ソニーのEV「VISION-S」国内で試乗デモ 自動運転化も見据えるその実力とは?
2020/8/25(火)
ソニー株式会社(以下、ソニー)は、2020年1月にラスベガスで開催したCES2020内で試作EV「VISION-S」を発表した。そのデザイン性・性能面はもちろん、ソニーが本格的な車を開発したということ自体が、世界中で注目を浴びた。VISION-Sは、ソニーが今後自動車関連のモノづくりを行うための研究材料として開発・製作したもので、残念ながら一般向けに販売する予定はないが、このほどソニー本社でメディア向けの試乗デモ会が開催された。気になる乗り心地や性能面で実際に体験したことをレポートする。
【当記事は期間限定で無料公開しております】開発テーマは、搭乗者を包み込む「OVALコンセプト」
試乗デモ会は東京都港区のソニー本社敷地内で行った。注目度はやはり高く、多くの報道陣が集まった。指定の場所で待っていると、そこに「動く」 VISION-S がやってきた。パワートレインと薄型バッテリーの開発によりクーペ型ながら、実際に乗車してみると思ったより広く快適な室内空間となっていた。
さて、VISION-Sの開発テーマは「OVAL※」だ。そこには、搭乗者をデザイン面・安全面の両方で包み込むような車にするという開発者の想いがある。まず、外観で特徴的なのは、フロントのボディラインから車体全身を包み込むイルミネーションラインだ。モバイルアプリかカードキーを使用して開錠すると、フロントのボディラインが光り、そのままドアノブ、車内へと光が続いていく。
※元の単語の意味は「楕円形、卵形など」
車内に乗り込むと目を引くのが車内幅いっぱいを横断するように備え付けられている「パノラミックスクリーン」と呼ばれるタッチパネル式の液晶ディスプレイだ。安全面が考慮し水平に設置しているため、人の目を上下させることなく左右の目線の動きで全ての情報が読み取ることができる。
また、運転席と助手席それぞれのスクリーンでアプリコンテンツのやり取りが可能になっており、例えば助手席の方で目的地を設定すれば、同じ画面をセンタースクリーンに映すことができ、運転者とも情報を簡単に共有することができる。
33個のセンサーを搭載し、安全面にも自信
現実に走れる車を想定して作られたVISION-Sは安全面にも抜かりはない。車内・車外に搭載したソニーの車載向けCMOSイメージセンサーを中心とした合計33個のセンサーにより、周囲360度の交通状況を把握し、走行時の安全を追求している。また、自動運転化の未来を見据え、自動走行、自動パーキング、自動車線変更など、自動運転レベル2+※相当の運転支援を実現。将来はLevel 4以上の高度な自動運転に対応することを目指しているという。車体を包み込むようにセンサーを配置した設計はデザインテーマである「OVAL」に通じる。※自動運転レベル2+:自動車線変更など高度運転支援の組み合わせで行う特定条件下での自動運転機能がレベル2に相当する。それらに条件付きでのハンズフリー運転など、さらに機能を高めたものがレベル2+。半導体メーカーのNVIDIAが提唱した概念とされている。
通常サイドミラーを配置する箇所には鏡ではなくカメラを搭載し、車内のディスプレイに映像を表示する。これにより悪天候や暗い場所などでの運転時に、人の目では見えづらいところもより正確に周辺の状況を把握することが可能となり、事故リスクの低減にもつながる。「運転しなくてもいい時間」に何をするか追及
ソニーの持ち味であるエンタメ性も遺憾なく発揮している。まず特徴的なのは、「360 Reality Audio」。スピーカーが各シートに埋め込まれており、搭乗者一人ひとりを音で包み込むような設計となっている。広報担当者も「自分が音の中心にいるような感覚になる」と自信を持って話していた。実際に体験すると、ライブ会場のように体全身で体感できる音となっていて、同乗した弊誌記者も思わず「すごい迫力…」と声を漏らしてしまうほどだった。パノラミックスクリーンでは、映画や音楽映像などソニーが提供する多彩なコンテンツを楽しめる。こうした「車のエンタメ化」には、今後の自動運転化を見据えた「いかにその空いた時間を有意義に使うか」というソニーの想いが詰まっている。
自動車業界の自動運転化の流れについて、ソニーの執行役員でAIロボティクスビジネス担当AIロボティクスビジネスグループ部門長の川西泉氏に伺うと、「自動運転になると自分で運転しなくても済む。すると、車内ではその自由な時間に何をするかが重要になってくる。そこに最適なコンテンツ、どのような楽しさを提供できるかを考えていきたい」と思いを語った。
もちろん、エンタメだけでなくスペックにも力を入れている。EV車で静かな走行音を保ち、フロント・リア各200kW・合計400kWの電力を搭載しており、550馬力を誇る。また、コネクテッドカーとして5Gのネットワークに対応しており、アップデートや機能拡張も定期的に配信され、これらのさまざまな機能は随時更新する方針だ。
今後について川西氏は「公道実験を近いうちに行うために、新たな試作機の開発を行っている」とした上で「車づくりというのが目的ではなくて、社会にどうやって貢献できるのかが最終目標だと思っている」と話した。