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Osaka Metroインタビュー オンデマンドバスで変える大阪のまち

2023/10/4(水)

取材にご対応いただいたOsaka Metro交通事業本部 次世代モビリティ部のみなさん
写真左から
技術戦略部部長(自動運転企画担当) 兼EV化企画課長 柿本恭志氏
オンデマンドバスの企画・運営を担当する、次世代モビリティ企画課長 次世代モビリティ推進課長 伊藤圭介氏
オンデマンドバスやe METROに関連して新しいサービス事業を手掛ける、サービス連携課長 西村慶友氏

大阪市高速電気軌道株式会社(以下、Osaka Metro)は、AIオンデマンドバスの運行拡大を急ぐ。2021年3月以降、オンデマンドバスは地域の新しい足として重宝され、その運行エリアは現在5地区だが、25年度までに市内全域を目指して順次広げる計画だ。

また、Osaka Metroは大阪・関西万博が開催される25年と、万博後の35年に向けた「Osaka Metro Group が目指す姿」も発表している。オンデマンドバスを中心に、関連するMaaSサービスやEVバス車両の導入についてなど、担当者に話を聞いた。

――オンデマンドバスの狙いを改めて聞かせてください。

伊藤氏:大阪市内の交通は、鉄道を中心に路線バスが補完する形で充実しています。しかし、市周辺部では人口の減少が進んでおり、路線バスが1時間に1本といった公共交通不便地域が点在しています。将来的に、公共交通の存続が厳しくなるのではと懸念しています。

こうした地域の交通サービスを守るため、「e METRO」アプリを使って都合のいい日時・場所で乗り降りできるオンデマンドバスの社会実験を始めました。「まずはやる」のスタンスでお客さまのニーズ、オンデマンドバスの役割を見極めていこうとしています。


オンデマンドバスの車両。車いすやベビーカーでも利用しやすい


――サービス設計や、既存の公共交通、特にタクシーとのすみ分けなど苦労した部分もあるのではないでしょうか。

伊藤氏:そもそも都心でのオンデマンドバスの運行がほとんどなく、全てが手探りの状態で、サービス設計には非常に苦労しました。既存の公共交通とはいろいろな形で連携を進めており、当社が考える大阪の公共交通の将来ビジョンを丁寧に説明し議論を重ねています。オンデマンドバスの運行の一部をタクシー会社に委託する、アプリで乗り換え検索を連携するなど協業関係を構築しています。

好評のオンデマンドバス、増車が課題

――2年半運行する中で見えてきたニーズや課題は何がありますか。

伊藤氏:予約のアクセス件数が非常に多い反面、運転手不足の問題もあって車両の確保が難しく「なかなか予約できない」というお客さまの声をいただいています。車両を増やすことが課題と認識しており、1、2年内で今の台数の2倍くらいにはする必要があると考えています。タクシー会社との協議を行い、運行委託を増やすなどして解決していきます。

乗車されたお客さまの約9割は満足いただいているというアンケート結果があり、まずは乗っていただくことがやはり大事かなと感じています。多くの方に乗っていただけるよう早急に増車していきます。

――今年7月27日に発表した中期経営計画の改訂版で、オンデマンドバスについてもさまざまな取り組みを紹介されていましたね。まず運行エリア拡大に関してお聞かせください。

伊藤氏:25年度の市内全域の運行に向けて順次拡大することに注力します。具体的な拡大の順番や対象エリアについては、行政などとも連携しながら進めていくべきだと考えています。

現在の運行エリアは北区(キタエリア)・福島区(福島エリア)・生野区(生野エリア)・平野区(平野Aエリア・平野Bエリア)の大阪市内4区5エリア。今後は、市内全域に広げていく計画

現在の運行エリアは北区(キタエリア)・福島区(福島エリア)・生野区(生野エリア)・平野区(平野Aエリア・平野Bエリア)の大阪市内4区5エリア。今後は、市内全域に広げていく計画



多くの人が乗れるシステムを自社開発

――中計には、運行システムを自社開発するともありました。目的は何ですか。

伊藤氏:運行効率の向上を狙っています。例えば、1時間に3組のお客さまが乗っていたところを4組乗れるようにします。これにより、多くのお客さまが乗車でき、希望の時間に予約できる環境を作ろうとしています。自社開発することでコストを抑えるとともに、システム改修などに柔軟に対応できると考えていて、蓄積したデータから最適な配車アルゴリズムを組めるよう研究していきます。

また、アプリでの到着時間の通知をさらに分かりやすくするなどサービス向上も進めます。

――「モビリティの最適ミックス」推進も目標に挙げていらっしゃいますよね。詳しく教えてください。

伊藤氏:地下鉄、路線バスを自社で運行している強みを踏まえて、25年度に向けて地域の実情に合わせたモビリティの配置を研究し、実装していきます。

アプリで販売しているオンデマンド・路線バス共通の定期券・回数券はその一つです。市全域のエリアや駅の特性を見て検討しますが、公共交通不便地域が点在している辺りは必要性が高いと考えています。



25年度、35年度の目指す姿を公表。Osaka Metroが交通だけでなく大阪の街を変えていく


地域に合わせてバス、鉄道、モビリティをつなぐ

――地下鉄、路線バス、オンデマンドバスなどの「乗継ハブ」15カ所設置も25年度をめどに行うということですが、どういったものを考えていますか?

