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着るだけで居眠り検知!!東洋紡「COCOMI(心美)」

2017/6/12(月)

着るだけで、つけるだけで――ただ、それだけでよいのならユーザーに取ってはこの上ない。身につけたものから情報を取得し、データ活用ができるウェアラブル端末。右肩上がりのウェアラブル端末市場に2015年8月に参入したのは、フィルムや自動車用資材などの製品を提供する高機能製品メーカー・東洋紡株式会社(以下、東洋紡)。生体情報計測ウェアとして発表された「COCOMI(心美)」は伸縮性のある導電素材だ。2017年1月にはユニオンツールと共同で “着るだけ”で居眠り検知ができるという居眠り運転検知システムを開発した。そんな「COCOMI(心美)」の開発者である東洋紡 繊維生産技術総括部長 作田光浩氏(以下、作田氏)に話を伺った。

〈社内横断型プロジェクト〉

――名前の由来は?

COCOMIは人に着ていただいて、体の調子やデータを取るものということから、人との結びつき、触れるという言葉をもとに考えました。漢字では「心美」。心地良さにこだわったので「心」、心地良いものを着て、心も体も美しくなって欲しいという願いを込めて「美」という漢字を使うことになりました。

全社の横断型プロジェクトで、みんなで意見を出し合って決めました。語感の良さも決め手となっています。

――開発のきっかけは?

スマート衣料と呼ばれる衣服は昔から開発されており、2004~2006年にも開発のブームはありました。命に関わる仕事をしている軍や消防士のために、離れた場所から体調のデータを得ることが求められていました。当時は素材も今ほど発達しておらず、電気が流れる繊維や配線を衣服の中に仕込み、心拍数や体温を確認するための液晶ディスプレイを衣服に貼り付けていました。それぞれの部品も大きく、着心地が度外視されているようなものでした。

2014~2015年から再びスマート衣料が注目されるようになりました。スマホ普及率の増加により、服からはデータを取るだけでよくなったのです。素材や部品が小さくなり、実用化するバックグラウンドも揃いました。また、データが使われる分野も多様化しました。軍や消防士などの特殊分野以外に、自己管理のための個人需要も増えたのです。

――社内横断型プロジェクトによりCOCOMIが開発されたと伺いました。部署間での連携で苦労されたことはありましたか?

電気・原料・繊維・計測、今まで別で仕事をしていたグループを横並びにして開発しました。繊維部隊が導電材料をもっと薄くしてくれという注文をすると、電気部隊には問題が発生します。ある程度の感度を維持するためには一定の厚みが必要なので、薄くすればするほど電気抵抗が上がって電気が流れなくなるからです。また、原料のペーストを作っている原料部隊は「洗濯したい」という想定外の要望を受け、「どのような条件で洗うの?」と困惑することもありました。繊維部隊の人間は服に電気を流したことがなかったので、電気を流すにはどうすればよいかを勉強しました。さまざまな経緯を経てCOCOMIは誕生しています。

〈独自のノウハウと技術を生かして〉


――伸縮性のある導電素材はどのようにして開発されたのでしょうか?
曲げられる柔らかい素材は従来からありましたが、COCOMIのように思い切り曲げても大丈夫な素材はありませんでした。COCOMIで使用されているストレッチャブル導電ペーストは、もともとは、ねばねばした反液体のような半固体でした。回路を印刷して描いてみようということになり、曲げ伸ばしに耐えることのできる、伸びるインクを開発しました。インクをシート状に加工して服に貼り付けています。フィルム状の電気が流れる素材部分がCOCOMIで、一番厚いところでも0.3ミリです。伸縮性のある導電素材を使って開発しているので、伸ばしても途中で割けたり切れたりせず、導電性にも優れています。

――独自の計測技術を応用されていると伺いました。どのようにCOCOMIの開発に生かされているのでしょうか?

大津にある総合研究所に快適性工学センターがあります。長年、感覚計測や生理計測を行っており、着心地、快適性、不快感などを研究しています。東洋紡の商品群に「衣服内気候」というものがあります。衣服と皮膚の間の状態が快適さを決めます。これを科学的にわかるようにしてきたのが快適性工学です。「汗でべたべたする」、「さらっとして気持ち良い」などの感覚を科学的な数値で置き替える根拠を見いだしてきました。

人は温度が31~33度、湿度40~60%のときに快適性を感じ、着心地が良いと実感します。発汗マネキンに体温持たせ、汗をかかせることでオフィスワークや激しい運動を模擬的に再現し、衣服と皮膚の間にある空気の質を調べています。

COCOMIは肌に触れて直接着ることが想定されていたので、電極を取り付ける場所が重要視されました。身体から離れないように、かつ激しい動きをしても浮いたりしない場所を選ぶのに試行錯誤しました。コンピューターで圧力を示すシミュレーション技術を応用して、圧力が変化しない場所や走った時の衣服の当たり方を調べて、背中の肩甲骨の下あたりが最適だというデータを導き出しました。電極は常に皮膚に密着するように、この部分だけ衣服圧が高めに設計されています。

〈実証実験中の居眠り運転検知システム〉


――現在、実証実験が行われているCOCOMIを使った居眠り運転検知システムについて教えてください。

システムはユニオンツールの眠気通知器を使っており、東洋紡は心電のデータが取れるウェアを提供しています。心電図の一番大きい波がR波で、心臓が収縮して大動脈に血液を送り出すときの信号です。1分あたりのR波の数から心拍数を出すことができます。心拍周期がある一定のパターンの時に眠気が生じていると判断します。現在、ユニオンツール主導のもと、中日臨海バスと提携して実証実験を行っています。現段階での精度は8割ほどです。

――ドライバーの反応は?

100点満点はなかなか出ません。最初は違和感があったようで、「きつい」「運転しづらい」などの声がありました。声をもとに改良し、下着にできるだけ近い素材にたどり着きました。スポーツのような密着する服は着心地が悪いので、比較的ゆったり着られるようにマジックテープで調節可能にしています。

〈医療・スポーツ分野への応用〉

 

――今後、他の分野でどう生かしていきますか?
バス・トラック・タクシーなど安全管理が重要な職業の方には抵抗なく着ていただけても、一般ドライバーがわざわざ眠気検知のために着替えないでしょう。

例えば、スポーツウェアとして、一般の方はジョギングの際に心拍を見られたら便利ですし、トレーナーはトレーニングメニューを考えるのに活用できます。

ユニオンツールのマイビートには三軸加速・温度センサー・心拍センサーの機能があります。三軸加速度計は身体の動きを定量化してリハビリの状況を数字で表すことが可能です。また、心電を取れば不整脈や脳梗塞の前兆など、体の不調を検知することができます。寝たきりの方の体調を離れたところで見守るなど、医療の入り口となる分野にも生かせると考えています。

まず、これを着るための意識付けが必要だと考えます。何のために着るのかという目的やメリットがないと着てもらえません。例えば、データを取って何をするか、心拍を取って何をするかが明確になるとスマート衣料が普及していくのではないでしょうか。さまざまな可能性を想定し、ニーズに合わせて商品化していきたいと考えています。

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現在、競走馬の心拍数測定用カバーとしても使用されているというCOCOMI。今後はスポーツ、ヘルスケア、工場で働く人の健康管理など、幅広い分野での活用が注目されます。これからの季節、熱中症予防への応用にも期待したいところです。

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