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コネクテッドカーの将来展望 SBDレポート

2017/3/9(木)

 

SBD では毎年、世界各国のコネクテッドカーの将来予測をまとめて発行しています。

ここでは、最新の将来予測から見える主な展望について紹介します。

将来の主な予測10 項目を数字で表したものです。

 


コネクテッドカー市場の将来の主な予測10項目を数字で表した図。

通信の搭載、それによるeCallやeコマース、パーソナルアシスタント、テレマティクス、Android AutoやCarPlayといった、さまざまなコネクテッドカーサービスが2025年までに進展するとSBDは予測している。



普及率は各地域で継続して増加

欧州では2018 年3 月から義務化が実施されるeCall(緊急通報システム)に先導される形でコネクテッドカーの普及が見込まれ、2024 年には埋め込み型のTCU を用いたコネクテッドサービスの搭載は新車販売の100%に達すると思われます。

 

米国を見てみると、コネクテッドカーサービス市場はもともと世界最大であり、GM やFord などの大手米国ブランドがコネクテッドサービスの装着率アップに積極的に取り組んできた経緯があります。これに追従する形で、他のほとんどのOEM も他の市場に比べ早いペースですでに装着率を拡大させてきているため、今後の伸びとしては欧州ほど急速ではないものの、今後も安定して伸びると予測されます。

 

自動車メーカー各社が搭載の拡大を発表していますが、中でもBMW は、2018 年までに全販売台数の90%を占める40 以上の市場でコネクテッドサービスを提供する計画を発表しており、すでにアグレッシブに取り組みを進めています。

 

クルマのビッグデータ活用

グローバルで搭載が進む背景には、消費者ニーズもさることながら、自動車メーカーがクルマのデータ利用の価値に重きを置き始めたことがあります。車載コネクテッドサービスの提供が始まった当初は、ユーザーへのサービス提供による差別化やブランドイメージ、あるいはサービス課金から得られる収益といったことに焦点が当たっていましたが、現在では、クルマのデータを利用してワランティ向上や、CRM の改善につなげるといった社内利用や、将来的な商業利用といった面により注目が集まっています。

 

こうした傾向は、一部メーカーが基本的なコネクティビティを無料で提供し始めた事実にも表れています。下図は、ベンツ、GM、BMW がそれぞれコネクテッドサービスの無料期間を延長していることを示しています。2010 年には無料期間を設定していなかったベンツが今では3 年の無料期間を提供、BMW にいたっては、10 年という、ほぼクルマのライフタイムとなる期間、コネクティビティを無料提供していることになります。

 

これにより、メーカー側はユーザーがクルマを使い続けている間、運転の仕方や部品の摩耗、オイルの状態、といったデータを収集し、社内で活用することが可能になります。特にCRM の活用事例は顕著で、ある自動車メーカーの例では、適切なタイミングでターゲット顧客に対してキャンペーンを展開することで、ディーラーでオイル交換を実施する率がコネクティビティを搭載しないクルマの所有者に対して倍になったというデータもあります。

 


ベンツ・GM・BMWのコネクテッドサービス無料期間の比較(2010年時点と2016年時点)

*eCall & diagnostics は、緊急通報サービスと遠隔診断機能

 

Android Auto/CarPlay(AA/CP)搭載は今後も拡大

スマートフォンをクルマに接続し、アプリをクルマの画面で使えるようにするソリューションは徐々に伸びており、各自動車メーカーが搭載を増やしています。過去5年余りの間メーカー各社は、サードパーティーコンテンツを求めるユーザーニーズとコスト競争の下でそれぞれ独自のスマートフォン統合ソリューションの開発に取り組んできました。 その中でもFord のAppLink は最も高い普及率を達成したソリューションですが、他の自動車メーカー向けオープンソース化の決断は残念ながら遅きに失した感があります。

 

そんな中で、Google とApple が2015 年に市場に出したスマートフォン統合ソリューション、Android Auto とCarPlay はいずれもシンプルで使いやすいインターフェースで、硬直した自動車業界に革命をもたらし、OEM 各社に衝撃を与えました。自動車メーカーはユーザーニーズと競争圧力の下で同ソリューションを提供せざるを得ない状況になっています。一方、中国では、Baidu もCarLife ソリューションによって勢いを増しています。Baidu とAlibaba が国内自動車市場を席巻しつつあり、両社のスマートフォン統合ソリューションの需要は着実に伸びています。

 

2025 年には米国でのCarPlay/Android Auto の普及率は79%に達し、欧州でもこれに近い74%に到達すると予想されます。

 


CarPlay/Android Auto の欧州・米国・中国での普及率

 

テレマティクス保険を提供する自動車メーカーが増加

テレマティクス保険は、走行距離や運転する時間といったシンプルな指標から、ブレーキやアクセルの踏み具合でドライバーの運転の安全度を診断して指標化するといったより高度な分析まで、さまざまなデータからドライバーをプロファイル、事故を起こす可能性の低いドライバーには保険料を下げる、反対にリスクの高いドライバーの保険料を上げる、という保険スキームです。市場化されて間もない段階では強気な成長予測が見られましたが、現状では主にアフターマーケット商品としてごく限られた普及率を達成しているにすぎません。

 

