人気のデマンド交通が自動運転へ進化。福井県坂井市『イータク プラス』が描く未来
2025/11/17(月)
福井県坂井市で、予約制乗り合いタクシー「イータク」を補完する自動運転実証「イータク プラス」が始まった。月3,000件の予約を集める人気サービスの「予約が取りにくい」という課題を、自動運転でどう解決するのか。2027年度に目指す「レベル4」実現への展望について、坂井市と事業を担うMONET Technologiesの担当者に話を聞いた。
取材にご対応いただいた方:
【事業実施者】
坂井市役所生活環境部 公共交通対策課
課長 島野大司(しまの だいじ)氏
課長補佐 小林一裕(こばやし かずひろ)氏
【事業者】
MONET Technologies株式会社
自動運転事業部 地域モビリティ開発課
課長 関 基浩(せき もとひろ)氏
【事業実施者】
坂井市役所生活環境部 公共交通対策課
課長 島野大司(しまの だいじ)氏
課長補佐 小林一裕(こばやし かずひろ)氏
【事業者】
MONET Technologies株式会社
自動運転事業部 地域モビリティ開発課
課長 関 基浩(せき もとひろ)氏
背景:人気サービス「イータク」の“うれしい悲鳴”
――既存の「イータク」が好評な中、新たに自動運転を導入された背景は。

島野氏:
坂井市では2023年(令和5年)から市内全域で「イータク」の運行を開始し、現在では月約3,000件のご予約をいただくなど、市民の皆様から大変ご好評をいただいております。しかしその一方で、稼働車両が10台と限られているため「希望する時間帯に予約が取れない」「病院後の薬の受け取りなど、少し時間が空く用事に使いづらい」といった、予約が集中による課題も顕在化してきました。
この状況を解決し、有人で運行している既存イータクの負荷を軽減するため、この「イータク プラス」の実証を開始することになりました。国の「自動運転社会実装推進事業」の補助金を活用し、5月初旬に申請、承認を得て実施に至ったという流れです。

狙い:なぜ「乗用車」で「春江地区」なのか
――「乗用車タイプ」は全国的にも珍しい。
島野氏:現在、市内で稼働しているイータクはタクシー車両を用いた乗用車タイプであり、市民の皆様にも馴染みがあります。将来的に自動運転を既存の交通体系にスムーズに組み込んでいくことを見据え、親和性の高い乗用車タイプを選定しました。急に車両スタイルを変えるのではなく、皆さんに認知していただいている形で導入を進めたいと考えています。
――実証ルートに春江町の市街地を選んだ理由は。
島野氏:春江地区は、イータクの運行実績において、坂井市内の利用で全体の約40%を占める集中エリアです。特に、乗車需要が約2,200人ある春江支所と、乗車需要が約1,000人ある春江病院という最需要拠点を結ぶルートであり、他にもショッピングセンターや銀行、公共施設が密集しています。
この地区を自動運転化することで委託の効率が最も上がると考えました。また、医療機関への行き帰りに買い物をするといった「寄り道需要」の検証にも適しており、多くの市民から利用後の意見をいただきやすいと考え、この地区を選定しました。
――イータクの具体的な課題は。

