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【IVS2025】国産ロボットタクシーの誕生「自動運転での日本の勝ち筋とは?」ティアフォー×newmoと政策キーパーソンが語る

2025/9/11(木)

IVS2025企画セッション登壇者(左から加藤氏、菊川氏、西村氏、楠田氏、青柳氏)

IVS2025企画セッション登壇者(左から加藤氏、菊川氏、西村氏、楠田氏、青柳氏)

自動運転のキーパーソン4人が、日本の自動運転は世界に類を見ない強みを持つとして「日本の勝ち筋」について意見を交わした。7月2日から4日まで開催された国内最大級のスタートアップイベント「IVS2025」の企画セッション「自動運転が新たにつなぐ、地域×移動の価値最大化」にて議論された。
登壇者はティアフォー代表取締役CEOの加藤真平氏、newmo代表取締役CEOの青柳直樹氏、自由民主党・衆議院議員の西村康稔氏、経済産業省イノベーション・環境局長の菊川人吾氏の4人。モデレーターにモビリティジャーナリストの楠田悦子氏を迎え、日本起点の自動運転社会実装をテーマに、技術・政策・地域連携をいかに掛け合わせるか、熱論が繰り広げられた。IVS2025は参加者1万3,000人を数え、前年比約1,000人増の盛況ぶりを見せた。

<登壇者プロフィール>
加藤 真平 氏(ティアフォー代表取締役CEO)
自動運転技術の研究を経て、世界初のオープンソース自動運転ソフト「Autoware」の開発を主導。2015年にティアフォーを創業し、バス・タクシー・トラック向けの自動運転技術開発やグローバル展開を推進している。

青柳 直樹 氏(newmo代表取締役CEO)
ドイツ証券投資銀行やメルカリのフィンテック事業に携わった経験を持つ。2024年創業のnewmoは大阪エリアで車両1,000台規模のタクシーグループを形成し、シリーズAで約179億円を調達。そのスピードと規模は国内スタートアップの中でも突出している。

西村 康稔 氏(自由民主党 衆議院議員)
元新型コロナ対策担当大臣・経済産業大臣。スタートアップ支援、地方創生、国際競争力強化などを推進。近年は自動運転分野の政策づくりにも深く関与している。

菊川 人吾 氏(経済産業省 イノベーション・環境局長)
スタートアップ支援制度や投資家との連携整備、スタートアップによる地方の課題解決型事業の支援に取り組む。自動運転分野でも、政策面からの支援体制整備を担う。

■自動運転の “今”と世界との比較 米中は自動運転タクシーと自家用車だけ?

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――日本の自動運転は本当に出遅れているのでしょうか。また、日本独自の強みとそれを活かし米中にキャッチアップする方法は何でしょうか。

加藤氏: 自動運転といえば、タクシーのイメージが先行しているのではないでしょうか?実は、これはごく一部です。自動運転モビリティは、バスやトラック、工場内のトレーラー、製鉄所内のタンクローリー、鉱山作業用トラックを含め、実は非常に多岐に渡ります。そしてその約半分は既に実用化が始まっています。

これらの多様な自動運転モビリティに向けた自動運転システムのオープンプラットフォーム(自動運転OS)を提供している企業は、現時点でティアフォー以外にありません。そのため、ティアフォーは有利な立場にあります。

例えば、日本が力を入れていて、経済産業省が旗を振っている自動運転トラックでも共通の自動運転プラットフォームはまだ存在しないので、ティアフォーのような企業が市場をリードしていくと考えられます。さらに、日本はもともと公共交通に強く、特に路線バスの需要が高い国です。

確かに、米中は、タクシーや自家用車という一部で自動運転が進んでいることは間違いありません。しかし、裏を返せば「それしかできないの?」というわけです。タクシー以外の分野では日本に分があるというわけなのです。

■日本の強みは接続力!全勝ちへの道筋

加藤氏: 日本は、自動運転モビリティに必要なものは全て持っているんです。それらをすべて接続させることができるのが日本の強みで、これができれば、どの自動運転モビリティでも他国に勝つことができます。現在は一部の高度なAIやロボット技術であったり、莫大な投資が必要だったりするフェーズで遅れをとっているだけで、そこさえクリアすれば、日本はあらゆる自動運転モビリティ分野で優位に立てます。

