「クルマ」であり「建物」、モビリティが拓く新たな災害支援【一般社団法人日本RV・トレーラーハウス協会インタビュー】
2025/5/8(木)
災害発生時に被災者に快適な住環境を提供するモビリティとしてトレーラーハウスに注目が集まっている。今年度、内閣府はトレーラーハウスなど災害対応車両の登録制度を創設し、被災時に災害対応車両を活用できるようデータベースを構築する。昨年1月の能登半島沖地震をはじめ災害時にトレーラーハウスを活用した復興支援を行っている一般社団法人日本RV・トレーラーハウス協会代表理事の稲吉啓氏(RAKANライフサービス代表取締役社長)に話を聞いた。
トレーラーハウスは「避難所」、「応急仮設住宅」に適したモビリティ
――災害時にトレーラーハウスを活用する利点を教えてください。稲吉氏:一つは日常に近い生活を提供できる点です。従来の仮設住宅では隣に住んでいる方の生活音が気になることがありますが、すべて独立した戸建てのためプライバシーにも配慮できます。加えて、一般住宅と同じ快適性を持つ完成品を運ぶため現場での作業がほとんどなく迅速に設置できる点や、床が少し高いので床上浸水といった二次災害を防げる点も強みです。
――いつからトレーラーハウスを災害支援に活用していましたか?
稲吉氏:1995年の阪神・淡路大震災から会員が個別で支援を行っていて、協会として取り組み始めたのは2011年の東日本大震災からになります。その際には残念ながら国や自治体に採用いただけなかったため、会員が直接被災地に赴いて被災者に支援を行っておりました。潮目が変わったのは2016年の熊本地震です。トレーラーハウスが初めて国費で支援を受け、「福祉避難所」として導入しました。その後は、「応急仮設住宅」として2018年の西日本豪雨や北海道胆振東部地震、そして昨年の能登半島沖地震でも活用していただいています。トレーラーハウスが災害時の応急仮設住宅に適したモビリティとして徐々に認識されてきたことを実感します。
――能登半島沖地震ではスピーディな支援が印象的でした。
稲吉氏:元旦に震災が起き、翌日には協会として被災地へ提供できる台数をリストアップしていました。その後も被災自治体や内閣府と連携を進め、2月4日には志賀町へ22台のトレーラーハウスを設置し、従来のプレハブ形式の応急仮設住宅よりも早く、被災者の方へ住居を提供することができました。
――支援をする上で難しかった点は?
稲吉氏:サイズが大きいので道路状況の確認と被災地の環境に合った住宅を提供する点です。温暖な土地で使われているトレーラーハウスでは能登の気候に対応した応急仮設住宅としての活用が難しく、行政と仕様で要件をすり合わせしながら高断熱のトレーラーハウスを用意しました。われわれは、クルマはもちろん建築のノウハウも有しています。だからこそ被災地に適切な仕様のトレーラーハウスを提供することができたと思っています。
RVパークを官民連携で
――災害時のトレーラーハウスの有用性が認識され災害対応車両の登録制度が創設されます。稲吉氏:自治体からすれば、災害時に活用できる車両が把握しやすくなる点はメリットです。懸念点としては、現状ではトレーラーハウスの数が十分とは言えません。協会の会員の所有台数を足しても100台程度です。大きな災害では不足しますし、災害はいつどこで起こるかわかりません。そこで平時には宿泊施設として、災害時には応急仮設住宅として活用できるトレーラーハウスの拠点・RVパークの整備を官民が連携して全国各所に整備するべきです。これにより全国どこで災害が発生しても、一定数の車両を安定的に供給できる体制が整うはずです。何より被災された方のストレスを一日でも早く軽減されるように願っています。
――災害時以外にもトレーラーハウスの用途が広がっているようですね。
稲吉氏:元々はなれ、店舗、事務所、宿泊施設に活用され、近年では医療施設や農業施設、サウナ等さまざまな用途で使われています。今後は、例えばソーラー発電+蓄電池、バイオトイレのようなライフラインのいらない仕様に技術が進化していけばより一層トレーラーハウスの活用のチャンスは広がっていくと感じています。

「トレーラーハウス」にカテゴリーの確立を
――今後協会で取り組むことは稲吉氏:「トレーラーハウス」というカテゴリーを確立させていきたいです。まだまだ国内では認知度、理解度にばらつきがあり、そのためには法整備が不可欠と考えています。現状では各自治体によってトレーラーハウスの解釈が異なっているため建築行政や購入を考えている方も困っているわけです。その一方でトレーラーハウスはクルマでもあり、建物でもある。不動産ではなくて動産であり、税制面でいいとこ取りをしている事実もあります。今後トレーラーハウスの確立や可能性を広げていくためにも、多面的な法整備を行政へ働きかけていきます。
(取材・文/松本雄一)