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「薄く・軽く・曲がる」ペロブスカイト太陽電池の実用化へ アイシンが開発状況を公開

2025/7/3(木)

アイシンが開発したペロブスカイト太陽電池

アイシンが開発したペロブスカイト太陽電池

自動車部品大手のアイシンは、開発中の「ペロブスカイト太陽電池」について、実用化に向けた開発状況を公開した。同社は2028年のテスト販売開始、2030年の本格事業化を目標に掲げている。現在主流のシリコン系太陽電池になかった「薄く・軽く・曲げられる」特徴を生かした展開を進める方針だ。
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シリコン型の限界を突破する、次世代の太陽電池

ペロブスカイト太陽電池は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた次世代技術として有望視されている。この次世代電池の特徴である「薄く・軽く・曲げられる」利点によって、従来のシリコン系では重量の問題で設置が難しかった、建物の壁面や屋根への設置が可能となる。

基板に材料を塗布・印刷して製造するため、工程が比較的容易であることも利点で、大量生産によるさらなる低コスト化も期待されている。また、主原料のヨウ素を日本国内で調達できる点からも注目度が高まっている状況だ。

これまでは発電効率やコスト面が課題とされてきたが、実用化に向けた開発が着々と進んでいる状況だ。例えば、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「次世代型太陽電池実用化事業」においては、アイシンのほかにも、積水化学工業、東芝、カネカ、エネコートテクノロジーズなどの企業が、産業技術総合研究所(産総研)や大学と連携しながら開発を進めている。
神戸空港でのペロブスカイト太陽電池の実証実験(同地では積水化学らが実施)

神戸空港で実施中のペロブスカイト太陽電池の実証実験(積水化学プレスリリースより)


アイシンは薄ガラス基板の採用で、軽量性と耐久性を両立

アイシンが開発したペロブスカイト太陽電池のモジュールも、前述した「薄く・軽く・曲げられる」利点を有している。厚さは約2mm、重量は900g(シリコン系の約5分の1)と、大幅な薄型化・軽量化を実現した。
アイシンのペロブスカイト太陽電池

アイシンが開発したペロブスカイト太陽電池


また、各社がペロブスカイト太陽電池の開発を進める中、アイシンは独自の特徴を追求している。その1つが、ガラス基板の採用だ。一般的に、ペロブスカイト太陽電池の基板には樹脂フィルムかガラスが用いられる。フィルム基板は軽量性に優れる反面、耐久性に課題がある。対するガラス基板は耐久性が高いものの重量が問題となる。アイシンのペロブスカイト太陽電池は、基板の素材に薄ガラスを採用した特殊構造で軽量性と耐久性の両立を図っており、いわば「樹脂フィルムとガラスのいいとこ取り」を実現した。

現在の変換効率は、現状ではシリコン系の20%超には及ばないものの、900cm2(30cm角)で約15%まで向上した。同社はNEDOのプロジェクトにおいて、変換効率20%台、耐久性20年、発電コスト20円/kWh以下の開発目標を掲げており、今後のさらなる性能面での進化が期待される。

アイシンの安城工場(ペロブスカイト太陽電池の実証場所)

ペロブスカイト太陽電池を設置した、安城工場内の施設


今回、報道陣に公開されたのは、アイシンが今年3月から取り組んでいる安城工場での社内実証の様子だ。この実証では、敷地内の施設(排水処理設備の管理棟)の側面や屋根にペロブスカイト太陽電池を設置し、システム面や運用面などの評価を行っている。なおアイシンの発表によると、系統連携による運用評価は国内初の事例だという。
※発電設備を電力会社の送配電網に接続すること。

施設に取り付けた太陽電池は、30cm角のモジュールを3枚並べた形状で、パネル1枚の寸法は、約100cm✕約40cm。6月の公開時点では、120枚が設置済みだった。パネルの据え付けは順次拡大していく方針で、今年9月末までに約500枚の敷設、約30kWの出力を見込んでいる。

なお今回の実証では、実用化を見据えて施工面での評価を行うのも目的の一つだ。ペロブスカイトパネルの軽量性を生かし、波板鋼板の壁にビスで直接固定するシンプルな工法を採用した。80枚のパネル設置と配線が1日で完了するなど、施工効率も大幅に向上している。



産業用建物を中心に28年テスト販売、30年に本格量産へ

実用化に向けて、アイシンはまず2028年のテスト販売開始を目指す方針だ。現在は試作ラインで製造を行っているが、2030年には本格的な量産化を目指している。

この目標に向け、前述した安城工場での検証を経て、徐々に大規模実証・他企業との共同実証へと進んでいく。なお現在は、大林組と共同で実証実験に取り組んでいるところだ。この実証では、ファスナーを用いた工法で、容易にパネルを交換できる保守性の高いシステムの検証を行っている。また、ペロブスカイトの軽量性と発電性能を活かした3D形状の設置で、従来の平面設置と比べて発電量を20%以上増加させているという。

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そのほかにも、今年9月上旬にオープン予定のネッツトヨタ郡山店では、アイシンのペロブスカイト太陽電池とトヨタの水素エネルギー発電設備を組み合わせた次世代エネルギー店舗の建設も進んでいる。

実用化においてターゲットとして想定しているのは、これまでシリコン系では設置が困難だった工場や倉庫などの産業用建物だ。その後、鉄道や高速道路における曲面の防音壁なども、曲げやすい特性を生かして設置できる場所への導入が有望視される。

他方、モビリティへの展開も気になるところだ。例えばシリコン系においては、すでにトヨタのbZ4Xとプリウスにカネカの製品が採用された事例はある。 前述したペロブスカイト太陽電池の特性を踏まえると、EVやPHVなどの用途で大きなポテンシャルがあるように思える。

ところが現時点では課題も多いという。車両に搭載する場合、限られた面積でのより高い発電効率が必要になる上、温度や振動などに対する耐久性も、定置型の要件より厳しくなるからだ。アイシンではサンルーフなどへの設置を検討しているものの、具体的な事業化時期は明かされていない。

カーボンニュートラル戦略の中核技術

同社は2035年に生産におけるカーボンニュートラル、2040年にゼロエミッション、2050年にライフサイクル全体でのカーボンニュートラル達成を目標に掲げている。アイシンにとってペロブスカイト太陽電池は、カーボンニュートラル戦略の重要な柱だ。その一方で、同社カーボンニュートラル推進センターの西川昌宏CCNOは「カーボンニュートラルは、私たちだけでは達成できない」とも語る。
※CCNO:Chief Carbon Neutral Officerの略。アイシンによると、グループ全体のカーボンニュートラルを推進する責任者を指す肩書。

具体的な取り組みとして、工場内での省エネはもちろん、CO2分離回収や水素製造、メタネーション、さらに可搬型の燃料電池発電機の開発なども並行して進めており、これらを統合したエネルギーバリューチェーンの構築を目指している。ペロブスカイト太陽電池は、この統合システムの電力源として重要な役割を担う。

アイシンのCO2分離・回収設備と可搬型FC発電機

アイシンが目標に掲げるペロブスカイト太陽電池のテスト販売開始までおよそ3年。それまでに技術的な課題の解決と新たな市場の開拓を同時に進めていく必要がある。カーボンニュートラル社会実現に向けた新たな選択肢として、今後どのようなステップで実用化が進んでいくのか、今後の動向に注目したい。

(取材・文/和田翔)

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