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【特集】国交省 鶴田総合政策局長に聞く 対話重視の交通空白解消と自動運転

2025/10/28(火)

国土交通省が国内の「交通空白解消」に取り組んでいる。2024年7月に発足した、国交相を長とする、「『交通空白』解消本部」は「地域公共交通のリ・デザイン」を通じて「地域の足」「観光の足」の充実を狙う。省・国内各地の運輸局と自治体、事業者が強く連携する中で、自動運転にかかる期待も当然大きい。これまで「リ・デザイン」や自動運転を推進し、「交通空白」解消本部も立ち上げてきた国交省 総合政策局の鶴田浩久 局長に、自動運転の実装支援や空白解消について聞いた。

鶴田浩久(つるた・ひろひさ)氏 国土交通省 総合政策局 局長
経歴:1990年運輸省(現国交省)入省、国交省の発足以来、航空ネットワーク部長、鉄道局次長、公共交通・物流政策審議官などを歴任して2023年物流・自動車局長に就き、2025年7月より現職。陸海空のモビリティに精通し、交通バリアフリーの法制化、地域交通法や物流効率化法の改正などを手掛けた。近畿運輸局に勤務していた時期は阪神・淡路大震災の現場対応に尽力。外務省でのパリ駐在や内閣官房への出向も経験している。


地域交通に公費は必要、1対Nのレベル4実装で支出効率高める

――自動運転の社会実装について評価を伺いたい。
レベル4の営業運行が国内8カ所で現在行われていて、緑ナンバーの営業車による運行が始まった点がとりわけ重要だと思っている。立ち上がり期は国の助成に頼る部分はあるが、自動運転の交通サービスが自律的に回る事業モデルが必要なので、営業運行が始まった意義は大きい。「自動運転車だからコストがかかる」という現況は普及に伴う量産効果で解消されないといけない。

――レベル4実装で地域交通の路線網や経営はどう変わるのか。
全体として、地域交通には、運賃収入だけでは赤字で、公費を投入しないとならない場面がある。日本の人口構造を考えると、今後はなおさらだ。だからこそ、赤字や公費支出をできるだけ減らして持続可能な交通とすることが必要だ。レベル4自動運転で、交通事業者が苦心しているドライバー確保は改善される。加えて、省人化が進むことにより、交通事業者のコストの大きな部分を占める人件費を抑えられる。
公共交通は厳しい環境下にある(総合政策局が8月7日に公表した資料より)

公共交通は厳しい環境下にある(総合政策局が8月7日に公表した資料より)



投資を促す政策 レベル4車両の需要規模は?

――自動運転車の共同調達でコストを下げようとの動きが自治体・民間にある。これに対する考え方を。
論点が3つあると思う。1つは自動運転の技術開発を止めないよう注意が必要ということ。日進月歩で開発が進む技術は甲乙つけがたい。どの技術にお金を払うかその時々で判断することにはなるが、一つの仕様に調達が集中することで、技術の進歩が鈍らないようにしたい。2つ目はいわゆる「1対N」の運行管理。例えば自動運転バスが1台1億円としても、バス運転士1人が5台を同時に遠隔監視すれば4人少なくてすみ、数年でトータルコストを減らせる。3つ目が自動運転車・システムの価格はすでに下がり始めているということ。新しく開発された機器・システムの価格は先行品を下回る。最近注目されるE2Eなど、劇的にコストを下げる可能性をもった技術も出てきている。これら3つをにらんで、最適な手を打つことが必要だろう。
E2E=エンドトゥーエンド、プログラムに基づかずAIが認識から制御までを行うモデル

技術の急速な成長の背景には、日本社会で自動運転を実装しようという機運が広まってきたことがあると思う。2023年度より本格化した、我々が「投資」と位置付けている国交省の助成も、技術の進歩を促していると感じる。国として「何年間に何台の自動運転車」という国内の需要規模を示して、民間の投資を促せるといい。政府は「自動運転に投資し続けていく」方針で、「自動運転は拡大していく」ことを示し続けなければならない。

質が変わるドライバーの仕事 実装「対話」最重視で進める

――自動運転トラックによる幹線物流、自動運転タクシーの実装も注目されている。
自動運転トラックは2024年問題を契機にさらに注目が集まる物流の課題に対して有効だし、タクシーは技術が急成長していて、ロボットタクシーの実装も現実味を帯びてきたと、この2年間感じている。運行パターンがシンプルなバスの方が実装しやすいと考えられてきたが、より多くの商品化・市場化を目指して、乗用車タイプの自動運転車の開発が加速している印象だ。経費のうち人件費が占める割合はタクシーだと7割、バスだと5割程度なので、省人化の効果はタクシーの方が大きくなる。


