陸・海・空をつないで離島を豊かに かもめやが描く無人物流とドローン社会
2020/7/9(木)
香川県高松市に本社を構える株式会社かもめや(以下、かもめや)。同社が提供するドローン・無人船・小型カートなどを用いた「陸・海・空のハイブリッド無人物流プラットフォーム」は、創業の地である瀬戸内海エリアを中心に注目を集めている。
独特なデザインのドローンが空飛ぶ姿はまさに自由に空を飛ぶかもめのようだ。気象・通信などインフラも含めたワンストップサービスを提供しながら、離島ならではの課題解決に挑む。
かもめやは創業時に掲げた「瀬戸内の空から、離島の生活に革命を」の思いを背に、徐々にその飛行範囲を広げつつある。その取り組みと将来構想に迫った。
独特なデザインのドローンが空飛ぶ姿はまさに自由に空を飛ぶかもめのようだ。気象・通信などインフラも含めたワンストップサービスを提供しながら、離島ならではの課題解決に挑む。
かもめやは創業時に掲げた「瀬戸内の空から、離島の生活に革命を」の思いを背に、徐々にその飛行範囲を広げつつある。その取り組みと将来構想に迫った。
■離島ならではの物流課題とは?
かもめやの会社設立は2017年。創業はそれよりもさかのぼり、2014年に香川県高松市沖に位置する男木島でドローンなどを用いた無人物流のプロジェクトをスタート。当初はクラウドファンディングで資金を募りながら、事業を進めていった。このプロジェクトに取り組むようになった背景について、かもめやの代表取締役を務める小野正人氏(以下、小野氏)は、過疎化・人口減少による「買い物難民」や「医療難民」の増加という課題を挙げている。小野氏は実際に離島の居住経験もあり、高齢者が日々の買い物や通院、医薬品の受け取りに困っているというリアルな課題を目にしてきた。
「背景には、船そのものと操縦する人が減っている現状がある」と小野氏。離島における人手不足は定期船などの運行にも影響し、地域を移動する手段はどんどん減っている現状だ。
さらに、人手不足はラストワンマイルの物流にも影響する。例えば、離島では集落の自治会などが宅配業者から委託を受け、住民が持ち回りで島内の宅配を行っている地域もある。
高齢化が進む地域ではこれを維持することが大きな負担となっており、「そのような地域は、お金を払えば人が集まるという簡単な状況にはない」と小野氏は指摘する。
■陸・海・空をつなぐ島国モデル
かもめやがこれらの課題解決を目指して掲げるのは「陸・海・空のハイブリッド無人物流プラットフォーム」だ。
空の輸送を担うドローンのほかに、海の輸送を担う自動の小型船や、地上の輸送を担う自動の小型カート、これらを組み合わせ、発送元から配達先までドアツードアで結ぶ無人物流を形成する。
AmazonやDHLなどが行う無人航空機による直接配送を「大陸モデル」としたのに対して、この陸・海・空をつなぐ物流システムは、「島国モデル」だと小野氏は位置付ける。400以上の有人離島を有する日本ならではの、点と点を細かくつなぐメッシュ型の物流システムを展開するべく取り組みを続けている。
■インフラも含めたワンストップソリューション
無人物流となると実際に荷物を運ぶドローンなどに注目が集まりがちになるが、この物流システムを確立するためにポイントになるのがインフラの整備だ。ドローンを目視外※の領域で動かすための通信設備はもちろん、運行に必要な気象データを取得する設備など、必要なものは多岐に渡る。※内閣官房「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」の「空の産業革命に向けたロードマップ」では、ドローンの利活用について以下のレベル分けがなされている。
レベル1 目視内での操縦飛行、
レベル2 目視内飛行(操縦なし)
レベル3 無人地帯での目視外飛行 (補助者なし)
レベル4 有人地帯での目視外飛行(第三者上空)
かもめやが提供するサービスは、離島や山間部への荷物配送を想定したレベル3「無人地帯での目視外飛行(補助者なし)」の要件を満たしている。
レベル1 目視内での操縦飛行、
レベル2 目視内飛行(操縦なし)
レベル3 無人地帯での目視外飛行 (補助者なし)
レベル4 有人地帯での目視外飛行(第三者上空)
かもめやが提供するサービスは、離島や山間部への荷物配送を想定したレベル3「無人地帯での目視外飛行(補助者なし)」の要件を満たしている。
かもめやでは、「KAZAMIDORI(かざみどり)」というソリューションを提供している。ドローンが離着陸する場所に気象観測インフラなどを設置。気象データを取得したり、離着陸の様子をカメラで撮影したりと、ドローンの運行を支える地上基地局の役割を担っている。
無人機の運行では、気象データが非常に重要になる。悪天候などの際には、有人機のようにパイロットの操縦技術でカバーすることができないからだ。そこでKAZAMIDORIはピンポイントかつリアルタイムな気象データを取得し、ドローンなどの安全な運行へと活用している。また、気象データはおよそ30秒に一度更新され、スマートフォンの専用アプリでも見ることができる。
次に必要になるのが通信インフラだ。小野氏によると、ドローンの運行にあたっては「携帯電話のネットワークを利用している事業者が多い」という。しかし、かもめやが取り組む離島や山間部では携帯の電波が届かないようなケースもある。そこで、かもめやでは「OceanMesh」というドローン専用の通信インフラを提供している。この専用の通信インフラを用いて、ドローンや無人船などの移動体と地上基地局をつなげている。
さらに、かもめやは昨年8月から香川県高松市に「統合オペレーションセンター」の運用を開始。サービスを導入した自治体とセンターをつなぐことで、現在動いている無人機の位置情報や気象データを統合管理し、さらには非常時の遠隔操作に対応する機能を備えている。
