林テレンプが車両音響シュミレーターで新事業 変わるクルマの「音」へのニーズに対応
2021/1/21(木)
自動車内装部品の総合メーカーの林テレンプ株式会社(以下、林テレンプ)は、自動車業界各社の防音分野の研究開発支援を目的に、走行時の車内の音をリアルに再現できる独自開発の車両音響シミュレーターAdvanced Acoustic Simulator(以下、AAS)を通じた新事業「AAS技術サービス事業」(以下、AAS事業)を開始する。
自動車の防音分野では、自動運転やMaaSに関する取り組みが活発化したことで、車内の静粛性はこれまで以上に高い基準で求められるようになっている。また、EVではエンジン音がなくなるためロードノイズや風切り音がより際立つなど、音に関する各自動車メーカーの研究開発は、世界的に見てもよりスピード感が求められているのが現状だ。新事業に使用するAASは2018年に開発し、あらかじめ収録した走行時の車内音を3D音響技術によって忠実に再現するシステムだ。音だけでなく映像と振動も連動させることで、よりリアルな再現が可能になるほか、防音材の位置や素材、厚みなどに変更を加えた場合の音の変化予測を、解析データをもとに実音で再現する機能も備えている。
また、自動車業界では静粛性の目標を数値で設定するのが一般的だが、データ上で目標をクリアしても人間の耳で感じる静粛性とは異なる場合があり、微妙なフィーリング上の問題が度々発生するという。その課題に対し、AASを活用することで数値だけでなく「実音」での静粛性も併せて確認できるため、数値と人間の聴覚を組み合わせたフィーリング重視の開発を行うことができる。
■「AAS技術サービス事業」の概要
(1) バーチャル試乗会で静粛性の評価を効率化する「データ測定・視聴サービス」
従来、実車を用いた試乗会では、天候やドライバーの癖の影響を受けるため、完全に同じ条件での比較が難しい。また、乗り換えや移動時に間隔が空いてしまうため、音を忘れてしまうというデメリットがあった。AASでは、あらかじめ録音したデータを使用するため、何度でも同じ条件下での比較が可能。データの切り替えだけで、すぐさま別車両との比較ができるので、余計な空き時間なく聴き比べることができる。加えて、防音材に変更を加えた場合の音の変化予測を、林テレンプがコンピュータ解析したデータをもとに、実音で再現することができる。開発目標の音についても、バーチャル上で比較・検討が可能だ。
(2) フレキシブルな音響運用を可能にする「AAS本体販売・レンタル」
2018年に開発したAASは、これまで林テレンプグループ内での使用を中心に運用していた。今後、より多くの自動車関連メーカーの研究開発への導入をめざし、本体販売とレンタルを本格的に開始する。バーチャル試乗会の開催や走行音データライブラリ(後述)の視聴などを顧客自身でよりフレキシブルに利用できる。(3) 各種車両の走行時車内音データを視聴可能にする「データ提供サービス」
AASを利用して、EVを含む国内外の各種車両の走行時車内音データを聴き比べることができるサービスだ。大衆車から高級車まで、林テレンプが精密に録音した豊富なデータライブラリから、何台でもバーチャル上で比較できるのが特徴だ。また、車種ラインアップをさらに拡充する予定とのこと。料金体系は、1件ごとの従量課金制とサブスクリプション方式を用意しており、顧客のスタイルに合わせて運用可能。データはクラウド上で管理されており、海外でも利用できる。
将来的には、これらの事業を、北米・欧州・中国・タイでも事業展開予定で、日系メーカー以外にも広くソリューションを提案する方針。AAS事業を通じて、自動車業界のバーチャル開発を支援し、静粛性の開発プロセスの効率化につなげたい考えだ。