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JR東が高輪ゲートウェイでビジネスイベント オードリー・タン氏が基調講演

2025/5/21(水)

オードリー・タン氏が登壇

オードリー・タン氏が登壇

JR東日本は、5月13日と14日に高輪ゲートウェイシティでビジネス創造イベント「GATEWAY GATEWAY Tech TAKANAWA2025」を開催した。13日に台湾の前デジタル担当大臣オードリー・タン氏が講演した他、モビリティをテーマとしたパネルディスカッションも実施した。

3月27日にまちびらきを迎えた高輪ゲートウェイシティの現在

3月27日にまちびらきを迎えた高輪ゲートウェイシティの現在


モビリティなどテーマに地球規模の社会課題解決に取り組む

JR東が高輪ゲートウェイ駅周辺で手掛けた大規模開発プロジェクトTAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)は、今年3月27日に“まちびらき”した。「100年先の心豊かなくらしのための実験場」をコンセプトに「地球益」※の実現を目指していく。JR東は環境、ヘルスケア、モビリティの3つをテーマに地球規模の社会課題の解決に取り組んでいくという。
※地球に対する負荷が高いこれまでの経済活動を見直し、地球と人間が調和する利益を目指す(JR東日本プレスリリースより)

今回のイベントでは、「ビジネスの共創」を目的に、新興企業と多様な企業とのマッチングを行う「Match-up Challenge」、スタートアップによるピッチコンテスト「TAKANAWA PITCH」、80社を超える企業によるブース展示「EXHIBITS」、環境・ヘルスケア・モビリティやイノベーションの第一線で活躍する登壇者によるビジネスカンファレンス、次世代モビリティの試乗体験などを実施した。

JR東日本の中川晴美氏

JR東日本の中川晴美氏



イベントの冒頭、JR東日本常務取締役マーケティング本部長の中川晴美氏が、「イベントを機に1社では解決できない地球規模の課題解決に向けて企業やスタートアップ、アカデミアなど多彩なプレイヤーの皆さまをつなぎ、『共創』を生み出したい」と期待を込めた。

オードリー・タン氏が基調講演

続いて、台湾の前デジタル担当大臣オードリー・タン氏が登壇。「地球益の実現に向けたメッセージ」の演題で基調講演を行った。タン氏は「AIと社会がどのように共存していくか」をテーマに、台湾でのAIを活用したデジタル民主主義の事例を紹介した。

AIと社会の未来について講演するオードリー・タン氏

AIと社会の未来について講演するオードリー・タン氏



台湾は、中国とのサービス貿易協定の締結を目指す政府の動きに学生や市民が反発し、日本の国会にあたる立法院を24日間にわたり占拠した「ひまわり学生運動」をきっかけに、市民の意見を政治決定に取り組むためのツールであり市民と政治機関を繋ぐプラットフォーム「v台湾」を構築するなどデジタルを活用した民主主義を推進している。

政策審議をAIがファシリテート

デジタルを活用した事例として、タン氏はUberを巡る議論を挙げた。Uber社と既存のタクシー業界の対立に際し、政府はオンラインプラットフォームPo:lis(ポリス)を通じて市民の声を集めた。ポリスは政策に対して「意見」ではなく「感情」を投稿し、それに共感するかしないかを選ぶ仕組みだ。それをもとにAIが多様な立場に共通する意見を可視化して、政策形成に役立てた。これによりUberの価格設定など9つのコンセンサスを導きだし、法整備により対立を短期間で解消できたという。

また、AI技術を悪用した有名人のなりすまし詐欺広告の問題が発生した際にもデジタルを活用。「ブロードリスニング」という手法で、20万件のSMSをランダムに送信し、意見を集めた。意見を寄せた人の中から450人をオンラインで招集し、10人ずつグループ分けして、AIのファシリテートで政策審議を実施した。プラットフォームの賠償責任やKYC(本人確認)などが提案され、AIが提言をまとめた。その後の数か月間で関連法の改正や条約制定が行われた。タン氏は「今年の1月以降偽広告は見られなくなった」と成果を実感していると話した。

AIの進化で誰一人取り残さない社会に

台湾では100以上の政策でデジタルを活用。この結果、2014年に9%だった政府への信頼度は2020年には70%以上に回復したとタン氏は紹介した。
タン氏は、「AIとテクノロジーは、誰も置き去りにすることなく発展できるはず」と強調。テクノロジーの開発は加速するか停止するかの議論の本質は「速度ではなく方向の転換だ」と説き、AIの進化はシンギュラリティ(技術的特異点)ではなく、多様性を尊重し、誰一人取り残さないものを目指すべきだ」と結んだ。

