NTTが北米でスマートシティ事業を加速。今、推進する意味とは?
2020/5/25(月)
NTTグループが推進するスマートシティ構想。日本国内のみならず、アメリカをはじめとした海外展開も行っている。5月13日にNTTグループはスマートシティプロジェクトをさらに加速させる方針を表明した。
対象となるプロジェクトは、2018年からすでに取り組んでいるラスベガス市(ネバダ州)のほか、新たにオースティン市(テキサス州)、カリフォルニア大学バークレー校(カリフォルニア州)を加えた3件。
Google系のサイドウォーク・ラボがカナダのトロントで行うプロジェクトから撤退を発表し、スマートシティ事業について先行きの不安が生じる中、NTTグループはどのような方向性で進めていくのだろうか。
NTTグループは、2018年からラスベガス市とスマートシティプロジェクトの実証実験を開始。対象となるプロジェクトは、2018年からすでに取り組んでいるラスベガス市(ネバダ州)のほか、新たにオースティン市(テキサス州)、カリフォルニア大学バークレー校(カリフォルニア州)を加えた3件。
Google系のサイドウォーク・ラボがカナダのトロントで行うプロジェクトから撤退を発表し、スマートシティ事業について先行きの不安が生じる中、NTTグループはどのような方向性で進めていくのだろうか。
NTTグループ: 今回のラスベガス市・オースティン市・カリフォルニア大学バークレー校のプロジェクト発表は、日本電信電話株式会社、株式会社NTTデータ、NTTコムウェア株式会社、NTTコミュニケーションズ株式会社、NTT Ltd. が共同で行った。
実証の内容は、アメリカのデル・テクノロジーズ(Dell Technologies)とも協業し、AIやエッジコンピューターを活用して事件・事故の予測分析や異常検知を行うものだった。
具体的には市内のイノベーション地区に高解像ビデオカメラ、音響センサーやIoTデバイスなどを配備。複数のデバイスから収集した人流や交通量、さらには音声・気候データ・SNS情報などの総合的な情報を、センサー付近に配置したマイクロデータセンター(エッジ)と遠隔のデータセンター(コア)で収集・分析した。
この分析データはラスベガス市職員が現場の状況を把握するため、あるいは初期対応の時間短縮などに活用されているという。NTTグループは 安全性の高い環境づくりを可能にする技術を確立するため、これまでさまざまな技術を検証してきた。
今回新たに発表したのは、市内の実証エリアの拡大だ。2019年夏に導入したコミュニティ・ヒーリング・ガーデンとラスベガス通りの一部に加えて、2020年夏にはボブ・バスキン・パークなど4つの公園にも導入する。さらに2020年末には6つの公園でも展開する予定とのことだ。
NTTグループの発表によると、実証を行った地域では自動車の逆走件数が減少するなど、交通状況が改善しているという。それを踏まえて、今後は公園など市内の設備の安全状態や、保全状況の問題点をリアルタイムに通知するソリューションへ拡充する方針だ。
■新たにスマートシティプロジェクトを開始
ラスベガス市での拡大方針と併せて発表したのが、オースティン市でのスマートシティプロジェクトの開始だ。オースティン市では、これまで市内の複数の交差点で渋滞や事故などが頻発していた。にもかかわらず、発生場所での交通状況に関する情報が不足しており、解決策の検討も困難な状況にあったという。
NTTグループは、前述のラスベガス市で提供しているスマートシティ技術を応用して問題解決を図るべく、今回の同市との提携に至った。
このプロジェクトでNTTグループは、ラスベガス市のプロジェクトと同様にデル・テクノロジーズと連携。データ分析基盤とマイクロデータセンター、高精細カメラやIoTデバイスなどを使い、オースティン市のダウンタウン地区の交通状況を可視化する。
オースティン市では、これらのソリューションによって車両数の計測や車種の分類、逆走車両情報の分析を行い、交通状況を改善するための効果的な計画提言を作成する方針だ。
■大学キャンパスもデジタル変革を
