Do it Theater&自動車販売店のコラボで地域に新たなカーライフを提案「ドライブインシアター2021 inトヨタカローラ秋田」レポート
2021/7/30(金)
コロナ禍において、クルマの中で安全性高く映画体験を味わえるドライブインシアターが再注目されている。
その火付け役となっているのが、プロデュース事業を手掛ける株式会社ハッチのシアタープロデュースチーム「Do it Theater(ドゥイット・シアター)」だ。
Do it Theaterと地域の自動車販売店であるトヨタカローラ秋田を中心に、多くの協力企業とが作り出したイベント「ドライブインシアター2021 inトヨタカローラ秋田」(7月16〜17日)を取材した。
その火付け役となっているのが、プロデュース事業を手掛ける株式会社ハッチのシアタープロデュースチーム「Do it Theater(ドゥイット・シアター)」だ。
Do it Theaterと地域の自動車販売店であるトヨタカローラ秋田を中心に、多くの協力企業とが作り出したイベント「ドライブインシアター2021 inトヨタカローラ秋田」(7月16〜17日)を取材した。
ドライブインシアターという新たな祝祭を
長引くコロナ禍で、この夏も各地で花火大会や夏祭りの中止・規模縮小が相次いでいる。秋田市でも伝統行事の「秋田竿燈まつり」が2年連続で中止が決まった。そこで地域の楽しい時間を取り戻すべく、Do it Theaterはトヨタカローラ秋田とのコラボレーションにより「ドライブインシアター2021 inトヨタカローラ秋田」を企画した。
イベントのテーマは「クルマ×祝祭×地域」。Do it Theater の伊藤大地代表は「ドライブインシアターという新しいカタチの祝祭を創ることを目指した」とイベントへの思いを語る。
シアタープロデュースチーム「Do it Theater」
ドライブインシアターは広い駐車場など野外にスクリーンを配置し、車に乗ったまま映画が鑑賞できる上映施設で、その発祥は1930年代のアメリカだ。1950年~60年に全米でブームとなり、その後世界各国に広がり、日本でも1980〜90年代に流行したが、テレビやレンタルビデオの普及などの影響を受けて衰退していった。Do it Theaterは2014年秋に、代表の伊藤氏が中心となって日本国内でのドライブインシアター復活イベント「ドライブインシアター 浜松」を開催した。それを皮切りに、野外シアターやドライブインシアターなど、体験型のシアターイベントを企画・制作・運営し、新たなシアターカルチャーの創造を目指して活動してきた。
そんな時に突如訪れたのがコロナ禍だった。Do it Theaterも2020年内に開催を予定していたイベントが全て中止・延期となったという。
「単純にドライブインシアターをやるだけなら難しくはありません。けれど、6年間やってきた経験があるからこそ、今、私達がドライブインシアターをやる意義や大義は何なのか。チームで真剣に話し合いました。」(Do it Theater 伊藤代表)
検討を重ね、Do it Theaterではドライブインシアターを、エンターテイメントの火を絶やさず、カルチャーを持続でき、かつ経済活動の場を提供できる一つの方法として再定義した。そして2020年4月から、新型コロナ感染予防の啓発と映画をはじめとしたカルチャーの活性化を目的に、「ドライブインシアター2020」プロジェクトを開始した。
医療関係者のアドバイスを受けながら、コロナ禍での新たなドライブインシアターイベントを企画。東京・神奈川・大阪・千葉などで開催し、2020年12月には神奈川県横須賀市に半常設会場「Drive in Wonder Theater」を立ち上げた。プロジェクトには、トヨタの提供するクルマのサブスク「KINTO」や、フードトラック・プラットフォームを展開するMellowなど、主旨に賛同した事業者や自治体が参画している。
この「ドライブインシアター2020」での一連の活動は、“感染予防啓発と寄付活動も含めた意義ある取り組み”としてグッドデザイン賞2020を受賞した。
そして今回、「ドライブインシアター2021」として、Do it Theaterの東北エリアで初めてのイベント開催が実現した。
地域の自動車販売店の駐車場がドライブインシアターに