■投資銀行やフィンテックでの知見を自動運転へ

青柳氏:日本には、これまでに培われた自動運転の技術基盤があります。しかし、米中は自動運転タクシーやラストマイルモビリティがここ数年で劇的に先行しました。日本企業が急速にキャッチアップし、サービスを実現するには相応の投資が必要です。そのために、私のこれまでの投資銀行での経験やフィンテックの知見をうまく組み合わせて進めるのが、自動運転分野でスタートアップとして挑戦するための必然です。

アメリカWaymoはGoogle傘下で1兆円を投下していて、この規模になるとスタートアップは無理だと思うんです。しかし、中国を見た時に、ロボットタクシーやロボットトラックにフォーカスをして、それだけで資金調達額は1兆円ではなく1,000億ぐらいで、中国の4つぐらいの都市で100台規模の商用サービスを実現するスタートアップが出てきている点が、非常に興味深い。巨大企業のアリババやテンセントではないのです。

さらに最近はAI技術などのコストダウンにより、アメリカで1兆円かかっていたものが中国では1,000億円で実現可能になっています。newmoとしては、3桁億円は必要そうですが、一定規模の投資があれば、米中にキャッチアップできると考えています。

■自動運転の国際標準と国際基準に反映させる

西村氏:日本全国で100ヶ所ほど実証実験が行われていて、先頭のトラックに人が乗り、後続を自動運転にする試みや、静岡県の沼津と浜松の間で無人走行するなどしています。ただ、自動運転タクシーやロボットタクシーの実用化は米中が先行しており、日本はまだ本格的な展開には至っていません。

その理由は大きく2つあり、1つ目は安全性。日本の場合は事故が起きないよう厳しく事前規制していますが、米中の場合は事故が起こってから規制を強化する、というように環境が違います。2つ目は資金力。米中ではGoogleなど大規模なプラットフォーム企業が資金を出し、兆円単位で支援しています。

現時点で日本はこの2つの差により遅れていますが、必ず逆転できます。まず、安全性については、日本は安全基準を規制当局と調整しながら開発を進めており、時間はかかるものの、実装されれば高い安全性が担保されます。結果、ヨーロッパなど他国でも売れるようになります。資金面では、必要な投資額が下がりつつあり、車両開発は他社に任せ、AI技術に特化すれば、スタートアップの参入も加速するでしょう。

必要な資金と時間は減り、AI技術も急速に活用しやすくなっています。今後1、2年が正念場で、数年後には米中を上回る、そして世界で売れる技術やサービスが出てくると期待しています。

菊川氏:日本の技術力は全く負けていません。社会実装する上で、米中に比べて安全面のリスクを許容しないという違いだけです。政府としては、2027年度に全国100ヶ所以上で自動運転サービスの実現を目指し、今秋以降、十分予算を確保して展開する方針です。この動きがさらに広がれば、スケールメリットによりコストも下がります。

また、日本はタクシーやコミュニティーバスなど独自の自動運転モデルを世界に示し、日本発の自動運転として発展すると予想されます。

安全性については、ISO(国際標準化機構)などの国際標準に日本で定めた標準を反映することを視野に入れています。実現すれば、世界中が日本の基準で動くことにつながります。

加藤氏:自動運転用オープンソースソフトウェアの「Autoware」を世の中こういうものを使うべきですよねという国際標準にすべく、経産省の支援のもと標準化を推進中です。標準が整備できれば、国際連合の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)車両の国際基準の整備も有利になりますし、逆も然り。引き続き、標準を管轄する経済産業省と基準を管轄する国土交通省で連携して進めていただきたいです。西村先生と菊川さんがおっしゃったやり方で一番成果が出せるように突き進む、これが最もよい勝ち筋だとは思います。

青柳氏:米中でも安全性・冗長性を重視した企業が自動運転の商用化に成功しています。そのため、十分に基準が整備された上で2027年から展開できるのはかなり大きなチャンスです。しっかりした安全性や冗長性を満たした上で実験的アプローチに臨むことが、日本の勝ち筋です。

企画セッション「自動運転が新たにつなぐ、地域×移動の価値最大化」の模様

企画セッション「自動運転が新たにつなぐ、地域×移動の価値最大化」の模様


■連携して2027年には100台規模で

――日本の強みを生かし、米中にキャッチアップする方法を掘り下げたいと思います。戦略を考える中で、ティアフォーとnewmoの協業は、その一手なのでしょうか。

加藤氏:日本はどれか1個に秀でて特化するのではなく、様々な分野に投資してきた結果、自動運転を支える技術やインフラ、サービスなどあらゆる要素を全て持っており、それらを組み合わせられるのが強みです。また、パソコンのようにコアとなるOS部分を他国に依存するのではなく、自動運転では日本が作ったオープンソースソフトウェアで展開できています。

