EVバス自動運転とワイヤレス給電。先々起こる課題を見据えて【豊中市】
2025/4/14(月)
3月26~28日、大阪府豊中市で、自動運転EVバスによる実証実験が行われた。今回のポイントは大きく2つ。1つは、EVの普及を背景に実用化が期待される「走行中ワイヤレス給電」の検証を行ったこと。もう1つは、交通空白地域を“持たない”豊中市が、将来の移動サービスづくりに取り組み始めたことだ。
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実証実験が行われた豊中市は、大阪市の北に位置する人口約40万人※の中核市。市内にはOsaka Metro御堂筋線と直通運転の北大阪急行や、阪急電鉄などの鉄道網が通り、北西部には大阪国際空港(伊丹空港)が所在する。北東部には、隣接する吹田市にもまたがる千里ニュータウンの一角があり、大阪都心のベッドタウンとして根強い人気のある自治体だ。※豊中市が発表した2025年3月1日時点の推計人口は397,569人(出典:豊中市推計人口)
今回の実証実験は、次代の移動サービス実現に向け、EVバスによる自動運転の検証が目的だ。豊中市のほかに、関西電力、損害保険ジャパン、阪急電鉄が参画。地域のランドマークである千里阪急ホテルを起点に、全長約3kmのコースを周回した。
実証に用いた車両は、ティアフォーのMinibus(全長7.2m、自動運転時の乗車定員は15名)。自動運転システムは「レベル2」で運行。路上駐車する車両の回避などシステムによる対応が難しい場面では、手動運転のドライバーが介入する方式を採った。

■走りながら給電する次世代技術の確立へ
今回の実証実験における1つ目のポイントは、「走行中ワイヤレス給電」を検証したことだ。この技術は、EVの利便性向上に貢献する社会インフラとして有望視されており、今回の実証に参画している関西電力などが、社会実装に向けた取り組みを進めている。同社は2024年にダイヘン・シナネン・三菱総合研究所・WiTricity JapanとEVワイヤレス給電協議会を設立したほか、大阪・関西万博の会場内でも実証実験を行っている。▼EVワイヤレス給電協議会に関するニュースはこちら!
関西電力のeモビリティ事業グループで課長を務める三木哲郎氏は、今回の実証実験の目的について「豊中市における交通課題の解決」を掲げつつ、「将来的な走行中ワイヤレス給電の実用化に向けた調査」を挙げた。
今回のコースでは、1周あたり約4kWhの電力を消費するという。「その消費分の電力を走行中に給電できるシステムがあれば、理論上EVはずっと走行し続けることが可能になります」と三木氏は説明する。さらに将来的な自動運転レベル4を見据えて、自動運転と走行中ワイヤレス給電を組み合わせた姿を目指す考えだ。
同グループで副長を務める田脇翔太氏によると、今回の検証で重きを置いているのが「インプットされたコース上を、車両がどれだけ高精度に走行できるか」という点だ。
「走行中ワイヤレス給電を想定した場合、地中に埋め込んだコイルの上を、車両が一定の精度で正確に通過する必要があります。今回は、実際の車両位置を衛星などで取得しながら、設定された走行コースから何センチ程度ずれるのか、といった検証を行いました」(田脇氏)。
一方、今回の実証実験では、給電用のコイルを地面に埋め込む検証は実施しない。そちらは万博会場での検証事項になる。豊中市の実証では、公道ならではの課題抽出が一つの目的だ。というのも、万博での実証は私有地内で行うため、地中に埋設する給電コイルなどの設置が比較的やりやすい環境だといえる。対して、今回のような公道に埋設しようとすると、そう簡単ではない。実環境で走行して初めてわかる課題を洗い出すことも、「将来の実用化に向けた準備」に含まれるわけだ。
■交通空白地のない自治体が先手を打つ理由
実証実験のもう1つのポイントは、「交通空白地域を“持たない”豊中市が、将来の移動サービスに向けた検証を開始した」点だ。冒頭で述べたように、豊中市の公共交通網は比較的充実しており、現時点では交通空白地域と呼べるエリアはない。公共交通の存続が危ぶまれる“待ったなし”の状況とは言い難いのが実際のところだ。
とはいえ、課題がないわけではない。真っ先に挙げられるのが、高齢化への対応だ。豊中市の将来人口推計では、2040年までは横ばいに40万人前後で推移するものの、高齢化率は徐々に高まる見込みだという。そうなれば坂道が多い北部エリアなどで、高齢者の移動障壁が高まるおそれは十分にある。
