三菱ふそう、水素エンジンと燃料電池の大型トラック2種を初公開【JMS2025】
2025/11/25(火)
三菱ふそうトラック・バス(以下、三菱ふそう)は、Japan Mobility Show(JMS) 2025において、水素で駆動する大型トラックのコンセプトモデルを世界初公開した。
物流におけるカーボンニュートラルの実現に向け、異なる特徴を持ちながらも「水素」という共通項を持つ2台のトラックを披露し、新エネルギーの普及も含めた同社の戦略を示した。
物流におけるカーボンニュートラルの実現に向け、異なる特徴を持ちながらも「水素」という共通項を持つ2台のトラックを披露し、新エネルギーの普及も含めた同社の戦略を示した。
なぜ水素なのか、なぜ2台なのか
展示ブースでカール・デッペン代表取締役社長・CEOは「カーボンニュートラルな輸送手段に万能な解決策はない」と強調した。バッテリーEV(BEV)が市街地での配送などに適している一方、重量物運搬や長距離輸送を担う商用車においては、水素燃料の優位性である航続距離の長さと充填時間の短さが際立ってくる。
三菱ふそうは、水素エンジンを搭載した「H2IC」と、液体水素を用いた燃料電池で動く「H2FC」という2種の大型トラックを展示した。同社が2種類の水素トラックを並行して開発する理由は、水素の供給網や充填インフラの整備状況、顧客要件など外部環境の不確実性にあるという。
デッペン氏は「これらの要素は時間とともに変化し、完全に予測できない。だからこそ柔軟性を保ち、2つの水素技術を並行して開発することを決断した」と述べ、市場や技術動向に応じた最適解を提供する構えを示した。
既存のディーゼル技術を生かせる「H2IC」
まず紹介された「H2IC」は、前述した通り、水素エンジンを搭載した大型トラックだ。圧縮水素ガスを燃料とし、航続距離は最大700kmに及ぶ。大きな特徴として、ディーゼルエンジンを水素対応に改めることで、現行のエンジン部品の80%を流用可能にした点が挙げられる。
このアプローチにより、既存の製造ラインやサプライチェーンを活用できるため、初期投資を抑えながら量産化への道筋をつけやすい。また、燃料電池車と比較して購入コストが低いことも、事業者にとって導入のハードルを下げる要因となる。
用途としては、建設工事の資材を運ぶなど高出力が求められる場面に特に適しているという。ディーゼルトラックからのスムーズな移行を可能にするH2ICについて、デッペン氏は「水素社会への橋渡し役」として位置づけている。
液体水素の採用で多様な優位性が生まれる「H2FC」
続いて披露した「H2FC」は、燃料電池システムを搭載し、高効率でランニングコストを抑えた運用ができる大型トラックだ。注目のポイントは、圧縮水素ガスよりも高密度な液体水素を採用した点で、最大1,200kmの長大な航続距離を達成できるという。充填時間はおよそ15分で、ディーゼル車と同等のリヤボディのサイズを確保し、積載スペースへの制約もない。
H2FCには、国内初となるサブクール液体水素(sLH2)充填※用タンクが搭載されている。サブクール液体水素の充填については、三菱ふそうの親会社であるダイムラートラックと、ドイツのリンデ・エンジニアリングが共同開発した技術を採用した。従来、液体水素の取り扱いで課題だったボイルオフガス(蒸発した水素ガス)を再液化することで、ガスの排出を不要にし、急速充填を可能にしている。
※sLH2充填: 液化水素をポンプで加圧しながら車両に搭載された液化水素タンクに充填することで、液化水素タンク内のボイルオフガス(蒸発した水素ガス)が再液化され、ボイルオフガスを排出する必要がなく、急速に充填を行う液化水素の新しい充填技術。(引用:三菱ふそうプレスリリース)
この技術は、インフラ面での優位性にもつながるという。圧縮水素ガスを使用する水素ステーションでは、高圧に対応した複雑な設備が必要になる。一方、サブクール液体水素の充填だと、加圧圧力が低いため、設備を大幅に簡素化できる。結果、「水素ステーションへの投資コストを大幅に低減させることが可能」(デッペン氏)だという。
また、航続距離の伸長と充填時間の短縮によって、1基の水素ステーションあたりでカバーできるエリアが広がるため、結果的に必要なステーション数そのものを削減できる。インフラ整備のハードルを下げることで、水素社会の実現を促進させる考えだ。
岩谷産業との協業で展開
三菱ふそうは、サブクール液体水素の充填技術を日本国内で確立するため、今年5月に岩谷産業と基本合意を結んだ。両社は技術開発や規制・認証に関する調査、充填インフラのビジネス展開、普及に向けたマーケティング活動を共同で推進する。サブクール液体水素の充填技術はISO規格化に向けた議論が進められており、三菱ふそうは外部企業・機関との協力体制も構築中だ。デッペンCEOは「この技術をさらに追求し、日本の水素社会に貢献するべく、物流などのサプライチェーンに関わる企業に広く参加を呼びかけている」と語り、業界を横断した取り組みの必要性を訴えた。
なお、親会社のダイムラートラックでは既に、液体水素を使用するメルセデス・ベンツブランドの大型燃料電池トラックのプロトタイプを開発し、2024年から実証実験を継続している。こうしたグローバルでの取り組みが、三菱ふそうの今後の展開にも影響を及ぼすだろう。
水素エンジンと燃料電池という2つの技術を旗印に、三菱ふそうは商用車業界におけるカーボンニュートラル実現へと歩みを進めている。
(取材・文/和田翔)










