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自動運転EVバスで市民の移動・買物活性化 常陸太田市の交通政策

2024/6/13(木)

茨城県常陸太田市の自動運転EVバス「じょっピー」乗車1000人達成式典で撮影 左から市のマスコット「じょうづるさん」、宮田達夫市長、1000人目の會澤さんご家族

茨城県常陸太田市の自動運転EVバス「じょっピー」乗車1000人達成式典で撮影
左から市のマスコット「じょうづるさん」、宮田達夫市長、1000人目の會澤さんご家族

茨城県常陸太田市は2024年2月に自動運転EVバスの定常運行を開始し、路線拡大の動きを進めている。バス利用者は4月に1000人を記録。24年度は、実証実験を行った上で運行車両を増車する計画だ。自動運転で市民の移動しやすさ、まちのにぎわい創出を図る市の取り組みについて取材した。

自動運転EVバスを購入、市民名付けた「じょっピー」

市は23年2月に自動運転の実証実験を、マクニカ、日本工営と共に行った。実証は市民から好意的に受け止められ、市は車両を購入。24年2月16日、自動運転EVバスの定常運行を始め、同時にマクニカと連携協定を結んだ。

自動運転車EVバス「EVO」は、マクニカと仏ゴーサン(Gaussin)社の合弁会社GAUSSIN MACNICA MOBILITY(旧NAVYA)が製造するレベル4対応の車両。マクニカは同社からEVOを輸入し、日本の法規や走行する地域の状況に合わせた調整を施している。

常陸太田市では購入した「EVO」に、ピンク色を下地として市のマスコットキャラクター「じょうづるさん」をあしらったラッピングを施した。利用者や道行く車、歩行者の目に留まりやすくし、安全性を高める狙い。自動運転車に親しんでもらいたい期待もある。
式典会場の駐車場に入るところ

式典会場の駐車場に入るところ



また、市は定常運行を始めるにあたって車両の愛称を公募。市内の小学生から寄せられた「じょっピー」と名付けた。「じょうづるさん」の「じょ」、目を引くピンク色の「ピ」と「ハッピー」の「ピー」を組み合わせた名前だ。

国内唯一の定常運行、リアルタイム情報を配信

現在、国内で走行するEVOは2台で、定常運行しているのは常陸太田のみ。「じょっピー」は、市役所を起点として23年に新設された商業施設や隣接する専門店間など停留所5カ所を結び、全長約1.6キロ区間を時速約18キロで循環走行する。

1日4往復で毎日、今のところ運賃無料で運行している。乗車は先着順で定員9人。運行情報や、車両のリアルタイム位置・混雑情報を市の行政情報アプリ「じょうづるさんナビ」で確認できる。将来は地域デジタル通貨「じょうづるさんペイ」と連携して地域振興に役立てる可能性もあるという。


自動運転や交通政策を担当する市・企画課 課長の安島剛さんによると、定常運行を始めて以来4月20日までの利用者数は1日16.5人で順調に推移している。

子供連れ目立つ利用「次世代が最新技術に触れる」

アンケートでは利用者の95%超が「もう1回乗りたい」と回答。「次世代の技術に触れられるのがいい」との感想も寄せられているという。子供を乗せたい・子供が乗りたいという家族連れの利用が多いといい、まちのにぎわいづくりにも寄与しているとの見方だ。
取材に対応いただいた市・企画課のみなさん</br>左から主任の大内直大さん、課長の安島剛さん、主幹の黒羽賢さん

取材に対応いただいた市・企画課のみなさん
左から主任の大内直大さん、課長の安島剛さん、主幹の黒羽賢さん



毎週土曜にお孫さん連れで乗車する常連さんもいる。「お孫さんがじょっピー大好き」と教えてくれたそうだ。市とマクニカは市民にじょっピーや自動運転のことを知ってもらい、さらにファンを増やす考え。

現在、利用者にはじょっピー乗車記念の缶バッジを配布している。子供は乗車中に飽きてしまうこともままある。そのときはオペレーターが停車中に自動運転についてわかりやすく説明したり、特製のステッカーを配布している。
バッジをプレゼント。市職員の大内さんが手作業で作ったもの