今回のドライブインシアターイベントの会場となったのは、秋田県秋田市に本社を構える自動車販売店、トヨタカローラ秋田本店の駐車場だ。トヨタカローラ秋田本店の全面協力のもと、普段は自動車が並ぶ広い駐車場に巨大スクリーンが設置され、会場の設営準備は着々と進んでいった。夕方になり、大きく「DRIVE IN」と書かれたモニュメントがライトアップされると、その場の雰囲気は一変。オールドアメリカの風情が漂う、レトロでムーディーな空間になった。鮮やかな看板を目印に、1台また1台と順番にイベント参加者のクルマがゲートをくぐって会場に入っていく。
日常生活では走ることのないレッドカーペットの上を、やや緊張の面持ちでゆっくり進むと、その先にはコスチュームに身を包んだ受付スタッフが笑顔で迎えてくれる。
今回のイベントでは、感染予防の観点から、スナックやドリンク、マスクや消毒液などを詰め合わせた「ボックスコンセ」を特別に作り、1台に1箱ずつプレゼントした。ボックスコンセの箱表面には、なまはげや秋田犬など秋田県ならではのモチーフや、「手洗いは30秒しっかり洗おう」といったイラストが描かれ、楽しみながら感染予防啓発ができるように工夫が施されていた。
スタッフの誘導に従って駐車スペースに移動し、停車すれば、あとは上映開始までは自由時間だ。カーステレオから流れるイベントMCによるラジオ番組を聞くなど、来場者は思い思いの時間を過ごしていた。
映画館といえば、上映中に食べるポップコーンやジュースなどの軽食も楽しみの一つだろう。ドライブインシアターでもそれは同様で、平常時には各自が車を降りて自由に飲食物を購入できるが、今回のイベントでは感染対策から、来場者全員に会場内のキッチンカーで調理されたフードデリバリーが提供された。
すっかり日も暮れ、全てのクルマが駐車スペースに着くと、いよいよイベントが始まった。
オープニングアクトのビンゴ大会「DriveinBINGO!」では、スクリーンに次々と番号が表示されていく。ビンゴになった当選者がハザードランプを点灯すると、スタッフが花火や流しそうめんセットなどの景品をクルマまで渡しに行った。ビンゴ大会で盛り上がった後は、メインイベントの上映会だ。映画が始まると、来場者はプライベートな車内空間での映画体験を楽しんでいた。
1日目にイベント会場を訪れた秋田県の佐竹敬久知事は、「ドライブインシアターは密を避け、不特定多数の人との接触がないので安心して楽しめる。映画に限らず、クルマという空間を活用したイベントはこれから積極的に行っていければ良いと思う。また、エネルギーに水素を使うのも、再生可能エネルギーの認知促進の意味で非常に意義がある」と語った。
異業種とのコラボで生まれる相乗効果
「ドライブインシアター2021」には、トヨタカローラ秋田を中心に、KINTOやトヨタファイナンシャルサービス、News Picks、損保ジャパンのほか、トヨタ自動車、デンヨー、そしてMellow、NEDO、さらにUCCや地元のスーパーマーケット「マルシメ」など多数の協力・協賛企業が参画した。Do it Theaterとのコラボの相乗効果について、場所を提供したトヨタカローラ秋田の伊藤哲充社長は、「普段はクルマを置くだけの場所がイベントスペースに変わるのは、ドライブインシアターならではのこと。自動車販売店は比較的広い土地を持っているので、その遊休地の利活用方法の一つのヒントになるかもしれない」と話す。
「イベントは普段は接することのない飲食店など他業種の事業者と一緒に仕事ができる貴重な機会。このように(販売店が)新しい活躍の場の提供ができれば、サービスを受ける人たちにも事業者側にも双方にとって良いことだと思う」(トヨタカローラ秋田 伊藤社長)
今回、イベント会場には秋田県内で営業する2台のフードトラックが出店した。
Mellowの石澤正芳代表取締役は「イベントを通じて地元の飲食事業者と直接話すことができた。ローカルの事情を理解し、この地域でどのようにサービスを作れば良いかなど、秋田県でのサービス展開の足がかりになった」と語った。
同じくMellowの森口拓也代表取締役も「ドライブインシアターはコロナ禍でも実現可能なエンタメの場作りと言える。そういった場作りに、我々は飲食系のモビリティという手段で支援をしていけるので、モビリティを通じてやることに大きな意義を感じる」と話す。
史上初、動力源が「水素」のドライブインシアター
