特集ティアフォー第2回 破壊的創造:自動運転EVが生成AIと街を作る
2023/12/5(火)
ティアフォーは「自動運転の未来」を見据えて、クリエイティブでディスラプティブ(既存価値を破壊するような)な技術開発を進めている。CEO兼CTOである加藤真平氏が語る「誰でもティアフォーと同じ自動運転車を作れるオープンサービス」はその一例だ。オープンサービスによって「EVが作る日本産の生成AI」や「自動運転ソフトウエアで動く街」の誕生も見込む。ティアフォーが繊細に既存の価値を壊しつつ、大胆に新しい価値を創る未来を紹介する。
100カ所実装のノウハウを教科書に
オープンサービスは「自動運転の全てをまとめた教科書」(加藤CEO)。ティアフォーは2030年までの提供を目指して開発を進めている。自動運転車を作るためのリファレンスデザイン(設計図)、自動運転バスやタクシーを走らせるサービス事業化の方法などがオープンサービスに含まれる。ティアフォーは、自動運転車の台数よりも、「誰でも自動運転車を作れる、自動運転の民主化」に力を入れる。神奈川県平塚市に持つ工場で生産できる自動運転車は年間100台ほど。加藤CEOは「1000台、1万台と増やすことは考えていない。この100台がすごく役に立つ」とする。
自動運転の国家プロジェクト「Road to the L4」による社会実装の目標は2025年度で50カ所、27年度で100カ所。日本の市町村の総数約1700に比べて限られている。ティアフォー1社だけでも、全ての土地で自動運転バスを複数台走らせることを目指せる。
全国各地で数百台の自動運転車が走れば、ティアフォーは社会実装のノウハウを大量に手に入れる。すると、「日本の100の街を走った自動運転車のリファレンスデザインが作れる」(加藤CEO)。
ティアフォーEVが他メーカーを救う?
リファレンスデザインは「一定の性能の部品を集めてください。クルマのこの位置に、この性能のセンサーを取り付けます。消費電力はこのくらいです。公道走行の認可を得ているので、すぐにでも走行できます」といった具合に、全ての指示が簡潔にまとめられている。設計図を見れば、世界中の誰でもティアフォーの自動運転EVを作ることができると加藤CEOは力を込める。「1人、2人で作った諸外国のEVスタートアップでも、もちろん日本を代表する自動車メーカーでも」だ。ティアフォーは、リファレンスデザインを通じて得る収益を重視している。
企業がデザイン利用に対して支払うロイヤルティーや、自動運転EVが量産されることで拡大する、ティアフォー製のシステムおよび部品の売り上げが、収益源として見込まれる。
ティアフォーのこの取り組みは、既存の自動車メーカーにとっても選択肢の一つとなる。「世の中にあるメーカー200~300社のうち、独力で自動運転EVを作ることができるのは、ほんのわずか。ティアフォーと事業連携することで、その流れが変わる可能性がある」(加藤CEO)。
リファレンスデザインで作るクルマの姿
ところで、リファレンスデザインに基づいて量産されるであろう自動運転EVは、どんな姿形をしているのか? まずは各地で実証実験が行われている公共交通のバスや、タクシーから作られるだろう。その先の乗用車については?加藤CEOは「最初はラグジュアリーカーやスポーツカーなど、数千万円を超える高級車の仕様を考えるといい」という。自動運転の技術を搭載するには、「それなりのコストがかかるという限界」があるためだ。
部品を集めて設計に従えば、だれでもリファレンスデザイン通りにクルマを作れる。しかし、自動運転に必要な技術を搭載した部品は比較的高価になりがち。また、企業の規模を問わずに作れるということは、部品調達や車両生産の「数のメリット」が生まれないことでもある。200万円~300万円のクルマと価格競争するのには厳しい。ユーザーが少し高めのお金を出しても、納得感や満足感を得られる意匠が必要となりそう。
駐車場に止まるEVはコンピューター、そこからAIを作る
誰もがリファレンスデザインで自動運転EVを量産できると、「たぶん、何百万台の世界になる」と加藤CEOは見込む。この時点でティアフォーが得る収益は大きい。その上で「一番やりたいことがある」。それは、オープンソース自動運転ソフトウエア「Autoware※」を共通ソフトウエアとする、何百万台のEVに積まれたコンピューターの活用だ。※Autowareは、The Autoware Foundationの登録商標です。
自動運転EVの車載コンピューターがもつ計算能力は、一般的なノートパソコンの10倍以上。止まっているEVは、インターネットに常時接続される高性能コンピューターとなる。走るよりもずっと長い駐車中の時間に、計算能力をフル活用でき、車載AIは学習して賢くなっていく。「自動運転EV100万台規模の計算能力は、世界最高水準のスパコンと同等になる。EVの計算資源を使えば、国産の生成AIを作ってグーグルやマイクロソフトと並ぶこともできるのでは」と、コンピューターサイエンス研究者・東京大学特任准教授の顔を持つ加藤CEOは考えている。
