17キロ自動運転で走破! レベル4実装の事業性を探る桑名市
2024/2/28(水)
三重県桑名市は2023年12月、Level Ⅳ Discoveryの協力を得て片道約7.5キロの公道を自動運転で走る実証実験を行った。政府目標を見据えたレベル4自動運転の実装に手応えを感じつつ、課題と分析する事業性の確保について研究。地域の事業者や近隣自治体と最適な公共交通の形を模索する。桑名市の自動運転、MaaS実装を取材した。
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公道と遊園地内、2車種で同時に実証
桑名市は三重県の北部に位置し、愛知県、岐阜県と県境を接する。伊勢湾と、木曽川、長良川、揖斐(いび)川の「木曽三川」に囲まれ、古くは水運を利用して人が往来した「伊勢国の玄関口」。近年は、名古屋市まで車で30分程度、特急電車で16分のベッドタウンとして発展してきた。桑名市は19年度より自動運転の実証実験を行っていて、最新の実証は23年12月に実施した。特色としては「総計約17キロに及ぶ長距離走行」「自動運転車両2種を使い分けた、公道と企業敷地内での同時実証」が挙げられる。
走行ルートは、国内有数の入場者数を誇る市内の遊園地ナガシマスパーランドと、同じく人気の観光地なばなの里を結ぶ片道7.5キロの公道を、スパーランドの大駐車場を経由して往復。駐車場内では別種の自動運転車も往復2キロを走行した。
まず、ナガシマスパーランド―なばなの里間を走行ルートに選んだ理由について、桑名市役所 市長公室 政策創造課 MaaS推進室 主任の近藤祥太さんは「観光地同士を結んでいる需要が見込める路線であること、走行環境が比較的自動運転に適していること」」と説明する。
この区間は、自動運転の社会実装時の有力な候補。まずは「実現性の高い」路線で実装を始め、住宅地などに拡大していきたい構想だという。実装を想定してティアフォー開発の25人乗り「Minibus」で走行した。
一方、駐車場内では定員10人のグリーンスローモビリティ「GSM8」が走った。約1万5000台を収容可能という大駐車場を歩くのは一仕事。ナガシマスパーランド・なばなの里を運営する企業、長島観光開発は場内移動のモビリティ需要を認識していた。
市もラストワンマイルを埋める交通手段としてGSM8に期待しており、車両2種の実証を同時に行った。なお、22年度にもこの駐車場内で4人乗り自動運転車の実証をしている。
確かな技術、入念な準備が裏付ける成功
実証実験は、国土交通省の「自動運転実証調査事業」に採択され、9者が参加。Level Ⅳ Discoveryを組成するアイサンテクノロジー、ティアフォー、損保ジャパンの3社や、地元で路線バスを運行する三重交通、長島観光開発らが協力した。実証実験に必要な準備は多岐にわたり、それだけ時間もかかる。まず、技術面。12月に行う実証に当たってアイサンテクノロジーの担当者はもっとも早く8月に現地入りして走行ルートの測量と3D地図制作に向けた準備をしている。続いて運行領域(ODD)の設計、自動運転車両の調達など行い、保険の手配や、実証の許可申請も欠かせない。
運転士の確保に心を砕いている三重交通は、通常業務とは別に、実証バス車両のセーフティドライバーを派遣する。こちらも早めの調整は必須。敷地を提供する長島観光開発にも施設の繁閑の都合がある。関係者の事情をくみ調整するには大きな労力がいる。
Level Ⅳ Discoveryは企業と市の窓口の役割を果たし、実証をコーディネートする。市の担当者、近藤さんは「人員が限られている中で、各地で実証を成功させた知見を基に全体を考えてくれることを非常にありがたく思っています」と評する。
また、Level Ⅳ Discovery各社が「風通しのいい会社」だと感じていて、これも助けになっていると話す。各社の若い担当者がフットワーク軽く桑名に来てくれ、スピーディーに疑問に答え、対応してくれると言う。
市民が試乗して12月の計4日間行った実証の評価は、「技術的にかなり進歩していて、今回のシンプルな路線ならいつでも公道レベル4走行に行けるくらいに感じられました。手動介入は10回あるかないか」。
社会受容から実装へ、市の取り組み
市は19年(令和元年)度以降、走行ルートや車両を変えて実証実験を重ね、実装を見据えてきた。自動運転の導入について本格的な検討を始めたのは18年の夏ごろ。背景には他地域と同様の事情がある。高齢化する住民が自分で運転するのが難しくなること、その一方で公共交通の運転士不足の危機感は強まっていることが挙げられる。平成の初期まではベッドタウンとして市の人口増や団地建設が続いた。しかし、これらの団地に住み、マイカーを主な交通手段としてきた住民は高齢者となりつつある。こうした高齢者の移動手段を、将来も維持していくため、自動運転を試してみようと決まった。
