へ
品川港南エリアは、新幹線や空港路線に近く、東京ベイエリアにも面する交通の要衝。リニア中央新幹線の開業や都市再生の進展により、さらなる機能拡張が見込まれる。一方で、品川から天王洲までの移動手段が限られ、運河沿いの空間も十分に生かされていない。この課題に対し、「マルチモーダル」と「マルチスケール」を軸にしたモビリティハブ構築に向け、実証が行われた。マルチモーダルは複数の移動手段を組み合わせる考え方で、9種類の陸上モビリティと中型船を組み合わせ、「陸×海」の回遊ニーズや課題、解決策を検証した。また、単なる手段にとどまらず、東京ベイエリアならではの移動体験の価値創造も狙う。
マルチスケールでは、狭域(品川港南エリア)・中域(東京ベイエリア)・広域(国内外)での連動を見据え、品川を起点としたハブ形成を図る。
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■9種類の陸上モビリティと舟運で新たな移動体験価値を創出
実証では、2カ所のモビリティハブと1カ所のポートを設置。日常の移動から観光まで幅広いニーズを想定した。品川駅港南口と御楯橋付近を結ぶ区間では、RODEM(テムザック)・C+walk T(トヨタ自動車)・C+walk S(トヨタ自動車)・UNI-ONE(本田技研工業)・PARTNER MOBILITY ONE(久留米工業大学)・ストリーモ(Striemo)が体験可能。御楯橋付近と天王洲の間は、グリーンスローモビリティ(ヤマハ発動機)・電動トゥクトゥク(eMoBi)・新型電動モビリティ(ドコモ・バイクシェア)が用意された。さらに、天王洲とお台場を結ぶルートはクルーズ船ジーフリート(ジール)が航行した。
C+walk Tとストリーモは1人用で立ち乗りタイプ。どちらも乗り降りしやすく、三輪で安定感がある。RODEM・C+walk S・UNI-ONEも1人乗りだが座って走行でき、誰もが使いやすいデザインとなっている。特にUNI-ONEは、少しの体重移動だけで操作できる新感覚のモビリティだ。新型電動モビリティは特定小型原動機付自転車に分類され、ふらつきが少なく、静かで快適に乗れる。
PARTNER MOBILITY ONEは、対話型AI自動運転システムを搭載したベンチ型モビリティで、3人まで並んで座りながら移動できる。グリーンスローモビリティは7人乗りで、ゴルフカーの技術をベースに設計された。電動トゥクトゥクは3人乗りのコンパクトEVモビリティである。
- モビリティの説明
- C+walk T
- 街中での実証風景
実証には3日間で約1,000人が参加するなど、関心の高さがうかがえた。モビリティハブの整備により、生活・観光両面で新たな移動選択肢を生み、東京ベイエリア全体の魅力向上が期待される。
■社会実装へ向けてニーズを検証
――実証の目的を教えてください。
加納氏:NTTアーバンソリューションズは、「街づくり×デジタル」をテーマにさまざまな実証プロジェクトを手掛けており、将来的にモビリティはその中核を担う一つと想定しています。実証では、品川での地理的特性を踏まえつつ近距離移動でのモビリティを適材適所で活用し、社会実装が本当に可能かを検証します。受容性や環境面での許容点を見極めるのが目的です。
嶂南氏:scheme vergeは、テクノロジーを使ったまちづくりや都市のアップデートをミッションにしています。社会実装や都市アップデートに向け、このエリアでしかできないことを深掘りする過程で、マルチモーダルとマルチスケールの重要性が浮かび上がります。この2軸を検証した事例は国内外でも稀でしょう。そのため、ニーズを丁寧に検証し、最終的には社会実装につながるモデルケースを作りたいです。
加納氏:街のニーズが多様化する一方、人手やリソースは限られています。データ分析によりニーズを正確に捉え、デジタルを活用して来街者にジャストフィットするサービスを届ける世界を目指したいです。
嶂南氏:弊社としては、地域交通だけでなく、都市交通もアップデートが十分でないという課題を感じています。東京都全体や他地域との接続も視野に、このエリアで新しい仕組みを考え、試していきたいです。
――2社協業の狙いと役割は。
加納氏:街づくりに向けた課題感の一致が一番の理由です。テクノロジーベースで取り組む上で、お客様のニーズを把握して次のステップを描ける良きパートナーです。
嶂南氏:新しい技術や取り組みをデジタルにより日常のオペレーションに落とし込み、データを使ってブラッシュアップ・実装することが役割です。その中で、過去の自動運転実証や海上交通事業の仕組みを応用して実装を進め、効果検証を行うことで、改善や次のプロジェクト展開につなげていきたいです。