西村氏:鉄道やバス路線、オンデマンドバス同士で乗り換え需要が発生する交通結節点にハブを置こうと思っています。設置場所はオンデマンドバスの運行エリア拡大と密接にリンクしますので、現状は調査している段階です。

全てのハブが同じ仕様なのではなく、場所によって必要な機能をつけることになると思います。シェアサイクルなどのパーソナルモビリティを置いてラストワンマイル移動に役立てたり、待ち時間を有意義に過ごせる待合室を置いたり、フードトラックを出店したりといった形を考えています。住んでいる方の属性、よく使う交通手段など地域のニーズをつかんで検討していきます。

生活サブスク第2弾の実証を開始

――オンデマンドバスやe METROアプリに関連したサービス事業の拡大についてもご紹介をお願いします。

西村氏:最近の例では、8月23日から「オオサカトクトクパス」の実証実験を行っています。アプリ上で月330円または550円のクーポンを購入すると、オンデマンドバス運行エリア内の店舗で割引などの優待を受けられるサブスクリプション型生活サービスです。生活サブスク第1弾利用者から「使えるお店を増やしてほしい」との意見を受け、利用店舗を約80店から3倍以上に増やしました。

オンデマンドバスでは乗降場所の新設や、乗降場所のネーミングライツ販売を22年5月に始めていて、一定数成約しています。

オオサカトクトクパスの参加店舗は8月23日の開始後も増え、300店超に。「ものすごくお得なサービスです」(西村氏)

オオサカトクトクパスの参加店舗は8月23日の開始後も増え、300店超に。
「ものすごくお得なサービスです」(西村氏)





――路線バスの停留所でも「サイネージ付きバス停」を整備する方針とのことですが、詳しく聞かせてください。

西村氏:バスの運行・接近情報をリアルタイムで見やすく表示し、今後は防災情報や地域情報、広告の発信も可能になる想定です。7月に市内北区のバス停に2基を設置して実証実験を行っています。

現状、大阪市の道路占用許可基準で幅0.45メートル以上のバス停標柱設置や、道路上の動画表示が認められておらず、実証実験を実施して、問題がないか関係機関が協議します。規制緩和の判断がされれば、24年度以降に設置を進めて25年度に300基の設置を計画しています。



バス174両をEV化、自動運転は万博後も実証を続ける

――オンデマンドバスの話から外れますが、路線バスをディーゼルからEVにして、万博会場とその周辺でレベル4自動運転を行う構想を示されていますよね。それぞれ、いつまで、どのように進める予定でしょうか。

柿本氏:25年度までにEVバス174両を導入し、35年度めどに全車両をEVとする計画です。自動運転については、株式会社EVモーターズ・ジャパン製の車両をベースとする、レベル4走行対応のバスの初号車が24年1~3月くらいに完成する予定です。その後、実際の走行にできるだけ近い形で実証実験を行います。

万博後は社会実装を見据え、市街地での実証実験を行う予定です。オンデマンドバスも自動運転によって、運転士の労働条件に左右されない24時間運行など、よりきめ細やかな運行ができると考えています。

EVバスは7月27日に路線バスとして市内で運行を開始した

EVバスは7月27日に路線バスとして市内で運行を開始した



――最後に、ご担当の事業の実現にかける思いをお聞かせください。

伊藤氏:オンデマンドバスが非常に便利な乗り物ということには自信を持っています。予約がなかなかとれない点を一刻も早く解消し、より多くのお客さまにオンデマンドバスに乗っていただき、良さを実感していただきたいと考えています。

西村氏:市全域でオンデマンドバスを走らせるのは、Osaka Metroが唯一無二のすばらしい事業だと考えています。生活サブスクなどが加わることでQOL向上にもつながり、まったく新しいサービスを展開できると思っています。新しいサービス、収益を作ることが当社の掲げる「交通を核にした生活まちづくり企業」への一番の近道という思いで取り組みます。

柿本氏:当社が導入するEVバスは、日本ではあまり類を見ない大規模な導入規模であり、実現に向けた課題は多くあります。しかし、カーボンニュートラルやSDGsへの貢献を目指し、挑戦する価値の大きい、非常に有意義な取組みです。運転士不足を解決する自動運転と合わせ、着実に課題をクリアし、目標を達成していきたいと思っています。

※本文中の画像は全てOsaka Metro提供

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