一方で、いつも強調しているのだが、省人化は、単純なコストカットや「人間の仕事をなくす」ために行うのではない。自動運転車が普及しても現在運転をしている人の仕事はなくならず、仕事の質が変わるということだ。どんな環境でもレベル4運転ができるわけでないので、自動運転が難しい道路では技術をもったドライバーによる運転が欠かせない。また、自動運転車が何らかの理由で止まったときに遠隔で状況判断をし、新たな指示を与えるトラブルシューティングも人間に求められる。これらの局面で人の手は絶対に必要で、今よりも付加価値の高い仕事だ。日本全体で働き手が減少する中、それを補いながら仕事の質を転換させていけば、自動運転で「21世紀のラッダイト運動」(機械打ち壊し)は起こらなくてすむ。

「自動運転を実装したい、持続可能な交通を実現したい」という思いは、省庁、自治体、国内の自動車OEM、自動運転システムの開発会社、全ての関係者に共通している。自動運転サービスを利用する側とつくる側、つまりニーズ側とシーズ側で前向きな対話を続けていくことがとても重要だと考える。国交省としても、関係者の意見を何度も聴き、自動運転の社会実装を後押しするにはどんな方法が最適なのか、探っている。私も物流・自動車局にいた夏まで法改正を含め検討していた。最適な方法を最適なタイミングで導入しなければならないだろう。
各者との連携を重視して交通空白解消を進めている(総合政策局が8月7日に公表した資料より)

各者との連携を重視して交通空白解消を進めている(総合政策局が8月7日に公表した資料より)



交通空白解消に絞る知恵 事業者の声を聴く

――2026年度予算の概算要求について。「『交通空白』の解消等に向けた地域交通のリ・デザインの全面展開」で2025年度から約3割増を打ち出している。
地域交通の公費需要は中長期で増えるとみている。高齢の地域住民やインバウンドの旅行者など、近年増えている地域交通の需要は、これまでの通勤のような定型・大量の需要とは異なり、公共交通の経営は一層厳しくなる。また、これらの需要は減らない一方、担い手層の人口は減少する「供給制約」にも直面する。状況打開には技術やビジネスモデルの革新を促し、生産性の高い公共交通への再構築を必要とするので、国土交通省では、地域交通のリ・デザインの予算増額を求めている。自動運転には大いに期待しているが、地域交通の課題を全て解決できるわけではなく交通空白解消のツールの一つだ。知恵を使ってできるだけ費用を抑えながら各地の実情に合わせた交通政策、ソリューションを検討していく。
交通空白解消他の2026年度概算要求は前年度比29%増の269億円。(総合政策局8月公表の資料より)

交通空白解消他の2026年度概算要求は前年度比29%増の269億円。(総合政策局8月公表の資料より)



「実情に合わせたソリューション」の具体例の一つが1対Nのレベル4自動運転だし、ほかにも、交通の分野間重複をなくすことが考えられる。地域の路線バスがスクールバスや病院の送迎バスを兼ねれば、1台のバスに対して需要は増える。事業会社間の連携を促すことも必要になってくると思う。縦割りをやめ、全体最適な交通をつくるために予算と知恵を使っていこうということだ。やはり重要なのは対話と思う。事業者、関係者のみなさんには、疑問に感じていることや要望を遠慮なくお話しいただきたい。

――どんな対話をしているか教えてほしい。
総合政策局だけでなく、私が夏まで在籍していた物流・自動車局では例えば自動車OEMやテック企業と意見交換している。交通空白解消についても地方運輸局も総動員で各地の自治体や事業者とだいぶ話ができていると感じている。対話をしてさまざまなステークホルダーの仲立ちをできるのは国交省の強みだと思う。

「空白は場所に限らない」 解消の努力いつまでも続く

――「『交通空白』解消本部」が活動を始めて1年の評価と2年目の課題を。
昨年7月に本部が発足して各市町村の交通空白を具体的に把握し、今年度からは、地域の足について交通空白がある約2,000地区、観光の足について交通空白がある約460地点のすべてで「3年で交通空白をなくそう」という目標を明確にして取り組んでいる。一方、これが解決すればこの仕事は終わりかというと、そうではなく、状況の変化と共に「空白」は新たに出てくる。

もともと、交通空白「地」という言い方をしていないのは、2つのコダワリがあるからだ。1つは、「交通空白は空間的な概念ではない」。空白かどうかは曜日や時間帯によっても変化する。もう1つは、「交通空白は固定的な『属性』でなく可変的な『状態』」だ。これは、車いすを使う人の移動について、その人の足を治療するかどうかでなく、スロープやエレベーターという社会環境を変えるかどうかの問題として考えることにも通じる。

「交通空白」も、対処次第で解消したり、また新たな空白が出てきたりで終わりはなく「人生と一緒」(笑い)だ。人生に「これを達成したら終わり」というゴールがないのと同じように、交通空白をなくす努力をずっと継続することが一番大事だと考える。

最後に、もうひとつ忘れてはならないのは、「交通空白」解消それ自体も手段のひとつで、目標はくらしと経済の活力向上だということ。ただ、交通は単なる手段でなく、目標達成に不可欠な手段だし、社会の「平均点」を超えて目標達成に貢献する「伸びしろ」があると信じている。

「人生のように、止まらず交通空白を解消」

「人生のように、止まらず交通空白を解消」



(取材・文/後藤塁)

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