一方で、近年は新しい変数としてAIロボットが生まれ、想像していなかったデータドリブンの世界になっています。全てがAI技術で完結するわけではありませんが、AI技術なしでは競争力のあるものが作れません。だからこそ、日本は必要な要素が全て揃っているという強みを活かし、関係者同士が足を引っ張り合わず取り組めば、世界トップ水準の自動運転技術やサービスを実現できます。

青柳氏:単独では5年間で1,000億円以上かかり、実現可能性が伴いません。そこで、ティアフォーの「Autoware」をOSとして使わせていただき、newmoはラストマイルモビリティの基盤を作ることで、より早く低コストでグローバルのスピード感に追いつくことが協業の狙いです。実際、すでに「Autoware」を使った一般車両の実証実験を行なっています。人が乗車した状態ではありますが、年内には大阪で自動運転走行も実現可能と見ています。2027年には100台規模にしたいと考えています。

西村氏:1社で全て賄おうとすると、多大なコストや人員が必要となり、ベンチャー企業には実現が難しいです。今回の協業のように、様々な強みを持つ日本企業同士がどう組んで展開するかを考える時代だと思います。

菊川氏:互いに足を引っ張り合うのではなく、政府がリーダーシップを取り、自動運転の社会実装を官民一体で進めていく段階にきています。その中で、ティアフォーとnewmoの協業は非常に心強いですし、後押しする基盤が整ったと思っています。

■地方からか都市からか?国産自動運転をスケール化するための成長ステップ

――国産の自動運転をスケール化するために、どのような成長ステップを想定していますか。例えば、社会実装を都市部と地方部のどちらから展開するのが望ましいかなどお聞かせください。また、日本に現状足りないものは何でしょうか。

加藤氏:都市部か地方部かの二者択一ではなく、工夫して両方を進めるのが最善です。都市部はユースケースデータが豊富で開発が進みやすいですが、日本全体で実装を進めるには、地方部の根深いニーズにも応え、広く理解と支援を得ることが必要です。逆に地方部だけで進めると、技術はあってもデータが揃わず、ある一定の水準で進化が止まる可能性があります。だからこそ、都市部と地方部の両方で展開すべきなのです。

日本に足りないものはありません。ただ、コンセプトでは負けている。例えば「Waymoに遅れている」と考えた時点で負けているのです。コンセプトで勝ったからといって必ず成功するとは限りませんが、コンセプトで勝てなければどんなに努力しても負けは変わりません。

だからこそ「Waymoが2兆円も使ってくれた」と考え、先行企業が多額の資金を投入し、積み重ねてきた成功や失敗を調査やベンチマークとして活用する。そして、効率よく適切なタイミングで投資することが大切です。

特にWaymoは優れたベンチマークなので、同等の技術やサービスを十分の一あるいは百分の一のコストで実現できれば勝ちです。

青柳氏:都市部と地方部の二元論ではありません。同時に展開する場合、まとまった台数を投下してデータ収集します。先駆け企業より低コストとはいえ、100億円単位の投資が必要なので、スタートアップのエコシステムを上手く活用することが重要です。

日本は自動運転用の車両やルール、AIや計算資源へのアクセスがここ数年でかなり整備され、環境という意味では武器が揃ったところです。あとは市民の方々と一緒に作り上げる部分もあるので、合意形成とオペレーションが不可欠です。これは、大企業だけでもスタートアップだけでもできないので、日本の皆さんと取り組んでいくのが今後のポイントです。

西村氏:自動運転タクシーのニーズは圧倒的に地方部が多いですが、都市部にも人材不足の問題があります。また、都市部と地方部の体験格差や移動格差も大きな課題なので、全国各地で展開しながら、収集したデータや課題を共有する仕組みもぜひ作るべきです。

■政府調達とグローバル展開で日本を牽引

菊川氏:政府としてやるべきことは2つです。1つ目は政府調達。今年の秋から経済産業省の国会までの定期バスを自動運転で運行する計画です。政府が率先して自動運転を導入することで、日本ならではのユースケースや社会課題解決策を対外的に示せます。2つ目はグローバル展開です。経済産業省がアメリカに設立したスタートアップ支援拠点、JIC(ジャパンイノベーションキャンパス)から日本の自動運転技術を世界に発信できると期待しています。

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