ニュース

欧州・米国・中国におけるADASおよび自動運転車市場予測【寄稿:SBD Automotive】

2025/4/24(木)

1990年代に初期の先進運転支援システム(ADAS)が市場投入されてから約30年が経過し、ADASの普及は競争圧力、法規制、安全性能評価団体によるインセンティブ、センサコストの低下といった要因により、実質的な成長を示し始めている。SBDでは、乗用車における各種ADASシステムおよびそのベース技術の搭載率、各OEMの取り組み、各種センサ技術の普及率などについて、欧米中の地域レベルで検証した。

欧米中市場におけるADAS搭載の違いと法規制の影響



欧米中市場におけるADAS搭載率(上)およびSAEレベル別の技術(下)

欧米中市場におけるADAS搭載率(上)およびSAEレベル別の技術(下)



米国
2024年時点でSAEレベル0、1、2の普及が最も進んでいるのは米国市場である。これは競争圧力に加え、多くのOEMがSAEレベル0の衝突回避を幅広い車種に標準装備する覚書を交わしたことが大きな要因となっている。特にアクティブクルーズコントロールやアシストドライブといったSAEレベル2までの利便性機能は、欧州や中国よりも米国で普及が進んでいる。ただし、駐車システム(SAPA/FAPA)の搭載は他地域に比べて進んでいない。

欧州
欧州市場では、米国・中国市場に比べてADAS機能の提供で競争が激化している。2024年時点で衝突回避、車線逸脱防止支援、ドライバーモニタリング、交通標識認識といったSAEレベル0機能の搭載率が非常に高い。これは欧州委員会による義務化の影響が大きく、2030年までに搭載率は100%に達すると予想される。一方で、欧州市場ではSAEレベル2機能の普及率が調査対象の市場の中で最も低く、2030年までこの状況は変わらないとみられる。

中国
中国市場ではSAEレベル0機能の普及が欧米市場より大きく遅れている。衝突回避や車線逸脱防止支援といった基本的なADASの搭載が義務化されていないことが主な要因と考えられる。中国国内OEMの多くは、ラインナップ全体で非常に限定的なADAS機能セットを提供しており、多くの場合一部のモデルに限られる。しかしながら、SAEレベル2以上の自動化技術の競争は非常に活発で、販売車両の約3分の1にアシストドライブなどの機能が搭載されている。

欧米中いずれの市場においても、2030年までにSAEレベル3システムが大規模に導入される見通しはない。

OEM各社は今後数年間でSAEレベル1、2、2+、3機能の搭載についてどの程度積極的に取り組むと予想されるか?

欧州
欧州では、OEMグループの大半が2030年までに、カメラおよびレーダーに加えて長距離LiDARを搭載し、SAEレベル3の実現を目指すとSBDは見ている。こうした動きを主導するのは車載技術に注力するドイツの高級車ブランドや中国新興ブランドで、これらのブランドはすでに長距離LiDARを自社のセンサセットに着実に組み込み始めており、SAEレベル3機能の初の実装にもすでに成功している。

2024年の時点で、Mercedes-Benzに続いてBMWが2番目のOEMとしてSAEレベル3機能の導入を表明しており、2025年前半からの納車開始が予定されている。NioやXPengといった中国ブランドも全車両に高性能センサを搭載し、SAEレベル3への移行を加速させている。Audiを始めとするVolkswagenグループの高級車ブランドも長距離LiDARの採用を進めており、現在開発中の自動運転レベル3技術は2027年までに実現すると見込まれている。

SBDが調査対象としたOEMグループの全てがすでにカメラとレーダーを搭載しているが、中には依然としてSAEレベル2機能を実装していないメーカーもある。いすゞおよびスズキは、先進的なADAS機能の提供において依然として限定的であり、今後も大きな進展は見込み難い。一方で、近年欧州市場に参入した中国のBYDは、中国市場で自動駐車機能をすでに展開しており、欧州への導入も間近だと見られている。

米国
米国では、ハイエンドメーカーをはじめとしてすべてのOEMに共通する傾向がデータから明らかとなり、競争と技術進歩に後押しされ、安全性の向上やADAS機能の強化につながるセンサ冗長化が徐々に進んでいる。センサの活用方法は、様々なADASに同一のセンサセットを適用することで、全体的な統合を図る戦略に収束しつつある。