小林氏:
最も大きな課題は、ご好評いただいているがゆえの「予約の取りにくさ」です。特に、午前中の時間帯に利用が集中するため、ご希望の時間に乗れないという声が増えてきました。
また、乗車1時間前からの予約に限られているため、例えば病院の診察が早く終わっても、次の移動まで1時間近く待たなければならないといった「空き時間」が発生してしまう点も課題でした。「イータク プラス」の即時予約であれば、こうした課題を解消できると考えています。
運行の実際:イータク プラスに対する市民の反応と技術的課題
――運行開始後の市民の反響は。
小林氏:「乗り心地が良い」「(即時予約で)すぐ来てもらえるので使いやすい」といったポジティブな声をいただいています。利用者層としては、当初は40代・50代の関心層が多いと想定していましたが、実際に運行を開始すると、既存イータクのアプリや、LINE予約に慣れている60代・70代の高齢者の方々にも積極的にご利用いただいている感じです。
関氏:
乗車前は自動運転に「怖い」という不安を感じる方が多いのですが、実際に乗っていただくと、その不安は解消されるケースがほとんどです。坂井市でも自動運転で時速48kmまでスムーズに加速し、交通量の多い道でも違和感なく走行できる点を体感していただくことで、「逆に感動した」という声もいただいています。ただ、運転席に人が座っていても、初めて乗る方は怖いと感じるという心理的なハードルは、今後の社会受容性を高める上で重要な課題だと認識しています。
――技術的な課題と安全確保の工夫は。
小林氏:技術的な課題もいくつか見えています。例えば、路上駐車車両など障害物を検知した際は車両が完全に停止し、ドライバーが手動で回避操作を行う必要があります。また、信号のない交差点で譲り合いが発生する場面では、自動運転システムが安全を優先して停止するため、対向車が戸惑い、結果的に軽い渋滞につながるケースがありました。商業施設への乗り入れなど、手動介入が多くなる場所のデータを収集し、改善につなげることが重要だと考えています。
関氏:
現在のシステムでは、安全上、中央線をまたぐような車線変更は実施しない設定になっており、そうした場面では手動運転に切り替えています。対向車を確認しながらの右折も、タイミングが判断できず停止してしまうケースがあり、技術的な進歩が必要な部分と認識しています。
今回の実証は、どのような場面で手動介入が必要になるのか、そのデータを収集・分析し、システムの精度を向上させていくための非常に重要なステップです。現時点では、渋滞を引き起こす場合は手動で対応するなど、現場の運用で安全を確保しています。
社会受容性:不安を払拭する「見える化」と「体験」

――利用者の不安を和らげるための工夫は。
小林氏:まず「運転の見える化」として、後部座席のモニターで現在の走行状況を表示したり、車体にラッピングを施したりして「いつも走っている」ことを市民の皆様にアピールしています。
さらに「体験機会の創出」として、小中学生や、坂井高校自動車コースの高校生向けに説明会や試乗会を実施しました。11月からは春江病院に坂井市の職員が出張し、高齢者の方向けの試乗案内と安心説明会を行う予定です。また、福井工業大学と連携し、大学生に乗車を促すなど、幅広い世代に体験してもらう機会を設けていきたいと考えています。
展望:2027年のレベル4実現、そして持続可能な交通へ

――2027年度の「レベル4」実現に向けたロードマップは。
小林氏:今回の実証は、レベル4実現に向けた第一歩です。まずは今年度の実証で得られた運行データを詳細に分析し、技術的課題を一つひとつ解消していきます。そして、できれば毎年こうした実証を繰り返し、レベル4に近づけていきたいですね。2027年度には、まずは直線で見通しの良い縦貫道路のような一部区間で、完全自動運転の認可取得を目指しています。
――実証の成果を、今後の政策にどう活かすか。
島野氏:今回の実証で得られる利用者の動向などのデータは、今後の坂井市の交通政策全体に役立てていきます。現在、バスやタクシー業界では運転手不足が深刻化しており、昨年10月にはバスの大幅な減便も発生しました。この状況を打破し、持続可能な公共交通を構築していく上で、自動運転の導入は極めて重要です。
将来的には、有人運転の「イータク」と無人運転の「イータク プラス」を融合させ、市全体の利便性を向上させていきたい。この坂井市のモデルを成功させ、全国に発信できるような先進事例にしていきたいと考えております。
取材を終えて
月3,000件の予約を誇る「イータク」の成功に安住せず、次の課題解決に挑む坂井市の姿勢に感銘を受けた。自動運転は未来技術の実験ではなく、市民の「予約が取りにくい」という声に応えるための現実的な一手だ。この取り組みがレベル4を実現し、全国の地方交通が抱える課題を解決するモデルとなることを期待したい。
取材・文/LIGARE記者 松永つむじ







