Nature EV Switch、家庭のEV充電をスマート化 EVを調整力とするエネルギー管理へ
2025/12/4(木)
Natureは10月31日、家庭のEV(電気自動車)充電用コンセントをIoT化するスマート充電コントローラー「Nature EV Switch(以下、EV Switch)」を法人向けに発売した。専用アプリやHEMS製品「Nature Remo E(以下、Remo E)」を通じ、充電の遠隔操作や可視化、最適化が可能になる。
同日に開催された発売記念イベントでは、EV Switchの展示と概要説明のほか、パネルディスカッション「EV時代の家庭におけるエネルギーマネジメントの未来」も実施。ディスカッションには、ENEOS Power・本田技研工業(以下、ホンダ)・三菱自動車工業(以下、三菱自動車)が参加した。本記事では、イベントの模様をレポートする。
同日に開催された発売記念イベントでは、EV Switchの展示と概要説明のほか、パネルディスカッション「EV時代の家庭におけるエネルギーマネジメントの未来」も実施。ディスカッションには、ENEOS Power・本田技研工業(以下、ホンダ)・三菱自動車工業(以下、三菱自動車)が参加した。本記事では、イベントの模様をレポートする。
■EV Switch発売 EV充電のIoT化でサステナブルな暮らし実現
Natureは、「自然との共生をドライブする」をミッションに、スマートリモコンなどIoT機器の開発・提供と、それらを基盤とするエネルギーマネジメント事業を展開してきた。中期ビジョンには、「総合的なスマートホーム※1の体験を提供し、快適でサステナブルな暮らしを実現する」と掲げている。
※1 スマートホーム:家電や設備をIoT技術でつなぎ、遠隔操作・自動制御を可能にした住まい。
今回発売されたEV Switchは、家庭でのEV充電をスマート化する機器だ。EV充電用コンセントに接続すると、スマートフォンアプリ「Nature Home」から充電状況を確認し、遠隔操作ができる。また、タイマー設定や天気予報に連動した自動充電にも対応する。
Remo Eシリーズと連携すれば、充電前後の電力消費を把握し、ブレーカーが落ちないよう充電のタイミングを自動で調整可能。さらに、太陽光発電で余った電気を売電せず充電に回す機能も備え、年間で最大5万円の電気代を削減できる。
設置には外構工事が必要だが、LTE内蔵のため利用者によるネットワーク設定は不要。EVのメーカーや車種を問わず利用でき、アプリ設定の自由度が高く操作も簡単なのが特徴だ。正規取扱企業やパートナー企業を通じて提供されるが、販売状況によって個人への直接販売も検討していく。
- EV Switch
-
Nature Remo E2
(出典:Nature Webサイト)
- アプリの操作画面
Nature CEOの塩出晴海氏によれば、国内のEV販売は自動車全体の約4%だが、成長の余地は大きいという。特に、一般家庭で最も普及しているEVコンセントの市場拡大を見込んでおり、EV Switchの開発に至った。
また、塩出氏は再生可能エネルギーの普及に伴い、発電量の変動を吸収する調整力として、家庭のEVや蓄電池が主要な役割を果たす可能性があると説明。英国・National Grid ESOは、2050年に必要となる約80GWの調整力のうち、60%以上がEVを使ったDR※2で賄われると予測する。
※2 DR:電力の需要と供給のバランスを取るために、需要側(消費者)が電力の使用量を調整する仕組み。Demand Responseの略。
今後、EV Switchは、全機能をケーブル内に集約して施工不要にするほか、アンペア調整による充電効率の向上を目指す。さらに、EVから電力系統に給電するV2GやV2Hを家庭用の普通充電で実現することも視野に入れている。
■家庭でのEV充電を活用したエネルギーマネジメント
パネルディスカッション「EV時代の家庭におけるエネルギーマネジメントの未来」には、ENEOS Power VPP事業部 部長の南里浩哉氏、ホンダ コーポレート戦略本部 コーポレート事業開発統括部 エネルギーサービス事業開発部 部長 エグゼクティブチーフエンジニアの木村英輔氏、三菱自動車 モビリティビジネス本部 モビリティビジネス戦略部 部長の谷田部皇緒氏が登壇。塩出氏がモデレーターを務めた。▼EVは一次調整力になり得るのか
需給調整市場では電源が不足しており、需要側からの新たな調整力の創出が急務とされる。特に一次調整力※3の不足が深刻で、家庭用のEV充電設備や蓄電池など低圧リソースへの期待が高まっている。谷田部氏は、EVを一次調整力として活用するのは当面難しいとする。経済性や必要容量の確保、応答性などが課題だ。一方で、二次調整力※4であれば、車両の応答性を生かした電力供給の仕組みが整いつつあり、活用できる可能性はあるという。
木村氏は、EV台数の少なさを最大の課題に挙げた。加えて、多数のEVをまとめて充電制御する場合、クラウドを介するため通信遅延が避けられない。そのため、高速の応答が求められる一次調整力ではなく、二次・三次調整力※5としての活用が中心との見方を示した。