アフターマーケットではドングルでクルマのデータにアクセスしたり、スマートフォンで接続したり、といったソリューションが主流であり、ユーザーが起動することに依存する場合が多くデータの信頼性に限界がありますが、埋め込みコネクティビティを活用したOEM ソリューションではより信頼性あるデータの収集が可能です。OEM は保険会社への車両データの販売により、ある程度の収益を上げられる可能性があります。テレマティクス保険は、全般的にはまだ消費者アピール度の低い小規模な市場ですが、今後埋め込み型コネクティビティの普及が進むにつれて、一定の成長が見込まれます。

 


テレマティクスサービスの欧州・米国・中国での普及率

 

e コマース(クルマの中で支払いが完結)

モーターショーなどで車載決済コンセプトを出展するOEM やサプライヤーの数が増えています。これは、クレジットカードを取り出したり下車したりすることなく支払いが完了する仕組みで、例えば、Visa はHonda と提携して給油料金や駐車料金、有料道路通行料などの支払いが可能な車載決済システムのデモンストレーションに取り組んでいます。

 

現在車載e コマースサービスを提供しているのはごく少数のOEM に限られます。一例として、BMW は2015 年初めに車載サービスストアを開設、ユーザーポータルや車載ディスプレイからクレジットカード情報に基づいてリアルタイム交通情報などの車載サービスやアプリを購入することができるようにしています。

 

中国では、SAIC がAlibaba と提携し、2016 年第2 四半期にRoewe RX5 に車載e コマース機能を導入しています。このシステムでは、車内での決済処理に加え、ロケーションベース広告サービスの統合により、走行している付近のコーヒーショップのクーポンが発行されたり、車載ディスプレイからそうした商品を購入したりできます。スマートフォンアプリのAliPay で車載画面に表示された商品の決済QR コードをスキャンすると決済手続きが開始する仕組みです。駐車料金支払い向けにも同様のアプリケーションが提供されています。

 

車載e コマースはまだ初期の段階ですが、限られた市場の特定のユースケースについては確実な成長が見込めると思われます。例えばAliPay のような幅広いe コマースプラットフォームの車載化は中国国内ではおそらく成功を収めると見てよく、他の国内メーカーもこれに追従して類似のソリューションを展開すると予想されます。

 

クルマ以外に目を向けると、e ウォレットや非接触決済、キャッシュレス決済などの新しい決済技術は過去2 年間で飛躍的な成長を遂げており、車載導入についても現在の試験運用レベルからやがて本格的普及段階に移行するのは間違いないと考えられます。

 


車載eコマースの普及状況。現在は試用段階だが本格的普及段階に移行するのは間違いないとみられる。

 

バーチャルパーソナルアシスタント(VPA)-AI がクルマの中に

過去5 年間で音声認識技術は大幅に進歩し、認識成功率やノイズ処理能力が飛躍的に向上したことから、初期のシステムでユーザーが特に不満を感じていた使いにくさの問題はおおむね解消されたといってよいと思われます。

 

ユーザーが自然言語処理やウェイクアップワード(「Hey, Siri」や「OK Google」など)などの高度な機能に慣れるにつれ、音声認識サービスの使用頻度やユーザー受容度はさらに増加します。

 

「バーチャルパーソナルアシスタント」(VPA)のコンセプトはこうした音声認識サービスを一つ上のレベルへ引き上げるもので、ユーザーのリクエスト内容に応じたレスポンス能力を備えた会話形式のインターフェースとなり、また単にコマンドに応じるだけでなく学習機能を持ちユーザーの志向を学習します。

 

単純な音声認識サービスからバーチャルパーソナルアシスタントレベルのサービスへの進化に欠かせないのが、ディープラーニングや人工知能などの技術です。バーチャルパーソナルアシスタントは、クルマでのさまざまな状況でユーザーのニーズを先読みします。ユーザーのスケジュールから行先を推測してドライバーに確認したり、渋滞していて打合せに遅れそうなら相手先にメッセージを送ったり、秘書代わりとして機能することを目しています。クルマの設定やスケジュールとの連携など、可能な限りのコンテクスチュアライゼーションとパーソナライゼーションを達成するために多くのデータ源へのアクセスを必要とし、車両センサデータなどさまざまなエコシステムの統合も必要とします。これらのサービスは、ディープラーニング技術やAI 技術、アプリの継続的な発展に伴い今後加速度的に進化を遂げると思われます。

 

バーチャルパーソナルアシスタント(VPA)サービス車載化の主な推進要因となるのは、安全性と生産性の確保であると認識されています。インフォテイメントコンテンツやサービスが増大し複雑化していく中で、走行中でもインフォテイメントシステムをスムーズに使いこなしたいというドライバーニーズは高まっており、意見の分かれる余地はあるにせよ、少なくとも一般的なドライバーディストラクションガイドラインによれば、音声インターフェースはタッチ操作式HMI より概ね安全であると言ってよいと思われます。また、ブラウザ検索やカレンダーのチェックなどをVPA を用いて行うことができればドライバーの生産性は向上します。将来的には、家電製品の操作等、家などの外の世界とも連携したサービスが見込まれています。

 


 

SBDは、イギリスに本社を置く自動車のリサーチコンサルタント会社です。コネクテッド・カー、テレマティクス、先進運転支援システムなどの分野にわたって、レポートやデータベース、ユーザーへの調査などのサービスを行っています。

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