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車載電池の二次利用サイクル“静脈”市場を構築 リコーの挑戦

2023/6/2(金)

車載電池の二次利用について
リコー デジタルサービスBU 日本極統括 環境・エネルギー事業センター 第2開発室の皆様に詳しくご説明いただいた
(写真左から)
車載電池の利用で装置開発を担当した蔀(しとみ)貴行氏
リーダー 福家(ふけ)正剛氏
室長 中野雄介氏

企業が車載電池の二次利用について模索している。リコーは二次利用の研究に2018年より取り組み、車載電池を使った蓄電システムの実証を、25年度の事業化を見据えて進めている。将来は完成車メーカーも加えた車載電池の新しい循環型経済を作り出す計画だ。

今回は、実証実験が行われている静岡県御殿場市のリコー環境事業開発センター(以下、センター)を取材した。複合機で培った流通網を生かす、車載電池の新しいビジネスモデルを紹介する。

静脈物流の強みで二次電池を循環 自動車流通にも新しい可能性

リコーが作ろうとしている車載電池の循環型経済は、廃車になった自動車から電池を回収し、センターで検査・選別した電池を利用する蓄電システムを構築する。事業化の際に電池回収で強みを発揮するのが、リコーが「静脈物流」と呼ぶ複合機の回収ネットワークだ。

リコーが構築を目指す二次電池と蓄電システム流通の仕組み(リコー提供)

リコーが構築を目指す二次電池と蓄電システム流通の仕組み(リコー提供)



リコーは全国に回収拠点をもち、複合機やトナー、インクなどの消耗品を回収し、センター内でリユース・リサイクルする。センターは年間約10万台を回収して約1万台を再生する、OA機器業界では最大規模の拠点。これらの強みは、電池回収でも生きる。

同時に、リコーは電池回収について完成車メーカーとの関係作りを目指す。25年からHEVの廃車が本格化すると予想する中、車載電池のリユース市場を確立する狙いもある。

完成車メーカーにとっても欧州の電池規則に代表される、二次利用を視野に入れた電池の流通や電池原材料のリサイクルといった要求に応えられる。また、製品の販売後に消耗品の交換、メンテナンスでも収益を得るOA機器ビジネスの知見を自動車ビジネスに取り入れることも可能だ。

リコーは蓄電池システムを、需要が急増するエッジデータセンター(以下、エッジDC)用に使用する計画。二次利用の電池を使うことで企業の導入コストを削減する。

電池の併用で長寿命、独自開発技術を盛り込む

蓄電システムは、蓄電池として用いるEV電池とHEV電池を中心に構成される。太陽光電池で発電した電力をEV、HEV電池に蓄電し、エッジDCに供給する。

蓄電システムのイメージ (リコー提供)

蓄電システムのイメージ (リコー提供)



システムは、環境省「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択されたもの。リコーの知見が盛り込まれている。

2種の電池を用いる目的は電池の長寿命化、電力損失の低減の2つ。内部抵抗が大きいEV電池と内部抵抗が小さいHEV電池、それぞれの電池の特性を生かす。また、2種を同時に使うことで課題を見つける狙いもある。電力損失を減らすために直流のまま配電するシステム構成にもしている。

リコーは実証事業の中で独自技術を開発している。「稼働中に電池の不安全状態を予測するアルゴリズム」「回収した電池内の電気を用いる電池容量の検査工程」「直列接続された電池間の電圧をそろえる安価なバランスシステム」の3種だ。

このうち、「予測アルゴリズム」は設定値を下回ると警告および装置停止を促す。「検査工程」は、電池内に残された電気を使うことで検査時の電力コストが不要となる。「バランスシステム」は、充放電を繰り返すとばらつく電池電圧をそろえる。

電池パック9個で稼働中の蓄電システム

センター内で稼働している蓄電池はEV電池パック4個とHEV電池パック5個を、コンテナに入れたもの。1個約300kgのEV電池パック、約40kgのHEV電池パックは鋼製ラックに納めている。専用のラックで複合機の回収ルートを利用し、運ぶ。

コンテナにはシャッターと換気システムを設けており、季節ごとの電池温度や温度による発電への影響なども調べている。

電気を作る太陽光電池は、コンテナ後ろの駐車ポートの屋根上に設置されている。発電後、コンテナ右にある制御盤を経て、その右にあるエッジDCを模した負荷盤や、蓄電池に給電する。

センター内の蓄電システム。左から蓄電池、制御盤、負荷盤

センター内の蓄電システム。左から蓄電池、制御盤、負荷盤



最新の実証に生きる、EV充電用のHEV電池蓄電

リコーの車載電池の二次利用に関する研究には、環境省「省CO2型リサイクル等設備技術実証事業」に採用された「ハイブリッド車用リチウムイオン電池のリマニュファクチャリング検証事業」もある。

この取り組みは、HEVの車載電池をEV急速充電器の補助電源として使うもの。車載電池を組み合わせた蓄電システムを補助電源として利用することで、ピークカットによる地域電力の安定化を図る。

一方で、充電器の普及が想定ほど進んでおらず、装置コストの低減が難しい。事業化については時期を見計らっている。しかし、HEV、EVの電池を併用する実証にも、検証結果を生かしている。

リコーでは、ESGを経営戦略に統合。ESGの取り組みは「非財務」ではなく、事業における将来のリスク回避・機会獲得につながる「将来財務」として位置付け、活動を推進している。
デジタル社会における情報処理の脱炭素化に向け、事業を通じて社会課題の解決に取り組み、再生可能エネルギーの普及、カーボンニュートラルの実現に貢献する。


センターの外観(リコー提供)。85年に複合機の工場として建設された。2013年の国内生産機能再編に伴う再整備期間を経て16年よりOA機器の再生やオープンイノベーション、環境活動の情報発信拠点として機能している

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