歩行者中心の道路を実現する「ほこみち制度」、その狙いと可能性
2021/4/12(月)
2020年の道路法改正により、賑わいのある道路空間の創出を目指した「歩行者利便増進道路」、通称「ほこみち制度」(https://www.mlit.go.jp/road/hokomichi/)がスタートした。飲食店の路上営業やオープンカフェ設置などへの利用が想定された同制度だが、まちづくりや各種モビリティサービスにはどのような影響があるだろうか。国土交通省の担当者にほこみち制度の概要と狙いを聞いた。
道路を「通行」以外の目的で柔軟に利用できるように
ほこみち制度は、歩行者を中心とした道路の構築に向けて、国や市町村といった各道路管理者が、快適な生活環境の確保と地域活性に貢献する道路を指定するものだ。ほこみちに指定された道路には、大きく分けて「構造基準」と「空間活用」に関するメリットがある。構造基準に関しては、「歩行者の利便増進を図る空間」を定めることができる。たとえば、車道が4車線ある道路を2車線に減らして歩道や自転車通行帯を拡充する際に、オープンカフェなど歩行者向けの空間を歩道の中に整備することが可能となる。
空間活用に関しては、「特例区域」を定めることで道路空間を活用する際に必要となる道路占用許可が柔軟に認められるようになる。法律上、道路は通行のために利用されるものと位置づけられているが、特例区域内であれば通行以外のさまざまな目的を持った設備や施設が設置できるようになる。
こうした道路占用許可に関する規定は、従来の国家戦略特別区域法においても定められていたが、ほこみち制度が創設されたことにより、国家戦略特別区域に限らず全国すべての地域へと対象が拡大した形となる。
コロナ禍がほこみち制度の普及を後押し
担当者によるとほこみち制度創設のきっかけは、「都市のバイパスや環状道路が整備されたことで、駅前のメインストリートの車両通行量が減少してしまっている事例が複数出てきており、自動車の通行量に応じた最適な空間利用を考える必要があった」ことだという。そして、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が、ほこみち制度の普及を後押しする。昨年2月に道路法改正案が閣議決定された後、コロナ禍を受けて、昨年6月からは飲食店等を支援するための緊急措置として沿道飲食店等の路上利用の占用許可基準を緩和する特例措置が導入された。いわば、“期間限定版のほこみち制度”だ。この特例措置は令和3年9月30日までの延長となったが、コロナ禍収束の見通しが立たないなか、路上での営業を希望する飲食店などから継続を要望する声が多数あったという。
こうした流れのなか、今年2月には大阪市の御堂筋、神戸市の三宮中央通り、姫路市の大手前通りが全国で初めて「ほこみち」に指定された。本格的にオープンカフェなどの施設が設置されるのはもう少し先になるが、担当者は「道路の柔軟な利活用が増えていくように、この3か所以外にもほこみち制度を広めていきたい」と話している。
「ほこみち」許可から活用までの流れ
ほこみちを利用したい場合は、占用したい道路の道路管理者の確認が必要だ。地方公共団体が管理する国道・都道府県道・市区町村道については各地方公共団体へ、国が管理する国道の場合は、国道事務所へ問い合わせる形となる。また、道路に椅子やテーブルを設置する場合などは、道路管理者による「道路占用許可」および警察による「道路使用許可」が求められる。警察による道路の使用許可は、自動車を運転する人の視線を奪わないか、人が集まっても通行できるようなものか、などといった点が条件になってくるという。
ただし、警察もほこみち制度には協力的だ。警察庁から発表されているほこみち制度の施行通達では、ほこみちの実現に向けて前向きに検討するよう全国の警察本部や地方機関の長などへ呼びかけられている。
なお、基本的にほこみちにおける民間の営利活動に制限はないが、周辺の店舗や施設などとの調整が発生する場合もあり、担当者は「エリアマネジメント団体や商店街協会などの組織に一括で占用管理をしていただくという形もありえるのではないか」と話している。
工夫次第で大きく広がる道路の可能性
ほこみちの利用事例として想定されるケースは、オープンカフェなどの食事施設の設置のみにとどまらない。デジタルサイネージやアーチといった広告宣伝用の設備を置いてビジネスに利用したり、音響機材や舞台などを設置してイベントに活用するなど、さまざまな応用例が考えられる。キッチンカーなどの移動販売車や電源の設置も可能であり、担当者は「工夫して道路のこれまでにない使い方を見つけてほしい」と、ほこみち制度の柔軟性の高さをアピールする。バス停やシェアサイクルのサイクルポートの設置場所などを上手く設計し、モビリティポートとしての機能を持たせることもできるだろう。電動車椅子、電動キックボードなど、マイクロモビリティの駐輪所として活用できる可能性もある。
「ほこみちは歩行者の利便性を高めることが一番の目的なので、積極的に公共交通を利用してそこまで来てもらうことも重要。道全体・街全体としてどう賑わいをつくりだしていくかを考え、特例区域のかけ方を工夫してもらえれば」(担当者)
「ほこみち」という通称には「ひらがなにすることで、やわらかくてほっこりするような道路にしていきたいという思いが込められている」と、担当者は説明する。高齢者や障がい者にも使いやすい空間となるよう、構造基準にはバリアフリー基準の適用が求められており、ほこみちは誰もがその恩恵を受けられるような道へと進化していくことが期待される。
ほこみち1号指定となった神戸市の三宮中央大通りでは、三宮中央通りまちづくり協議会がほこみち制度の存在を知り、神戸市に呼びかけて1号指定の取得に至った。三宮中央通りまちづくり協議会の永田泰資氏は、「三宮駅周辺の再整備計画である『三宮クロススクエア』の開発に伴い、三宮中央通りは将来的に歩行者空間が拡張する。これを見据え、ほこみち制度で道路の利活用の仕方を検討していきたい」と話す。
今後ほこみち制度でどのような新しい道路の使い方が見出されるか。今後の取り組みに注目していきたい。