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伊藤慎介の “Talk is Chap” 〜起業家へと転身した元官僚のリアルな産業論  第2回 日本のものづくりの底力を日本人は活かしきれていないのではないか

2017/11/22(水)


パチンコ台の樹脂パーツ屋さんが担当したrimOnOの樹脂部品

歩行者にやさしく、環境にやさしい乗り物を目指しているrimOnOは極力軽量化することを狙いにしており、鉄で構成されたフレームと布製ボディを除く部分は、樹脂をできるだけ多く活用しようとしている。

クルマにおいてガラスに相当する部分はポリカーボネートという樹脂を活用している。また、ドアノブやエンブレムは可愛らしさを出すために専用の樹脂パーツを起こしている。

 

ブレイン・ストーミング社の佐藤社長(左)と塗装を担当して下さった所氏(右)



これらの樹脂パーツの製作を担当して下さったのが、愛知県一宮市にあるブレイン・ストーミング社である。同社は主にパチンコ台に使われる樹脂パーツの製作を本業とする会社であるが、パチンコ業界における仕事で培った高い成形技術に以前から着目していた奥村氏と鳥羽氏が是非ともrimOnOに活用したいとお願いした結果、rimOnOの樹脂パーツの製作を担当していただけることになったようである。

 

塗装されたドアノブと完成度を高めるために行われた試験塗装



図7はrimOnOのドアノブに使われている樹脂パーツである。このパーツだけでも可愛らしさを感じられるよう細心の注意を払って製作と塗装が施されている。担当した所氏からは、何度も試験塗装を行ったと教えていただいた。

 

rimOnOの開発プロセスを通して感じたことは「ものづくりはコンテンツ」ということ

最初は影も形もなかったrimOnOというプロダクト。それが、私と根津とのビジョンのしり合わせの結果、プロダクトデザインという形で産声を上げる。そこに設計会社のドリームスデザイン社が関与することで機能面とデザイン面の両方で素晴らしい詳細図面が完成していく。

そして、ビー・クラフト社、ブレイン・ストーミング社などのものづくり企業がデザインや図面に込められた思いを形にすべく製作し、プロダクトが完成する。

重要なのは、この全体のプロセスにおいて、「ワクワクするプロダクトを世の中に送り出したい」、「カワイイと言ってもらいたい」という思いを全員が共有してくれているという事実だ。

rimOnOの完成後、たまたま通りかかった女性陣がrimOnOを見て発した言葉が胸に刺さった。

「こんなに夢のあるプロダクトは久しぶりに見た」

こういう言葉をかけてもらえるのは、rimOnOが単なるパーツの寄せ集めではなく、関係者の思いがプロダクトとして結実した「コンテンツ」だからだろう。

今の日本ではコストを下げるためにものづくりのプロセスを効率化することが染みついており、そのためにプロセス全体を分業化し、各担当が淡々と作業して次に渡すことに慣れ過ぎているように感じる。その結果、消費者に「思い」の伝わらないプロダクトが増えているのではないだろうか。

しかし、rimOnOの開発を通して実体験したことは、ものづくりとは「コンテンツ」であり、その開発・生産に関わる人たちの思いの「結晶」であるということである。

そして、思いのあるものづくりを行う上で、この国ほど恵まれた場所はなかなかないのではないかということだ。

世間では自動運転、ロボット、AI、IoTなど、ITやソフトウェアに力を入れるべきという論調にあふれている。世界のトレンドについていこうという気持ちは分からないわけではない。だが、海外に強みのあるITやソフトウェアに追いつけ・追い越せと取り組むことで本当に日本企業として差別化できるのだろうか。

rimOnOを通して2年間ものづくりに携わってきた私としては、まずは日本のものづくりの底力を見つめなおすべきではないだろうかと思ってしまう。

著者紹介:
伊藤慎介-株式会社rimOnO 代表取締役社長
1999年に旧通商産業省(経済産業省)に入省し、自動車、IT、エレクトロニクス、航空機などの分野で複数の国家プロジェクトに携わる。2014年に退官し、同年9月、有限会社znug design(ツナグデザイン)代表の根津孝太氏とともに、株式会社rimOnOを設立。

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