ニュース

ADASの次は“人間の認知”を強化する。モビリティ安全の新潮流【JMS2025】

2025/11/25(火)

METEOR BLASTER VR版
プレイ中の様子

近年では、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術の発展により、ハードウェア面からの交通事故削減の動きが着実に進んでいる。一方で、“ソフト”にあたるドライバー自身の安全制御は、技術だけでは補いきれない領域だ。安全運転を維持するためには、持続的に自分の感覚や判断力を見直し、調整する必要がある。

こうした課題意識のもと、ジャパンモビリティショー2025(以下、JMS2025)では“ドライバーの認知機能を科学的に理解し、トレーニングとして楽しみながら取り組む”という新しい安全教育の流れが見られた。今回はその中から、ドライバーの運転操作や判断に関わる“認知”に焦点を当てた展示を紹介する。

仙台放送

仙台放送は、東北大学加齢医学研究所(川島隆太教授)と「運転技能向上トレーニング・アプリAI版」を含む新しい脳のトレーニング「BTOC(ビートック)」を共同開発。このトレーニングを日本交通のタクシー乗務員や相鉄バスのバス乗務員などに提供している。日本交通は、持続的な実施にくわえて、運行管理者がスコア変化を見ることにより、コミュニケーション向上や個人面談指導の設定にも生かしているとのことだ。

さらに、仙台放送は、東北大学大学院医学系研究科との共同開発により、「METEOR BLASTER VR版」という隕石などを破壊するゲームも作成した。このゲームを片目でそれぞれ行うことにより、どの場所の認識が弱くなっているのかを調べることができる。認識が弱いということは、弱い場所から車や歩行者が飛び出してきたときに気付くのが遅いことを意味する。見えにくい箇所を事前に知っておくことで、事故を抑制することが可能になるという仕組みだ。


BTOC紹介動画


日野コンピューティングシステム

日野コンピューティングシステムは、「Brain100 studio」を提供するMIG社とパートナー契約を結んでいる。このBrain100 studioは、脳健康VR測定と予防支援を目的としたもので、空間内で自分のいる位置をどれほど正しく認識できているかを測定するゲームだ。認知機能の評価をしてくれるほかにも、認知症の予兆発見や生活習慣の改善にも効果があるという。

日野コンピューティングシステムの強みは、日野自動車のグループ企業ということだ。このゲームも運送事業者のドライバーをメインターゲットに見据えている。トラックドライバーの平均年齢は高齢化が進んでおり、50歳を超えている現状だ。しかしこの年齢層が今後も現役世代として働き続けなければ、日本のインフラは成り立たなくなる。同社はそんな懸念を抱き、「Brain100 studio」 の展開を進めているという。


Brain100 studio紹介動画


トータルブレインケア

トータルブレインケアは、JMS2025のStartup Future Factoryに出展していたスタートアップだ。同社が開発・提供する脳体力トレーナー「CogEvo(コグエボ)」を活用した安全運転教育プログラム「MieruCAR(ミエルカー)安全講習スタートプログラム」は、国土交通省の2025年度社内安全教育認定メニューに選定されている。

このプログラムの特長は、初めから専門家によるWeb安全講習が3カ月に1回のペースで組み込まれていることだ。ほかにも、脳体力データに基づく具体的なアドバイスや運行管理者へのコンサルティングも含んでおり、安全運転行動の定着を促進している。また、CogEvoでは、安全運転のほかにも、製造業での作業前安全確認や高齢者の見守り支援への活用も想定されている。


CogEvo紹介動画


重要なのは継続

どのプログラムにも共通していえることは、継続して続けることと短時間でプレイできることだ。運転に関わる判断力や認知力などは一朝一夕では成長せず、何も対策をしなければ徐々に衰退していく。仲間同士でスコアを競う、認知機能向上の実体験を共有するなど、長く続けられる環境をつくることも忘れてはいけない。技術がどれほど進化しても、人間の判断や注意の質が安全を支えている。今後のモビリティ社会では、こうした「認知を整える力」こそが、持続的な安全を生み出す新しい資産となるだろう。

get_the_ID : 249007
has_post_thumbnail(get_the_ID()) : 1

ログイン

自動運転特集

ページ上部へ戻る