初回となる19年6月の実証では桑名駅と市役所という「目立つエリア」で走行した。当時は自動運転がそれほど知られておらず、市民に受容してもらうことが第一の目的だった。
同年11月には、実証を共に行った群馬大学などの識者や地元の市民、商工会議所、関係団体などで組織する次世代モビリティ社会実装研究会が発足。年に1、2回実証実験を行う前に助言をもらう形で現在も活動を続けている。
20年9月の第2回実証の走行ルートは、三重交通のバス路線があり住民の高齢化が進んでいる「大山田団地」内。将来の公共交通としての利用を見越しての選定だ。
22年2月にはLevel Ⅳ Discoveryが参加し、自動運転タクシーと仮想現実(VR)、拡張現実(AR)を組み合わせた実証を行った。桑名城址の九華公園や観光名所、六華苑を巡り、車内では目的地の解説や、かつての桑名城を再現したVR/AR動画を放映。小回りがきくタクシー型の自動運転車両の実証をしながら、交通と観光の組み合わせによる事業性を探った。そして、23年3月にはナガシマスパーランド駐車場内で初となる自動運転を行った。
「乗ってもらえる」自動運転の路線、事業者と作る
市は、複数の民間事業者と協力して実証実験の経験を積んできた。実装に向けた基礎は整ったと判断している。24年度も、23年度に続いて国土交通省の事業採択を目指し、その先の実装を図る。24年度以降の走行ルートは、最新のナガシマスパーランド―なばなの里間を基本に、駅や住宅地への拡大を考えている。観光路線の利便性だけでなく、市民が利用しやすい交通手段とバス事業者の事業性を長期的に確保したいとしている。
社会実装を考える上で事業性の確保は避けて通れないと市では判断している。事業者が定常運行を引き受けられる路線を選ぶことが重要とみる。レベル4自動運転は可能な場所から取り入れて、レベル2も一部で組み合わせた形が適切と考えている。
「乗る人からすると、自動でも手動でも関係はないので、乗ってもらえる事業性が大事だと思います。細かい課題もまだあるので、市であったり、民間であったりが慎重に事業性を検討して部分的にでもレベル4を取り入れていきたいと思います」(市長公室 政策創造課 MaaS推進室 室長 森山さん)。
デマンドバス実装も準備、市民に丁寧な情報発信
市は、自動運転と並行してオンデマンドバス「のるーと」実装も検討している。21年度、22年度に2回の実証実験を行い、24年1月より3月まで有償運行を実施中。今回の実証終了後に利用者の意見を集めて実装するかを決める。発着地は、市営コミュニティバス「Kバス」の路線と重なる。民営のバス路線が少ない、20年以上にわたってKバスが移動を支えてきたエリア。のるーとは乗車時間や発着地の自由が利き、公共交通として役立つというのが市の見方で、実装に前向きだ。市民も好意的。移動を自家用車での送迎に頼っていた層の利用もデータから読み取れるという。
民間の交通網を新技術で補完、移動しやすい街へ
桑名市内の各地点を結ぶ公共交通は路線バス、タクシーがあり、地域鉄道「三岐鉄道北勢線」は桑名市、東員町、いなべ市間を走る。桑名市は、既存の公共交通と、オンデマンドバスや自動運転といった新たな移動手段を上手く組み合わせて市内交通の全体効率化を図る。既存の公共交通との連携・すみ分けは、市が強く意識している点だ。例えば、のるーと実装で市内全域に運行エリアを広げようとは考えていない。桑名駅前など市の中心部まで走らせてほしいとの要望は多いが、民間のバス、タクシーとの重複は避ける。交通事業者や住民、三重県、近隣自治体などとの対話を重ね、既存の公共交通とうまく結びつく最適解を探っていく。
新しい交通、DX、GXに挑戦 桑名モデル全国へ広める
近藤さんは桑名市政について「交通に限らずDXやカーボンニュートラル、市民の生活を良くできる取り組みは積極的に進めていく気風があります」と紹介する。自動運転の最新の実証は、公道15キロの走行距離、民間企業が運営する遊園地の敷地まで入る点で異例。担当部署MaaS推進室としても「三重県、全国に先がけて前のめりに進み、他の自治体に伝えるくらいの気持ち」で臨んでいる。地域課題の一丁目一番地と言える公共交通の維持・改善に向け、使えそうなものにチャレンジしていく。
進取の姿勢は自動運転だけではない。DXでは各種届出で署名捺印や市役所への来庁を省略するための仕組みを作っている最中で、「メタバース役所」の実証事業を2月26日より開始すると発表。市役所で使う電力や公用車のカーボンニュートラルも進めている。
「桑名ならではの政策の一つとして自動運転を進めています。市の取り組み全体に注目してもらえたらうれしく感じます」(近藤さん)。