さらに、市内や近隣市への移動を担うバス路線も減便されるなど、将来的な再編や廃止の可能性は否定できない。つまり、現時点で顕在化しつつある交通課題があり、先々どう転ぶのかはわからないのだ。今回「次代の移動サービス実現に向けて」とのテーマを掲げ、自動運転の可能性を検証した背景には、こうした「先々の課題」に備える意味合いもある。
■移動支援を超え、地域の活性化を目指して
また、豊中市ならではのモビリティサービスを構築する上で欠かせないのが「地域コミュニティの活性化」という視点だ。例えば豊中市では、2023年から地域住民が主体となってグリーンスローモビリティで市内を巡回するサービス「モビとよ」※1を一部地域で行っている。この取り組みでは、地域住民の世代間交流や外出促進、近隣センター※2のにぎわいや治安向上という目標が掲げられている。なお、自動運転を検証した今回のコースは、普段「モビとよ」で巡回しているコースでもある。
※1 豊中市「新千里北町・新千里東町を走行するモビとよ(グリーンスローモビリティ)について」
※2 近隣センター:近隣住区ごとに配置された日常に必要なサービスを提供するセンター。商店や集会所、交番、郵便局などの公共サービス機関などが集約して配置されている。(参照:吹田市Webサイト)
※2 近隣センター:近隣住区ごとに配置された日常に必要なサービスを提供するセンター。商店や集会所、交番、郵便局などの公共サービス機関などが集約して配置されている。(参照:吹田市Webサイト)
豊中市の都市整備課で係長を務める岩崎啓介氏は、今回の実証実験と「モビとよ」の両方に携わる立場からこう語る。
「『モビとよ』は、交通支援に加えて、地域コミュニティの活性化が大きな目的です。地域の方に運転いただいて、地域の方に乗っていただく。そこで生まれるコミュニティが重要だと考えています」。
先述した高齢化を背景に、「モビとよ」は地域の移動を支えるサービスとして支持されている。他方、ゴルフカートをベースにしている仕様上、一度に乗れる人数はドライバーを除き最大3人に留まる。また、現状では地域住民がボランティアでドライバーを担っているものの、その多くは高齢者であるため将来的には人手不足の懸念もある。
実際、試乗会に参加した市内在住の女性に話を伺うと「豊中は坂道が多いから、体調が悪い日なんかはやっぱりしんどくて。でも『モビトよ』だとドライバーさんを入れて4人乗り。だから、今回のバスみたいに大勢(自動運転時15名)乗れる車両が走ってくれるようになったらうれしい」と、率直な期待感を語ってくれた。前述した「先々の課題」とは、外出促進も含めた地域コミュニティの維持・活性化という視点も含まれていて、自動運転バスの導入はそのための選択肢というわけだ。
■再開発と自動運転、変わりゆくまちの姿
豊中市では2025年度以降、「自動運転レベル4」の実証実験を目指している。本格実装に向け、国の補助金なども活用しながら進めていく計画だ。前述した走行中ワイヤレス給電のような先端技術を組み込み、プロジェクトの独自性を打ち出す一方で、岩崎氏は「将来的には乗り合いバス・タクシーといった方法を検討することも考えられます」とも語る。さらに「豊中市では『子育てしやすさNO.1へ』と掲げています。その目標との関連で言えば、学校や学習塾への送迎サービスなど、子育て支援と連携した展開も選択肢として検討してきたい」とも続けた。地域の特性や需要、さらに先々の課題も見据え、あらゆる可能性を検討しながら、豊中市ならではのモビリティサービスを形にしていく考えだ。
ちなみに今回の実証実験では、自動運転バスの離発着場所として、地域住民に長く親しまれている千里阪急ホテルの敷地を活用した。しかしこの場所も、2026年3月に閉館が決まっている。ホテルのある千里中央エリアでは、大規模な再開発事業が進められているからだ。
開発は段階的に進んでおり、2032年度内には完了する予定だ。新たな商業施設などが建設されるのはもちろん、道路ネットワークやバス乗降場の合理化なども計画されており、移動交通の面でもまちの姿が様変わりするのは間違いない。変化を遂げた新たなまちの姿には、どんなモビリティサービスがふさわしいだろうか。それを探るのもこれからの課題となるだろう。
豊中市の実証実験は、今後の自動運転サービスの社会実装を考える上で示唆に富む。交通空白地を抱える地域とは違い、既存の公共交通が一定程度機能している都市部で、「将来の課題」を見据えた取り組みをどう進めるか——。挑戦はこれからも続く。
(取材・文/和田 翔)