また、海上タクシー「Horai」や東京湾でのクルージング、自動運転実証などに用いられている決済・予約システムを実証でも使い、データの収集や管理も行っています。
――実証で期待する成果はなんでしょうか。
加納氏:単にニーズの量を探ることが目的ではなく、お客様が本当に受け入れてくれるか、欲しいと思うか、そして街に実装する上でどういうところが導入障壁になるのかが確認のポイントです。ちょっとの距離だけ乗りたいとき、気軽に利用できるかを実践的に検証しています。
嶂南氏:これほど異なる種類のモビリティを混在させた実証は珍しいです。さらに、街の中を実験場として使っていることや、運河沿いの心地よさも味わえるなど、これまでとは違う移動体験になるでしょう。データ会社としての定量的な分析だけでなく、定性的なフィードバックを通じて、新しいモビリティがもたらす付加価値の検証も視野に入れています。
■品川を1日楽しく過ごせる街に。官民連携で未来を描く
――品川の将来像はどのように描いていますか。加納氏:品川はオフィス街の印象が強いですが、リニア開業を控えるなど注目されており、ポテンシャルのある場所です。また、職住近接な都心の街で多様性もあります。それにもかかわらず、休日に閑散としていて魅力がない街とされるのはもったいない。レジャーも含め、誰もが1日快適に楽しく過ごせる街こそ、望ましい姿です。
タクシーやバスを使うほど遠くはないが、徒歩や自転車だと少し距離がある、というように距離感の捉え方は人それぞれです。多様なニーズに応じたモビリティを配置し、気軽に使える移動体験ができれば、一つの特徴にもなります。そうした環境作りに貢献したいです。
嶂南氏:品川には公開空地※が多く、ポテンシャルを生かしきれていません。モビリティを導入してハブを形成することで、人々が興味を持って集まります。そして、東京ベイエリアの魅力が高まり、最終的には、街全体のUXが変化することが大事だと思っています。
※公開空地=建築物の敷地を一部開放し、誰でも自由に通行・利用できるようにした空間。
――どのように展開していくのでしょうか。
加納氏:誰がやるか、ではなく皆で協力して作っていくもの。気運、ニーズ、それを踏まえたトータルでのビジネスモデルを街全体で描けるかが鍵です。
モビリティはまだ黎明期ですが、2030年頃には世の中が変わると予想しています。リニアや次世代モビリティがわっと花開くタイミングが来るんじゃないかと。その時に、皆さんに「この実証が未来の姿だった」と思ってもらえたら嬉しいです。
嶂南氏:このエリアは交通結節点なので、新しい施設やプロジェクトのマイルストーンが次々と決まっています。そのため、やはり皆で考える必要がある。まずは社会のニーズや受容性を高め、関係者との対話のきっかけを作ることで、自然なタイムラインでの実現につながります。
加納氏:そのためには、取り組みを積み重ねてムーブメントを作ることが大切です。そのエッセンスを先行してどこかの地域で社会実装することが、次のステップになります。この実証で見えてきたさまざまな期待値を、次はどのように運用に落とし込むか、イベントで実効的に使うかといった話も出てくるでしょう。
嶂南氏:品川にはオフィスワーカーもいれば観光客もいます。そのため、ターゲットごとのニーズをデータで可視化することが必要です。同じ施策を異なる層に提供してもマネタイズは難しいため、こうしたデータ活用が不可欠です。
――今後のポイントや課題を教えてください。
加納氏:今回の実証のような新しい挑戦には、行政や関係者の協力が欠かせません。誰が何をすべきか明確になれば、行政も協力しやすくなり、民間がリードすべき部分やお客様の期待も見え、物事がスムーズに進むでしょう。そのため、実証過程で出てきた課題と実装までのシナリオを整理することが大切です。テクノロジーだけでなく、社会全体で調整しながら解決の糸口を探るべきだと考えています。
行政の力は非常に大きいです。今回も東京都と連携して進めており、少しずつ社会的な関心や気運が高まっています。その動きに歩調を合わせ、適切なタイミングをつかむことが最も重要です。
最初は期待と現実にギャップもありますが、徐々に歩み寄ることで、やがて交わるポイントが出てきます。最近は変化のスピードが速いので、周囲の方々と一緒に状況を見極めながら進めたいです。
嶂南氏:モビリティの種類が増えると全て同じルールで社会実装するのは難しく、ロケーションごとに異なる条件をどう扱うかも今後の課題となるでしょう。そのため、地域側の意思決定やモビリティ事業者とエリア関係者の連携が重要です。この点に関しては、品川エリアは連携しやすく、取り組みやすい場所と考えています。