米国では、SAEレベル2までのADASを提供するために、各OEMは少なくともレーダー、カメラ、超音波を含むセンサセットを採用している。こうした中、車載技術に注力する高級車と量産車の両ブランドが主導する形で、センサセットに長距離LiDARを加える動きが広がりつつあり、それによって初のSAEレベル3の自動運転が実現している。LiDARによるセンサ機能への新たなセンシングモダリティの追加により、レーダーとカメラのセンサセットが抱える制約が一部緩和され、システム作動時の安全性が向上する。一方で、Teslaは自動運転においてカメラ映像のみへの依存を強めており、2021年にはすでにレーダーを廃止し、現在は超音波の廃止も進めている。

中国
中国では、SBDが調査対象としたほぼ全てのOEMが、少なくともレーダー、カメラ、超音波のセンサセットを採用し、SAEレベル2までの機能をすでに提供している。Li Auto、Nio、Xpengといった中国国内EVブランドは、さらにセンサの実装を強化しており、長距離LiDARや3眼カメラといった高度なセンサを採用している。これらのEVブランドは、堅牢なセンサセットを活用することで、自動車線変更や市街地での運転支援といったSAEレベル2の高度な機能に対応しおり、中国市場において他ブランドに先駆けてSAEレベル3の自動運転システムを導入すると予測されている。欧米のブランドも中国市場にSAEレベル3機能を投入すると見られており、BMWは中国におけるSAEレベル3パイロットドライブシステムの試験実施に関する認可を取得している。一般的に、SAEレベル3システムを投入するOEMはLiDARを搭載する傾向にあるが、長安汽車(Chang’an)やTeslaといった一部のOEMは、長距離LiDARを使用しない独自のSAEレベル3システムを展開すると見られる。

LiDAR、カメラ、レーダー、その他のセンサの普及率

各地域における特定のセンサパッケージが搭載されたモデルの数

各地域における特定のセンサパッケージが搭載されたモデルの数



世界的に販売されているADAS搭載モデルの大半は、少なくとも1つの機能を、レーダーデータと前方カメラシステムの組み合わせにより提供している。なかでも、レーダー+モノカメラの組み合わせは、欧米中3つの地域すべてにおいて最も選択されているセンサフュージョンの構成となっている。

BMWは、レーダーと3眼カメラの組み合わせた構成を初めて導入した自動車メーカーであり、これに続いてTeslaやLucidなどの米国メーカーも同様の構成を採用している。(Lucid AirモデルにはLiDARも搭載)。3眼カメラは非常に高い堅牢性を備えており、レーダーとの組み合わせによって、モノカメラやステレオカメラに比べ、より広い視野で周囲の状況を正確に把握することができる。

既存のセンサ構成にLiDARを追加することで、ハードウェア全体の堅牢性は大幅に向上する。ただし、市販されているLiDARの多くは依然として高価であり、その追加コストは大半のモデルにとって正当化が難しく、一部の高級車モデルに限定される可能性が高い。

欧州・米国・中国における先進運転支援システムおよびそのベース技術の搭載率の差異を地域レベルで検証するレポート「ADASおよび自動運転車市場予測 2024年版 – 欧州・米国・中国編」の購入はこちらから
https://insight.sbdautomotive.com/rs/164-IYW-366/images/IB_538_24_ADAS_and_Autonomy_Forecast_JPN.pdf
※本書の2025年版も発行予定

【SBD Automotiveについて】英国を本拠とする自動車技術の調査・コンサルティング会社です。1997年の創業以来、日本、欧州(英国とドイツ)、米国、中国の拠点から自動車業界に携わるクライアントをグローバルにサポートしています。クライアントは自動車メーカー、サプライヤー、保険業界、通信業界、政府・公的機関、研究機関など自動車業界のバリューチェーン全体。調査対象エリアは欧州、北米、中国、ブラジル、インド、ロシア、東南アジアなど世界各国の市場を網羅。自動車セキュリティおよびIT、コネクテッドカー、自動運転、電気自動車、ソフトウェアディファインドカーなどの分野において調査を実施、各種レポートやコンサルティングサービスを提供しています。

get_the_ID : 243893
has_post_thumbnail(get_the_ID()) : 1

ログイン

ページ上部へ戻る