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トヨタが挑む交通安全|沖縄県警と連携する「沖縄ゆいまーるプロジェクト」

2024/7/22(月)

沖縄県で画期的な交通事故削減の取り組みが進行している。トヨタ・モビリティ基金を中心に9つの組織が連携する「沖縄ゆいまーるプロジェクト」だ。

最新技術とビッグデータを活用し、警察の事故データと車両のプローブデータを組み合わせて高精度で危険地点を特定。沖縄県警の働きかけで道路環境の改善や注意喚起を実施している。この取り組みは事故防止だけでなく、渋滞緩和や観光振興にも貢献。沖縄の交通安全文化を変革しつつあり、今回その実証結果が発表された。

沖縄ゆいまーるプロジェクトの概要と目的

沖縄県警 山内交通部長


「沖縄ゆいまーるプロジェクト」は、TMFが中心となり、沖縄県警察本部、トヨタレンタリース沖縄、矢崎総業、JTB、トヨタ自動車、琉球大学、東京大学大学院工学系研究科、東京海上日動など、9つの組織が連携して取り組む産官学連携プロジェクトである。

プロジェクト名の「ゆいまーる」は、沖縄の言葉で「一緒に助け合う」という意味を持ち、地域全体で交通安全に取り組む姿勢を表現したものだ。

主な目的は次のとおりである。

・レンタカーを含む車の利用者の事故削減
・交通渋滞の解消
・観光振興

このプロジェクトの特徴は、最新のテクノロジーとビッグデータを活用した科学的アプローチにある。具体的には、トヨタのコネクテッドカーから収集される速度、急加速、急ブレーキ情報や規制順守率などのデータと、警察の事故データを組み合わせることで、事故が起こりやすい地点の危険因子を特定している。この分析により、道路構造も事故頻発に関係していることがわかった。

さらに、車載アプリやタブレットを通じてドライバーに直接情報を提供することで、リアルタイムでの注意喚起や、リスク回避行動を促す取り組みも行っている。これにより、事故防止だけでなく、渋滞緩和や新たな観光スポットの創出にも貢献している。

事故件数削減に向けた沖縄県警の新たな取り組みと成果

事故が頻発する下り坂の左折フリーレーンには道路に凹凸加工と注意の案内が設置された

事故が頻発する下り坂の左折フリーレーンには道路に凹凸加工と注意の案内が設置された


「沖縄ゆいまーるプロジェクト」は、交通事故削減に向けた新しいアプローチで注目を集めた。県警担当者は「これまでの交通事故防止対策は、事故が集中している箇所に対して行う対処療法的な対策でしたが、プローブデータを活用することにより、潜在的危険箇所に対する予防的対策が可能となりました」と説明。プローブデータとは、カーナビやドライブデータなどGPSを搭載した車両から集められた移動軌跡情報である。

これにより、潜在的な危険箇所を特定し、効果的な対策へとつながっている。急ブレーキが多発する地点を特定し、事故率やその要因を特定、県警が道路管理者に働きかけて道路の構造見直しや改修などに取り組んだ。例えば、雨の日はスリップ事故が多い道路には滑り止めの設置などの対策である。
夕方には送迎の車で混雑する通学路

夕方には送迎の車で混雑する通学路


また、車載デバイスを活用したドライバーへの注意喚起も行っており、「急ブレーキ情報、重大事故に直結する速度超過の情報を重視しております」と県警は強調。この取り組みにより、外国人ドライバーの事故が55%、日本人ドライバーの事故が38%減少するなど、顕著な成果を上げている。

沖縄県警のこの多角的かつデータ駆動型のアプローチは、これまでに例を見ない取り組みである。交通安全対策の新たなモデルケースとなる可能性を秘めており、全国的な展開が期待される。

新たな観光スポット紹介により渋滞を緩和

観光振興と渋滞緩和の両立も、このプロジェクトの重要な側面である。JTBとの連携により、レンタカーの車載アプリを通じて新たな観光スポットの案内をスタートした。例えば、美ら海水族館に向かう観光客に対して、車載ナビとは異なるルートにある魅力的な立ち寄りスポットを紹介している。

この取り組みにより、新たな観光施設への訪問が増加し、隠れた観光目的地の魅力が広く認知されるようになった。同時に、主要観光地への一極集中が緩和され、渋滞解消にも貢献している。

これらの多角的なアプローチにより、TMFのプロジェクトは単なる交通安全対策を超えて、地域の観光産業の活性化や環境負荷の低減にも寄与している。今後も継続的なデータ分析と改善を通じて、より安全で魅力的な沖縄の観光体験の実現を目指している。

今後の展望と課題

「沖縄ゆいまーるプロジェクト」は、2025年3月までの期間延長が決定し、さらなる発展が期待されている。今後の展望と課題は以下のとおりである。

「沖縄モデル」の確立と全国展開

このプロジェクトで得られた知見は「沖縄モデル」として確立され、全国展開が検討されている。警察の事故データと車両のプローブデータを融合した高度な分析手法に事故件数の多い地点を特定、音声案内による「ドライバー行動変容」、道路管理者に働きかけた「インフラ改善」との包括的アプローチが特徴だ。この「沖縄モデル」をベースに地域の特性に応じたカスタマイズにより、日本全体の交通安全向上が期待される。

データ分析の深化

東京海上日動火災保険の連携協定参加により、データ分析が一層進化した。損害保険会社のデータを加えた多角的な分析が可能となり、事故状況や車両以外の要因、ドライブレコーダーの映像データなどの活用も進んでいる。

これにより、事故原因のより詳細な把握や、効果的な予防策の立案が可能になった。今後は保険料への反映や、より高度な安全運転支援サービスの開発など、さらなる展開が期待される。

技術の進化への対応

自動運転技術やAIの発展に伴い、危険や渋滞に対するより高度な予測や対策が可能になると考えられる。これらの新技術をいかに効果的に取り入れていくかが今後の課題といえる。

観光と安全の両立

沖縄県の重要な産業である観光業の振興と、交通安全の確保をいかにバランスよく両立させていくかが継続的な課題といえる。観光客の満足度を高めつつ、安全性も確保する取り組みが求められるだろう。

まとめ:今後の期待

プロジェクトの成果を一時的なものではなく継続的なものとし、行政、企業、地域社会が一体となって持続可能な形で定着させていくことが重要だと考えられる。そのためには継続的な体制づくりが求められる。

また、このプロジェクトは単なる交通安全対策にとどまらず、データ駆動型の地域課題解決モデルとしても注目されている。今後の展開が、日本の交通安全文化の発展に大きく寄与することが期待される。



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