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オフグリッドフィールドが示す「インフラに頼らない」自立型空間の未来【JMS2025】

2025/12/5(金)

ジャパンモビリティショー2025の「Tokyo Future Tour 2035」エリアでは、未来の暮らしや社会基盤を提示する多様な展示が並んだ。その中で、竹中工務店傘下のオフグリッドフィールド社は、自立した電源・通信・移動手段を備えたトレーラーハウスやモバイルハウスを展示。これらは、災害時の事業継続や現場の働き方改善を目指す、新たなモデルだ。担当スタッフに、同社が進める分散電源の実証内容や、建設現場・災害地域での具体的な活用像について話を聞いた。

太陽光一辺倒を超える「複数発電源モデル」

SHINWA DENKOのモバイルハウスに自立型電源を搭載した展示車両

SHINWA DENKOのモバイルハウスに自立型電源を搭載した展示車両



オフグリッドフィールド社のスタッフは、太陽光パネルのみで確保する電源の限界を指摘した。建設現場や工事現場では監視カメラや通信機器など、比較的低負荷ながら常時稼働を必要とする装置が多い。しかし現実には、冬季の積雪や重機・資材による日陰、仮囲いの設置など、パネルに日光が当たらなくなる状況が頻発する。

こうした課題に対応するため、オフグリッドフィールド社は太陽光+蓄電池といった代替発電源を組み合わせた分散型モデルを提案している。太陽光が不足する時間帯は蓄電池が補完し、さらに長時間稼働できる代替発電源をバックアップとして組み合わせることで、軽負荷機器(100〜200W)を長時間安定的に稼働させる設計としている。これは、災害時に求められる「少ない電力を長く使う」考え方に通じており、現場視点の実務要件が反映できるモデルだ。

自立した電源を日常運用する多用途モデル

モバイルハウス車両内部

モバイルハウス車両内部



分散電源の取り組みの特徴は、非常時専用ではなく、平常時の運用を前提に設計されている点が挙げられる。担当者は「災害対策設備は、普段使われない時間が長いほど劣化が早まります。そのため、日常的に使えることが、非常時の即稼働につながります」と語った。

モバイルハウスには、リン酸鉄リチウム電池(6.9〜13.8kWh)と複数枚のソーラーパネル(400W級)を搭載し、内部のインバータやコントロールユニットは常時稼働できる仕組み。これにより、通信設備、PC作業環境などを常時運用しながら、蓄電池の状態をクラウドで監視し、非常時にそのまま電源として活用できる。

さらに、衛星インターネットを用いた自立通信、市販駆動装置(ムーバー)による自立移動を組み合わせることで、小規模ながら電源・通信・移動を内包した「自己完結型の現場オフィス」として機能する点も特徴だ。これは建設現場のみならず、地域イベント、防災訓練、仮設拠点など幅広い用途に活用できる。

空間とエネルギーを統合する「オフグリッドゼネコン」の発想



オフグリッドフィールド社が掲げる中心概念は、「オフグリッドゼネコン」だ。同社は、電気と通信の自立を実現したトレーラーハウスを保有しているが、今後は水生成、トイレ、ごみ処理など生活インフラ領域まで機能を拡張し、複数の要素技術を統合した「自立型フィールド」を構築する方針だ。

スタッフは「電気だけ整えても暮らせない。水やトイレも現場で完結できるシステムを構築していく必要があります」と述べ、単一技術の提供ではなく「生活全体のシステム」からデザインする姿勢を強調した。

背景には、日本各地で起こる天災、老朽インフラの維持管理の限界といった構造的課題がある。スタッフは「インフラに頼り切ると、どこかが止まった瞬間にすべてが止まってしまいます。だからこそ、現場で使えるインフラが必要になるのです」と、従来型の集中インフラに代わる補完モデルとしての意義を示した。

各要素技術は、企業との連携によりトレーラーハウスやコンテナに搭載可能なパッケージとして統合される。オフグリッドゼネコンは、こうした「動くインフラ」の構築を通じ、持続可能な社会へ向けた新たな技術のひとつといえるだろう。つまり、インフラ機能そのものを可搬化し、どこでも「働ける・暮らせる」環境を実装する構想だ。

全国展開を見据えた「オフグリッドハブ構想」

さまざまな用途に活用できるトレーラーハウス

さまざまな用途に活用できるトレーラーハウス



オフグリッドフィールド社が次のステップとして掲げるのが、全国各地に自立型拠点を整備する「オフグリッドハブ」構想だ。小田原での企業連携拠点の構築をはじめとして、能登地域の復興支援を目的とした拠点整備など、複数地域での展開計画が進められている。

このオフグリッドハブでは、モバイルハウスやトレーラーハウスを活用し、防災教育、地域イベント、企業研修、宿泊・観光の場など、多目的に使用できる空間を提供する。平常時は地域活性化の場として機能し、災害時には電源・通信・水・衛生設備を備えた広域支援拠点として迅速に稼働できる設計だ。

スタッフは「今後は、全国で体感できる場所を増やしていく予定です。特に、子ども向けの防災合宿などにも使用してもらいたいと考えています」と語り、社会普及への意欲を示した。

インフラをつくる企業が掲げる「インフラに依存しない」社会像

取材では、オフグリッドフィールド社の方向性を象徴する言葉として、スタッフの「インフラをつくる会社だが、インフラに頼らない世界を目指している」が印象的だ。建設会社が、自らインフラ依存を軽減するモデルの提示は、一見すると矛盾しているように見える。しかし近年、都市の高密度化、気候災害の増加、老朽化インフラの更新負荷、そしてエネルギー供給の不確実性といった課題が顕在化する中で、集中型インフラに代わる補完モデルを検討する動きは広がりつつある。

オフグリッドフィールド社の取り組みは、電源確保の手段を増やすという技術的な課題解決に留まらず、「必要な機能を現場で維持できる環境を整える」という点にフォーカスされていた。これは、災害時のバックアップだけでなく、分散型社会に向けた基盤整備の一部として位置付けられる。

電源・通信・居住空間を統合したモバイル型拠点の実証は、今後の地域インフラの在り方を補完する手段としても注目される可能性が高い領域であり、同社が提示するモデルはその可能性の一端を示している。

取材を終えて
今回の展示では、単に非常用電源を提示するのではなく、平常時と非常時を連続的に捉える「運用モデル」まで含めて設計されている点が印象的だった。建設現場や地域拠点での具体的な利用シーンを前提に、電源・通信・空間を統合した仕組みとして実装を進めている姿勢は、災害時のニーズに対応できる取り組みとして有効性が高い。

インフラ依存への課題を考える中で、オフグリッドフィールド社が示す分散型モデルは、今後の都市やフィールドの設計に必要な視点であることを感じた。

取材・文/LIGARE記者 松永つむじ

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