※3 一次調整力:時間内変動(極短周期成分)や電源脱落等に対応する調整力。応動時間は10秒以内、継続時間は5分以上。
※4 二次調整力①:時間内変動(短周期成分)や電源脱落等に対応する調整力。応動時間は5分以内、継続時間は30分以上(2026年度より30分に変更)。
二次調整力②:ゲートクローズ以降に生じる予測誤差(長周期成分)に対応する調整力。応動時間は5分以内、継続時間は30分以上(2026年度より30分に変更)。
※5 三次調整力①:ゲートクローズ以降に生じる需要予測誤差や再生可能エネルギーの出力予測誤差、電源脱落で生じた需給差に対応する調整力。応動時間は15分以内、継続時間は3時間(2026年度より30分に変更)。
三次調整力②:FIT特例制度①やFIT特例制度③を利用している再生可能エネルギーの予測誤差に対応する調整力。応動時間は60分以内、継続時間は30分。
(引用:電力需給調整力取引所)
※4 二次調整力①:時間内変動(短周期成分)や電源脱落等に対応する調整力。応動時間は5分以内、継続時間は30分以上(2026年度より30分に変更)。
二次調整力②:ゲートクローズ以降に生じる予測誤差(長周期成分)に対応する調整力。応動時間は5分以内、継続時間は30分以上(2026年度より30分に変更)。
※5 三次調整力①:ゲートクローズ以降に生じる需要予測誤差や再生可能エネルギーの出力予測誤差、電源脱落で生じた需給差に対応する調整力。応動時間は15分以内、継続時間は3時間(2026年度より30分に変更)。
三次調整力②:FIT特例制度①やFIT特例制度③を利用している再生可能エネルギーの予測誤差に対応する調整力。応動時間は60分以内、継続時間は30分。
(引用:電力需給調整力取引所)
▼2026年度の制度変更がEV活用に与える影響
需給調整市場は、2026年度から30分単位の入札に移行予定だ。時間枠が短くなるほど、落札した時間帯に電力提供ができるリソースを確保することの重要度が増す。家庭のEVを活用する場合、各家庭の利用状況を事前に予測して応札し、契約した時間帯にはEVを充電器に接続しておく必要がある。この課題に対し、南里氏は次のように述べた。「家庭ごとにEVの使い方は異なるため、個別に需給調整の指示を出しても、接続状況は保証されません。地域交通のシェアリングエコノミーなどと併せ、EVの利用状況が予測しやすい環境を整えなければ、生活に影響を与えずEVをリソースとして活用するのは難しいです」。
■国内で協調してEV市場と共通基盤を発展
▼日本のEV市場を作る
EVを需給調整のリソースとして活用するには、普及が不可欠だ。ホンダは、2040年にEVとFCVの販売比率を全世界で100%にすると宣言している。普及に向け、新たな充電ネットワークサービス「Honda Charge」も9月12日から開始した。専用アプリを使い、充電器の検索から決済まで一括管理できる。外出のついでに充電が完了する「体感充電時間0」を実現し、充電のストレスを解消する狙いだ。木村氏は、EVシフトを推進する上で、社内だけでなく外部企業も「共に戦う仲間」と捉えることの重要性を強調。「日本の市場を整え、世界で戦える環境を作るためには、認識を共有することが課題です」と語った。
▼共通基盤の構築
谷田部氏は、EVの普及だけでなく、「低圧リソースを統合して制御する共通基盤の構築も必要」と述べた。共通基盤とは、各社のEVデータを統一し、電力会社や関係者が同じ仕組みで制御・活用できるプラットフォームを指す。電力会社や自動車メーカー、アグリゲーターなど、業界を問わず協調して整備し、コストの低減を図る考えだ。米国や欧州では既に企業間で協調し、共通基盤の構築が進んでいる。谷田部氏は、国際的な動向を踏まえ、日本でも協調を進めるべきだと指摘。「国内で一枚岩になるのは大きな挑戦でもあり、今後取り組んでいくことです」と話した。
一方、複数の事業者や機器と接続して制御を一元化するプラットフォーマーも登場しており、今後の展開が注目される。南里氏は「プラットフォーマーが主導するのか、共通基盤が整備されるのかは、電力会社やアグリゲーターにとって関心の高い領域です」と話した。
▼市場連動型の電力プランの可能性
家庭のEVを調整力として活用するには、EV Switchや車両による充電制御と市場価格に連動した電力プランの組み合わせも有効だ。しかし、南里氏は次のように説明した。「市場連動型のプランは価格変動の予測が難しく、一般家庭では普及していません。家庭で受容されるには、予測しやすい仕組みや上限設定といった工夫が必要です」。これを受けて塩出氏は、自動車メーカーの立場から、電力小売事業者がEVの利用者を顧客として獲得する際に望ましい電力プランについて尋ねた。木村氏は「価格変動が十分に反映されないプランでは効果が出ないでしょう。小売事業者がこうしたプランに挑戦してくれれば、それに応じたシステムを作れます。ぜひ協力して取り組みましょう」と述べた。
(取材・文/門脇希)
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