またもう一つ、「ドライブインシアター2021 inトヨタカローラ秋田」で注目すべきなのは、イベント電源にCO2を排出しないクリーンな水素エネルギーを活用した点だ。ドライブインシアターへの水素エネルギーの活用は史上初の試みとなる。日本海に面した秋田県は年間を通じて強風が吹くことから、秋田沖の大規模洋上風力発電所など各所に風力発電所があり、県をあげてクリーンエネルギー事業を推進している地域でもある。
伊藤社長は「次世代のクリーンエネルギーである水素を動力源にした東北エリアで初めてのイベントが、ドライブインシアターをきっかけに、ここ秋田の地で開催できたことが非常に嬉しいし、ありがたいと感じている」とその意義を強調する。
会場ではトヨタ自動車とデンヨーとが「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」として開発に取り組んでいる「燃料電池電源車」と「燃料電池式可搬形発電装置」、トヨタ自動車のFCV(燃料電池自動車)「MIRAI」からの電力供給が行われた。
「MIRAIは、当初より災害時に避難所への給電を想定して開発を進めてきたが、近年の環境意識の高まりから野外イベントでのニーズも高まっている」(トヨタ自動車新事業企画部 WCプロジェクト推進グループ 大田育生主査)
東北エリアで初めての活用となった燃料電池電源車と燃料電池式可搬形発電装置を開発したのが、エンジン発電機メーカーのデンヨーだ。デンヨーは工事現場など商用電力のない場所で使用するエンジン発電機の実績があり、その知見を生かして燃料電池式可搬形発電装置を開発したという。
「他社メーカーの多くの燃料電池では、燃料電池は一定の出力で、変動部分に商用電力を使いますが、この燃料電池式可搬形発電装置はその逆。機器の使用状況によって生じる電流の増減部分を全てカバーすることができる点が特徴です。」(デンヨー 研究開発部第二課 川畑健太郎課長)
また、燃料電池の原料となる水素は、NEDOの協力により、東北エリアの福島県にある世界最大級の水素製造施設FH2R(福島水素エネルギー研究フィールド)で再生可能エネルギーを活用して製造された水素を一部に使用した。
「ドライブインシアターは1930年代以来、約80年間、ほぼ変わらず電源にはディーゼルエンジンを使ってきましたが、その歴史を水素で変えていけるのではないかと考えました。今回をきっかけに、「ドライブインシアター2021」が持続可能な次世代エンターテイメントとしての進化への第一歩を踏み出したのではないかと思います。」(Do it Theater 伊藤代表)
移動手段に加えて、ドライブインシアターという楽しみ方も提供
「ドライブインシアター2021 inトヨタカローラ秋田」は、2日間で131台のクルマと約380名が参加。イベント参加者からカローラ秋田の営業スタッフ宛に、「とても楽しかった」など、御礼のメッセージが多数送られてきたという。伊藤代表はトヨタカローラ秋田とのコラボについて、「地域に根ざした自動車販売店さんと一緒につくれたことで、普段のイベントに比べても一体感が強かったように思います。エンタメという観点でも、販売店でクルマを購入した後に“こんな楽しいことがクルマできるんだよ”という部分までストーリーが繋がっていて、非常にやりがいがあるイベントになっている」と話す。
「ドライブインシアターは、クルマをフルに活用するエンタメです。移動手段だけでなく、楽しみ方や目的も提供できれば、クルマに縁遠い人たちにも、“クルマあったらこういうことできるし、楽しいし、かっこいい人生歩めるぞ”というような、クルマへの見方が変わってくところにもつながるんじゃないかと思っています。」(Do it Theater 伊藤代表)
【取材後記】
今回、会場となったトヨタカローラ秋田のバックヤード。暗がりで修理や引取を待つクルマたちが、ドライブインシアターの設備と相まって味のある雰囲気を醸し出す。
「ドライブインシアター2021」では、クルマのポテンシャルをフルに活用したエンタメ体験、新規のフードトラックとの出会い、さらにはクリーンな水素エネルギー活用など、これまでにない新たな価値の数々を、来場者に楽しく、かつ自然に提供していた。
「クルマ×エンタメ」の可能性と地域の自動車販売店と底力を感じる、熱く、暑い、夏のイベントだった。