バッジをプレゼント。市職員の大内さんが手作業で作ったもの



24年度は市内の学校で市職員やマクニカ社員が自動運転についての出前授業をしたり、グリーンスローモビリティ(GSM)の体験会をしたりを考えているという。

路上「低速車両に注意」、遠隔監視は地域の交通事業者

じょっピーの走行ルートは市道だけでなく県道と国道にもまたがり、実証や定常運行に際して市は警察や国・県との協議を密にした。車で混雑する商業施設への入り口には道路に「自動運転低速走行中」の文言を記し、「自動運転車に注意」の看板を11カ所に設けた。


車両の遠隔監視は市内で路線バスを運行する茨城交通の事業所内で行っている。「地元をよく知り、不具合があったときに駆け付け、メンテナンスもできる地域の事業者にお願いすることに意味がある」とマクニカの川原さんは話す。

また、遠隔監視センターを市内に設置予定だという。24年度の自動運転の実証実験では、一部レベル4での走行も実施する予定。
市役所前で打ち合わせする黒羽さんとマクニカ川原さん

市役所前で打ち合わせする黒羽さんとマクニカ川原さん



駅前から城下町に拡大、山間部の移動も便利に

市は24年度に自動運転EVバスを2路線に増やしたい考え。鉄道駅の常陸太田駅と、大名佐竹氏の統治時代から商店が集まり、住宅も建つ「鯨ヶ丘」の間の3D地図を作成する。24年度の内閣府や国交省の補助金を活用する予定。


定常運行後のアンケートで鯨ヶ丘にも自動運転EVバスを走らせてほしいとの要望が集まったために、路線増を検討している。また、市の地勢は面積が広く山が多い。山間部に住む高齢者や、運転免許をもたない児童生徒も移動しやすいまちを自動運転でつくるという長期目標も、市はもつ。

自動運転EVバスが市中心部を走行し、中心部から山間部を含む市内各地との間を路線バスが結ぶといった形を考えている。また、山間部のバス停と住宅間のラストワンマイルを自動運転車でつなぐ構想もある。
既存の公共交通と自動運転で市内の交通を分担する将来構想(市提供)

既存の公共交通と自動運転で市内の交通を分担する将来構想(市提供)



貨客混載で買物支援、地域交通の連携

加えて、市は自動運転EVバスと路線バスや乗合タクシーが連携する貨客混載、買い物支援も実装に向けて検討している。24年2月に実証実験を行った。じょっピー、茨城交通の路線バス停留所間で商品を配送し、物流の効率化や買い物客の利便性向上を図る試みだ。

実証では、買い物客が注文した商品を、商業施設でじょっピーに積み、同じく停留所がある市役所にまず運んだ。市役所で商品を茨城交通の路線バスに積み替え、「市役所水府支所」に商品を配送して買い物客が支所で商品を受け取る仕組み。
貨客混載・買い物支援実証実験の概念図(市提供)

貨客混載・買い物支援実証実験の概念図(市提供)



自動運転EVバスの定常運行と、貨客混載による買い物支援・物流システム構築事業は内閣府の「未来技術社会実装事業」に採択されている。市は24年度も2つの事業のルート拡大、実装を目指して取り組む。

「初乗車楽しい」1000人記念式 1万人目指して出発!

4月20日には、じょっピー停留所のある「カインズ常陸太田店」で乗車1000人の記念式典が行われた。1000人目の利用者となったのは、双子の女の子と弟、お母さんの會澤さんご家族。当日は市役所に朝から乗車待ちの行列ができたそうだ。

會澤さんご家族には記念品としてじょっピー貸切乗車券が贈られた。普段は運行しない夕方にも乗車できる特別チケットだ。じょっピー乗車は今回が初めてという會澤さん。じょうづるさんや宮田達夫市長らと一緒に記念撮影したお子さんは「乗って楽しかった」「また乗りたい」と大満足の様子で笑顔を見せた。
貸切乗車券を手にするお母さんと子供たち

貸切乗車券を手にするお母さんと子供たち



市長は式典で「定常運行を始めてから2カ月と少しで1000人の利用を達成したのは市民のご協力、職員、運行していただいているマクニカの熱意があってこそ。今後もお楽しみいただきたい」と話し、自動運転の拡大に強い意欲を見せた。

式典の最後には、司会者が「次の1万人を目指して、じょっピー出発!」と呼びかけ、式典参加者一同の声援に送られながら、利用者を乗せたじょっピーが走っていった。

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