ドローンなどの機体だけでなく、これらのインフラを含めてワンストップで提供できるのが、かもめやの強みだ。
■瀬戸内と五島列島を中心に展開
現在かもめやが重点的に取り組みを進めているエリアは大きく分けて2カ所ある。そのうちの一つが瀬戸内海エリアだ。現在瀬戸内海の島々にある離島同士は、主に船によってネットワークが作られている。しかし、この海上ネットワークも現在減少傾向にあるという。
かもめやは、同社のサービスを展開することで、網の目のような物流ネットワークを作ることを掲げている。小野氏は「持続可能な物流システムを目指している」と力を込める。
もう一つ注力しているエリアが、長崎県の五島列島(五島市)だ。五島列島は大小あわせて152の島々からなり、複雑な海上交通網があるが、現在その維持が課題となっている。
小野氏によると、まさに「どんどん人が動かす船が減っていて、待った無しの状態」にあるという。そして、五島市はこの課題解決を図り、昨年9月にかもめやに委託して離島物流の実証を行った。
異なる気象条件を想定してドローンを使い分けたり、無人船と小型カートを組み合わせて無人配達を行ったりと、実サービスを想定した検証を行ったところ、住民の反響は非常に大きかったという。実証後のアンケートでは回答者の9割以上が、有償であってもサービスを使いたいと答えており、大きな期待を寄せられていることがわかる。
■課題はコストの削減か?シェアリング利用も
一方で、無人物流を行うために必要な設備をそろえる場合、非常にコストが掛かるのは重要な点だ。例えばドローン機体や、前述した気象観測インフラや通信インフラのほかにも、運行管理システムやオペレーションセンターなど必要な設備は多岐に渡り、「全てそろえるとなると億単位になる」(小野氏)という。例えば、かもめやではドローンの機体はパートナー企業と共同で開発しているが、現状はオーダーメイドのため高額になる。サービスの社会実装を見据えた場合、このコストをいかに抑えるかが重要なテーマだ。
そのためには、まず事業をスケールさせて生産するドローンの数を増やし、1台あたりの 費用を下げることが必要になるだろう。
現在かもめやは、メインのターゲットである瀬戸内エリア・五島エリアを中心に自治体との連携を進めているほか、離島同様に移動・物流網に課題を抱える国内の山間部での展開も目指す。各地で実証を請け負いその後のサービス実装に向けた動きを進めている。
また、日本国内で積んだ経験を海外で展開することも視野に入れている。多くの島々からなる地形条件が日本と共通しているインドネシアやフィリピンではすでに話し合いが進んでいるという。
また、かもめやでは、サービスの買い切りやリースの他にも、物流事業者が各リソースを必要な時に必要なだけ利用できるシェアリング・モデルも提案している。同じエリア内でのシェアリングを促進して、複数の事業者が、特にコストが掛かるドローンの機体と通信インフラなどのリソースを共有することで、全体のコストダウンを図る狙いがある。
現在、EC・小売・物流などの事業者や、機体製造・通信など、さまざまな分野のパートナー企業と連日協議を重ねている状況だという。これらの連携も進めながら、早期の社会実装を目指す。
■有人移動も見据える
かもめやでは、現在進めている無人物流の分野だけでなく、将来的には人の移動も含めた、「自由にまちと離島を往来できる日常」の実現を目指している。実際に地域の困りごとに対応していく中で、緊急時に人が移動するサービスに大きなニーズがあることがわかったという。その実例が、離島ならではの医療課題だ。
これまで無人物流で行ってきた取り組みでは、医薬品あるいは検査目的の検体の輸送を想定してきた。しかし、離島には診療所がない、あるいは特定の病気の専門家がいないケースも多い。そうなると患者をどのように搬送するかが問題になる。現状では救急搬送には漁船などを活用しているというが、新型コロナウイルスのような感染症を想定した場合、患者をどこに乗せるのか、またどのように防護するのかという問題が出てくる。
かもめやでは、これらの課題を解決するために遠隔操縦が可能な無人船を活用できないかと考え、事業者との議論を始めているという。
そしてもう一つ、人の移動を含めたサービス体制を見据えるのには背景がある。それは、無人運転を行うエア・モビリティ、いわゆる「空飛ぶクルマ」の開発が世界的に加速していることだ。
国内でも今年1月にトヨタがJoby Aviationとエア・モビリティの一種である電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発・生産での協業を発表。2月にはJALと住友商事がBell Textronと同じくeVTOLのサービス提供に向けた共同研究を開始するなど、動きが活発化している。
小野氏はこれらの無人で人を運ぶことを想定した「パッセンジャー・ドローン」とも呼ばれる新しいモビリティについて、「制御の方法は無人物流などに用いるドローンと同じ」であると指摘する。そのため、「将来的にはMaaSの仕組みと融合していく」と見据えている。
そして、融合した先の未来予想図として掲げているのが、「ドローン前提社会」だ。
「ドローン前提社会」とは、離島、山間部、都市部を問わず、シェアリングされたドローンやさまざまなモビリティが行き交い、人や物が自由に循環する新たな社会モデルだ。
離島、山間部、都市部を自由に人と物が移動することができるようになれば、分散型のコミュニティがいろいろな場所で維持できる。小野氏は、「どこに住んでいても、中都市圏と同じような利便性を受けられるようにしたい」と構想を語る。
「瀬戸内の空から、離島の生活に革命を」という思いから始めたかもめやの取り組みは、島国ならではの新しい生活スタイルへのヒントが秘められている。
(記事/和田 翔)