モビリティをテーマにしたパネルディスカッションが実施された

モビリティをテーマにしたパネルディスカッションが実施された



続いて、パネルディスカッション「モビリティのスタートアップが描く未来のくらし」が実施された。都市型三輪モビリティの開発・製造を行うLean Mobility株式会社 代表取締役の谷中壯弘氏と⾃⾛型ロープウェイ「Zippar」の設計・開発を手掛けるZip Infrastructure 代表取締役の須知高匡氏が登壇した。モデレーターは名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所 特任教授・名誉教授の森川高行氏が務め、未来の街と人々の暮らしをテーマに、100年後の都市と移動の可能性を語り合った。

Lean Mobility代表取締役の谷中壯弘氏

Lean Mobility代表取締役の谷中壯弘氏



最初に100年後の街の姿について議論を交わした。谷中氏は「100年先の予測は難しいが街は人々が集い生活する場であり続ける。より多様性があり文化が醸成されていくと思う。その中でモビリティが多様な活動を支え、より良い街づくりに貢献していくかが重要」と説いた。須知氏は「未来を考えるにあたって、100年前はどうだったのかという着眼点で考えていた」と話し、地下鉄の事例を挙げ「たった3駅からはじまった東京の地下鉄が、今は蜘蛛の巣のようなネットワークとなった。同様に、現在の取り組みが70~80年後の未来を形作る可能性があるのではないか」と語った。

須知氏「スタートアップの役割は、既存の『足し算』の延長線上にない新しい価値を提供すること」

業界ではCASEに代表されるような技術革新が著しい。今後のモビリティの課題・可能性について、谷中氏は「過去100年はより速く、遠く、快適にという『足し算』の進化だった。今後は人口減少社会において、縮小や効率化を意識した『引き算』の思想が重要。ライトでシステム化された安全で環境負荷の低いモビリティが求められる」と語った。須知氏は、「スタートアップの役割は、既存の『足し算』の延長線上にない新しい価値を提供することだ」と矢中氏の考えに共感した。

Zip Infrastructure代表取締役の須知 高匡氏

Zip Infrastructure代表取締役の須知 高匡氏



続いて、未来の移動の価値とあり方へテーマが移り、須知氏は「残念ながら移動は贅沢品になる可能性がある。テレワークの普及をはじめ簡単なコミュニケーションの代替手段が増え、移動の必要がないケースも増えてきた。移動の概念が変わるかもしれない」と語った。谷中氏は須知氏の意見に同調しながら「贅沢品としての移動の価値を維持・拡大したい。情報技術が進んでも、モノの移動や五感を伴うリアルな体験への欲求はなくならない。これらを支えるモビリティが必要なのではないか」と説いた。

谷中氏「システム思考でクルマをよりよいものに」

今後モビリティがどのような形になっていくべきかというテーマについて、谷中氏は「クルマの役割を考えていく中で、1日に走行する時間を想定すると20時間以上は止まっている。クルマが町に止まって存在していることの良し悪しや、より乗り換えをスムーズにするだとか、システム思考で考えた時にクルマというハードウェアの使われ方がもっともより良いものに変わっていけると思う」と考えを示した。
須知氏は自動運転について、「安全性向上に貢献する一方、移動時間が長くなる可能性もある。車両増加で渋滞が悪化する懸念もあり、自動運転専用空間の設計などが課題となる」と強調した。また街づくりとモビリティの関連性については、「街のにぎわいをどうつくり、街にモビリティがどう貢献するか今後考えていく問題になると思う。街のにぎわいとモビリティは相互に影響し合う。公共交通の運行頻度が少なければ街中のにぎわいもない。当然交通を支えるためには一定の頻度で動くモビリティが街づくりを形成する。逆にこの街があるから皆がモビリティを利用したくなる。この相互作用をどう引き起こしていくかが重要だ」と語った。

名古屋大学特任教授 森川 高行氏

名古屋大学特任教授 森川 高行氏


森川氏「高輪ゲートウェイシティが真のモビリティハブに」

最後に高輪ゲートウェイシティについて、谷中氏は「高輪の周りがよりにぎわい、新しい産業創出を考えたくなり、ここに多様な方が参加するような場所に育ててほしい」と期待を示した。森川氏は「高輪はリニア中央新幹線の開業も控え、東京の新たな都心となる可能性を秘めている。幹線交通だけでなく、二次・三次交通を担う新しいモビリティが連携することで、真のモビリティハブとなり、イノベーションが生まれることを期待したい」と締めた。



(取材・文/松本雄一)

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