自動運転ソフトでつながる決済
車載のコンピューター利用に対価が払われれば、クルマのユーザーメリットを身近に感じられることになる。数百万人のEVユーザーに計算資源利用の対価が回ることで、自動運転車や交通と結び付いた新しい決済の仕組み「Autoware経済圏」も作れると、加藤CEOは見込む。高速道路をETCカードなしで通行でき、クルマを降りても顔認証で買い物できるなど、「もうスマートフォンも出さなくていい」ような決済システムだ。
Autowareは、非営利・選挙で選ばれる理事会が運営する財団The Autoware Foundationが管理し、ティアフォーは開発をリードするが独占はできず、公平性が保たれる。だから、パートナーはAutowareを信頼してティアフォーの周りに集まってくれると加藤CEOは言い、経済圏の創造と拡大にもつながる。
自動運転EVが走り回り、駐車中のEVはコンピューターとして稼働する、買い物は「顔パス」で決済する未来…。構想は街づくりにも発展していく。
新しい体験求め、モビリティに乗りたくなる街
ティアフォーは11月1日、JR東海によるリニア中央新幹線の沿線事業開発に協力すると発表した。JR東海、各自治体とその住民、産学連携で集まるスタートアップや大学と協力して自動運転、リニア新幹線や最新テクノロジーが体験できる街づくりに取り組む。JR東海からの依頼で、加藤氏はティアフォーCEOと東大特任准教授、2つの立場で関わる。まずは、神奈川県相模原市が街づくりの舞台となる。「2024年春にもテクノロジー体験を始めていきたい」(加藤CEO)。JR東海による沿線開発のR&Dセンターも相模原で始動する。街づくり成功例を、リニア沿線の各都市とRoad to the L4で自動運転の実装を目指す100カ所にも同時に広げていく考えだ。
なぜ、ティアフォーが街づくりをするのか?「自動運転、モビリティが必要となる価値を創造する」ためだ。加藤CEOが考えるモビリティが必要な理由は「2つしかなくて、1つは人と会う、もう1つは新しい体験をする」。新しい体験ができる街という価値創造に参画し、移動の需要を生む。
10年先の技術を体験「ディズニーランドより楽しい」
街ではもちろん、自動運転が体験できる。公道でのバスやタクシーの実証実験は当然。サーキット内では人を乗せてのゴーカート自動走行、無人の自動フォーミュラーカーが時速100㎞で走るレースもしたい考えと、加藤CEOは明かす。顔パス決済の実証実験も行って、将来は街の店全てで使えるようなAutoware経済圏を作ることも考える。「モビリティに保険、通信、決済などを含めた街づくりソリューションも面白いかもしれない」。
そして、東京大学をはじめ、さまざまな大学で行われている研究を楽しいエンターテイメントとして体験できる場を作る。AI(人工知能)をはじめとして、人間拡張やバイオ技術などに触れてもらう場所を作れば、アトラクションとして価値を発揮できる。「ディズニーランドよりも楽しいと思う研究が、たくさんある」(加藤CEO)。
「大学の研究が市販の商品に結び付く実用化には、普通10年かかる。自動運転も似たところがある。でも、体験なら今日にでもできる。10年待つのは非常にもったいない」。街に出して周知することは、研究者の利益にもなるとの考えだ。
自動運転の現在地、対話するクルマ
以上、紹介してきた内容はティアフォーの計画と未来構想だ。では、ティアフォーの自動運転は現在、どこまで進んでいるのだろうか。東京・台場で試験走行が行われている、自動運転タクシーに試乗した。「思考し、対話するクルマ(Cars That Think and Talk)」だ。車両はトヨタ自動車「JPN TAXI 匠」を自動運転対応に改造したもの。車両にはLiDAR(6基)、車内外のカメラ(計8基)のほかに、AI技術を活用したインターフェース「CT3」が搭載されている。「CT3」は音声認識やテキスト音声合成を活用したインターフェース。「ファイブ!」のかけ声で起動し、人と対話する。
人が目的地を告げると、「CT3」は経路探索を行い、「目的地を設定しました」「出発準備が完了しました。出発しますか?」と質問する。「出発してください」と人が声をかけると「承知しました」と応じ、自動運転を始める。自動運転の対応速度は時速40㎞。目的地に着くと「間もなく目的地に到着します」「目的地に到着しました」と発話して停車する。
路肩に止まっている車両の回避や右折なども自動運転で走る。出発点の東京テレポート駅から日本科学未来館まで往復約4㎞、約20分のうち、ほとんどをクルマが自動で運転した。人が介入操作をしたのは、路肩に停車していた車両を回避するハンドル操作や、直進する車両との衝突を避けるブレーキ、停車するためのハンドル操作など。
レベル4実装に向けて改善するべき箇所はもちろんある、とティアフォーの担当者は話す。だが、乗車しての感想は速度も含め、通常のタクシーと変わらない。特に気になる自動運転の動作もなく、現時点でも安全・快適に乗れると感じた。
特集ティアフォー第3回に続く。