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日本総合研究所 地域連載企画 社会の「新しい足」 自動走行移動サービスの創出(後編)

2017/11/6(月)


社会実装に向けた道筋

コミュニティサポート・モビリティ・サービスの社会実装には、実現の課題を明らかにし、その課題一つ一つを解決するようなサービス実証を繰り返すことが重要となります。

 

図2:ジュネーブ条約の道路交通に関する事項



 

課題としては、まず規制面があります。ジュネーブ条約やウイーン条約などの国際条約では、公道でのドライバー不在による自動運転車両の走行が禁止されています。改正についての見通しはまだ立っていませんが、欧州を中心に改正を働きかける動きは見られます。よって、国際条約が改正され、無人での自動運転車両の走行が解禁されたときに、速やかに無人でのサービスが開始できるよう、有人によるサービスを先行的に開始し、知見を蓄積しておくのが有効と考えます。

ドライバーの配置が必要となると、コスト面と人材不足面の課題に直面します。交通サービスのドライバー人件費の高さや人材不足の要因は、二種運転免許保有者に限定されているからです。一つの突破口として期待したいのが、規制緩和です。低速で安全な運行が認められる車両と認められる場合に限って、普通免許保有者でも、交通サービスを実施することを許されるよう、国内法規の解釈がなされたり、一部改正されたりすることです。

技術面での課題としては、自動運転(レベル4の技術)による走行がサービスを提供する上で十分か検証する必要があります。現在、企業や大学などが用意している様々な自動運転車両も、まだ限定エリアの自動運転(レベル4)の交通サービスに耐え得る技術を有しているのかは未知数です。実際のサービス環境における実証を重ねながら、安全性を確保していく必要があります。

リスク面での課題もあります。技術的に未知数な自動運転は、事故などのリスクがどのような範囲まで及ぶのかが不明です。よって、保険が高額になってしまう可能性があります。このリスクコストを誰の責任でどの程度見込むべきかを明確にしならなければなりません。

最後に、サービスを成り立たせるための事業採算面の課題があります。ニーズがあっても、提供するサービスのイニシャルやランニングコストが高額になってしまっては、コミュニティという一つのサービス先としては小規模で成り立ちません。コミュニティの身の丈にあったコストで提供できるよう、技術面でも運用面でも先進性より確実性と効率性を優先する配慮が必要となります。

 

図3:グローバル企業とコミュニティで支えあう事業スキームのイメージ



 

また、コミュニティを構成するのは住民だけでなく、移動先となる店舗や商店、そして住民が活動的な生活をすることによって受益者となり得る地域の自治体や開発事業者まで広がります。これらのコミュニティの受益者が参加し、サービスを支えられる仕組みを構築していくことが重要です。

その他、大手企業へのデータ提供も事業の一つとして検討するべきです。自動運転を活用したサービスで得られる画像をはじめとする大量のデータは、人工知能(AI)の開発やマーケティングに活かしたい企業にとって非常に魅力的です。彼らへのデータ提供による収益が獲得できれば事業としてより安定が見込めます。

 

表:自動運転を活用したコミュニティサポート・モビリティ・サービスの社会実装へのステップ



 

コミュニティサポート・モビリティ・サービスの実現までには、表のようなステップを踏んだ展開を想定しています。ステップ1はコミュニティサポート・モビリティ・サービスにおけるニーズの確認です。我々が今回実施した実証があてはまります。

ステップ2は、レベル4の自動運転を用いて、ドライバーが乗車した形でのサービス実証です。国内法規を考えると、利用者からの料金は徴収しません。このとき、実証で得られるデータは、自動運転のサービス化に関連する規制緩和を検討している国の機関や、保険商品を考える企業にとっては、課題解決につながる重要な情報となります。また、事業モデルの課題として、必要コストの最小化の検討と、関係受益者にサービスを支える側の価値を認識してもらうことも重要です。

ステップ3は、ステップ2のモデルをベースに、利用者から料金を徴収してサービスの提供を開始するものです。ただし規制を緩和し、二種免許のないドライバーでも有料によるサービス提供が可能となっていることが条件となります。

ステップ4は、ドライバー不在でのサービス提供です。前述のとおり、国際条約の動向に左右されますので、国内では当面ステップ3までの実施を目指すことになります。

以上の課題に対応する形で、我々は実証を繰り返しながら早期の社会実装を推進していく考えです。まずはステップ2の段階を、2017年度中に実証し本誌でも経過を発信していくので、ご注目いただければ幸いです。

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