NTTは前述の2都市との発表に加えて、カリフォルニア大学バークレー校(以下、UCバークレー校)と、大学キャンパスのデジタル変革、いわゆるスマートキャンパスプロジェクトで提携を結んだと発表した。UCバークレー校では、キャンパス内で不定期に交通量が急増するなどの要因で、渋滞や違法駐車などの課題を抱えていた。しかし、道路や路肩の混雑状況に関する情報が不足しており、解決策の検討することが困難な状況にあるという。
NTTグループは、スマートシティ技術を応用して、大学キャンパス内の交通状況を分析。交通渋滞を緩和し歩行者の安全確保に役立てていく方針だ。
ラスベガス市やオースティン市での事例と同様に、マイクロデータセンター、高精細カメラやIoTデバイスを用いて、キャンパス内の交通状況を可視化する。
UCバークレー校は、車両数の計測や車種の分類、滞留時間の分析を行う。ライドシェアや配達車両、キャンパス内を運行するバスなど混雑を引き起こす要因を洗い出し、改善策を検討する方針だ。
■データの主導権は自治体に。「B to B to X 」モデルを拡大
NTTグループは3月にトヨタとスマートシティ事業で提携を発表した。東京都港区品川エリア(品川駅前のNTT街区の一部)や、トヨタの東富士工場(静岡県裾野市)跡地を利用した「Woven City(ウーブンシティ)」での先行実装を目指している。そのほかにも、福岡、札幌、横浜や千葉などの自治体・企業とスマートシティ実装に向けた協業は国内でも積極的に進めている。
NTTグループはスマートシティ事業について、かねてから「B to B to X (B2B2X)」モデルで取り組んできた。NTTグループからサービス提供者、そして顧客へという流れで技術・サービスを提供する流れだ。
たとえばラスベガス市でのプロジェクトは、「B to B to X」の最初のBがNTTグループ、真ん中のBがラスベガス市、Xが住民や観光客だと想定している。NTTグループはデータ基盤の構築で全体を支える役目を担い、住民たちから収集するデータの主導権を自治体に預ける形態だ。
今回のスマートシティプロジェクト推進の発表は、そうしたラスベガス・モデルをオースティン市、UC大学にも展開した取り組みだ。
■スマートシティに不安の声 NTTはどうする?
NTTグループがスマートシティ事業に注力する一方で、気になるニュースもある。グーグルの兄弟会社(アルファベット傘下)であるサイドウォーク・ラボが5月7日(現地時間)、カナダのトロント市で進めていたスマートシティプロジェクトから撤退すると発表したのだ。
サイドウォーク・ラボの最高経営責任者であるDaniel L. Doctoroff氏は撤退の理由について、「世界とトロントの不動産市場で前例のない経済的不確実性が生じているため」とし、財政的な理由でプロジェクトの継続が困難であることを明かした。
トロントでのこの取り組みは、昨年基本計画を発表し、世界的に注目度の高かった事業だった。それだけに、撤退の波紋は今後も広がっていく可能性がある。
このプロジェクトに限らず、スマートシティ事業はさまざまなデータを収集するためカメラやセンサーを街中に配置する。また収集したデータの取り扱いを不安視する声もあり、反対意見もある。そのため、今後はいかにセキュリティ面の安全さやサービスの付加価値をアピールして、社会受容性を高めていけるかが重要なテーマとなるはずだった。その先行事例がストップしてしまった影響は大きい。
まして、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な混乱をもたらしている状況だ。スマートシティ構想は加速するのか減速するのか。まさに今、一つの岐路に差し掛かっているのかもしれない。
そんな不安が増大する状況下で、前述の通りNTTグループはスマートシティプロジェクトの推進を発表した。そうした状況から考えるとNTTグループはスマートシティ事業について、「B to B to X」モデルでデータを取り扱うことを他社との差別化ポイントとしてとらえ、事業を推進することに光明を見出しているように見える。
今後NTTグループがどのように展開していくのか。一企業・一グループの取り組みとしてだけではなく、国内外のスマートシティ事業に影響をあたえるものとして注目してきたい。
(LIGARE編集部)