トヨタが提示する、モビリティの役割を拡張した未来予想図【JMS2025】
2025/11/14(金)
トヨタはジャパンモビリティショー2025で、「Mobility for All」から一歩踏み込んだメッセージを発信した。佐藤恒治社長が新たに掲げたのは「TO YOU」。数々のコンセプトカーをはじめ、あえて未完成で出荷するアフリカ向けモビリティ、ユニバーサルな物流を担う4足歩行ロボット、障害者スポーツを支援するパーソナルモビリティなどが展示ブースに並んだ。
当記事では、従来モビリティが担ってきた役割をさらに拡張するトヨタのコンセプトモデルに注目し、その詳細に迫っていきたい。
佐藤恒治社長は「TO YOU」というメッセージに、「『誰かひとりのあなた』の顔を思い浮かべてものづくりをする」という意図を込めた。プレスブリーフィングでは、カローラのコンセプトモデルに続いて、ダイハツ、レクサスの展示内容にも言及。最後は豊田章男会長がセンチュリーのブースに現れ、コンセプトモデルを披露するサプライズもあった。当記事では、従来モビリティが担ってきた役割をさらに拡張するトヨタのコンセプトモデルに注目し、その詳細に迫っていきたい。
アフリカ向けにあえて「未完成」のモビリティを
本稿では、モビリティの役割をさらに拡張する複数のコンセプトモデルたちに注目していきたい。
「IMV Origin」は、アフリカの農村に住む人々を「あなた」として想定したコンセプトモデルだ。余白の多い外観が特徴的なこのモビリティは、「未完成のまま工場を出荷する」という一風変わった発想を掲げている。工場を出る時点では走行可能な状態ではなく、現地で組み立てて完成させる。これにより現地に「組み立てる」という新しい仕事が生まれるわけだ。
この「組み立てる」工程を終えても、まだこのモビリティは完成しない。人を乗せるのか、荷物を載せるのか。用途や積載物を利用者が柔軟に決め、それに応じた改造を施す想定で設計されている。
開発に携わったトヨタの木戸岡昭夫氏(ビジョンデザイン部アフリカプロジェクトデザイングループ長)によると、「ターゲットはアフリカで日常的に見られる過積載のバイクや軽トラックで荷物を運ぶ人々」だという。現地のニーズを探ると、数百キロから1トンほどの積載量が求められる。「過積載に耐えられるものを作れないか」という要望に基づき開発された。
さらに「狭い道でもスイスイ行けるバイクの機動性」と「走る・曲がる・止まるという四輪車としての基本性能の確保」という、相反する要求を満たす必要がある。そのため、柔軟に架装を変更できる上部に対して、下部のシャーシ部分はがっちり作り込む設計とした。
チーフエンジニアを務める太田博文氏(CV Company CV統括部 ZM)に、仮に商品化するとした際の価格設定について伺うと、「すべて取り払って究極にシンプルにする」ことが一つのチャレンジだという。現地で組み立て・拡張を行う想定なのも、なるべく安価に提供するための工夫で、「例えて言うなら、ゲーム機の本体だけ提供して、カセットやアクセサリは現地で安価にそろえてもらう」イメージだと太田氏は語る。
価格を抑えるためには、樹脂を使うのか鉄を使うのかといった素材の検討も必要になる。また、「現地で壊れたら、現地で修理する」という想定のため、導入した現地でも手に入りやすい素材を選ばなければならない。動力源についても、現時点ではバッテリーEVを想定しつつ、現地のインフラやエネルギー環境に依存するため、将来的には別の動力に頼る可能性も考えているという。
「IMV Origin」は、今後の商品化を見据えたときに考えるべき課題も多い。しかし、白いキャンバスに絵を描くような楽しさを感じられる自由度の高いモビリティだと言えるだろう。
KAYOIBAKOと、ラストワンマイルを担うロボットたち
「KAYOIBAKO(カヨイバコ)」は、2023年のジャパンモビリティショーで初公開されたコンセプトモデルだ。生産現場で部品や製品を運ぶ「通い箱」のように、目的に応じて役割を変えられる「超拡張性能」を備えたバッテリーEVとして披露された。
ビジネスユースでは、ラストワンマイルの物流や移動販売車、乗り合いバスなど、地域ごとの課題にソリューションを提供。プライベートユースでは、趣味嗜好に応じたカスタマイズや、車いす利用者も乗り込みやすい設計など、一人ひとりのニーズに応える。
段ボールにさまざまなサイズがあるように、KAYOIBAKOもXLからSサイズまで複数のサイズ展開を想定。小さな”箱”はダイハツが、大きな”箱”はトヨタが担当する。
今回展示されたKAYOIBAKOは、フットペダルが設けられておらず、ハンドルだけで運転操作をできる設計となっている。この仕様により、足に障害があるドライバーでも運転が可能になる。普段使用するパーソナルモビリティがそのまま運転席として格納される、ユニバーサルデザインの発想も盛り込まれている。
加えて注目したいのが、KAYOIBAKOとセットで提案された2台のロボットだ。
「CHIBIBO(ちびぼ)」は、物流のラストワンマイルを支えるパートナーとして開発された4足歩行ロボット。クルマが入れない狭路や階段も脚で乗り越えて大切な荷物を届ける。目をイメージしたサイネージや生物的な動き方が特徴で、「一緒に物流を楽しく働くパートナー」をイメージして開発された。
「KB LIFTER」は、特殊免許不要で誰でも物流を担える搬送モビリティだ。フォークリフトのような資格や難しい操作は不要で、ボタンとジョイスティックを用いてゲーム感覚で運転できる。小回りの利くコンパクトなボディながら、高さ150センチメートルまで荷物を昇降できる能力を持つ。重い荷物を持ち上げて車両に積み込む重労働を、誰でも自由に行えるようにするのが狙いだ。
- CHIBIBO
- KB LIFTER
モビリティの用途が拡張した先にあるライフスタイルとは?
そのほかにもトヨタは、3台のパーソナルモビリティを展示した。「walk me」は、日常の移動範囲を大きく変える4足歩行モビリティ。屋内も屋外も、段差を気にせずシームレスに移動できる。「boost me」は、すべての人が同じ土俵でスポーツに挑戦できることを目指したコンセプト。両手を自由にする構造で多彩な競技に適応可能で、屈伸、リーン、旋回を体幹で操作するスポーツモビリティだ。「challenge me」は、道なき道でも挑戦できる相棒として提案された電動車いす。誰もが究極の冒険を楽しめるよう、地形を選ばず段差をも越えていける高い走破性を持つ。- walk me
- boost me
- challenge me
今回紹介したトヨタのコンセプトモデルは、いずれも社会課題の解決や新たなライフスタイルの創造を目指すものだ。単に「移動する」だけの従来の役割から、「働く」「遊ぶ」「挑戦する」といった多様な用途へ。佐藤社長が語った「誰かひとりのあなた」を思い浮かべるものづくりは、モビリティの可能性を大きく拡張することにつながるだろう。
(取材・文/和田翔)
























