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モビリティ×DXの鍵は「ロケーションテックの活用」【寄稿:リブ・コンサルティング】

2022/1/17(月)

デジタルマーケティングの現場では当たり前となったオンライン行動データ(オンラインでのPV数やユーザー行動の流れなど)の活用だが、リアル世界でのオフライン行動データ(リアルタイムな人流の変化や分布など)の活用は、まだまだ始まったばかりである。

その中で今、注目を集める分野が「ロケーションテック」であり、モビリティ×DX化のキーワードとされている。

今回は、ロケーションテックの最新トレンドや事例を元に、「オンライン・オフラインの融合による新たな移動体験の創出」について考察してきたい。

■“ロケーションテック”とは何か?

そもそもロケーションテックとは何なのか?

一般的には、「ヒトやモノの位置情報を可視化し、そのデータを活用する技術」と定義される事が多く、近年、非常に注目を集めている分野の1つである。

実際に、日経クロストレンドが発表した「今後伸びるビジネスランキング(21年下半期)」では注目マーケティングキーワードとして「ジオターゲティング(位置情報マーケティング)」が3位にランキングされている。


上記資料は、
日経クロストレンド(https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00448/00002/?n_cid=nbpnxr_twed_new)より引用

また、ロケーションテックが盛り上がりを見せる中、位置情報データの活用技術を主軸としてビジネスを行う業種分類と、属する企業をまとめた「ロケーションテック・カオスマップ」も公開されている。


上記資料は、クロスロケーションズ株式会社ホームページ(https://www.x-locations.com/news/20200817/)より引用

これだけロケーションテック分野が盛り上がっている背景の1つには、コロナ渦での位置情報データ活用の拡大と参入プレイヤーの増加があげられるが、この流れは不可逆的になりつつある。

■なぜ、ロケーションテックが注目を集めるのか?

ここでのポイントは近年、OMO型の施策にロケーションテックを活用しようという動きが活発化しつつある点である。OMOとは「Online Merges with Offline」の略称であり、直訳すると「オンラインとオフラインの融合」。つまり、オンラインとオフラインとで境界を引くのではなく、2つを融合させながらビジネスを行っていくという考え方である。

これまでは、位置情報を使ったマーケティングと言うと、オンライン(=WebサイトやSNS等)からオフライン(=実店舗)へ誘導する「O2O(Online to Offline)」の施策が主流であった。O2OはWebをあくまでも「オフライン」へ誘導させるための1つのタッチポイントと捉えるのに対し、OMOはそもそも「すべてがオンラインで繋がっている」という前提のもとに成り立つ考え方。後者の方が現在の「アフターデジタル時代」に適した考え方である。

OMOの仕組みとして分かりやすいのが、WEBマーケティングをおこなう(株)アドインテが発表した集客ソリューションである。内容としては、同社が開発したビーコンを使用し、ソーシャルディスタンスを維持する必要がある場合や、店舗の3密状態を公開した際に、状況を見て来店を諦めたユーザーや過去に来店実績があるユーザーをオウンドメディア(ECサイトなど)に誘導するECサイト集客ソリューションとなっている。



このように、従来のオンラインからオフラインへ送客するO2Oとは異なり、オンラインとオフラインを融合させ、顧客体験(UX)の最適化を図ることがOMOの本質であり、市場での競争優位性を高めるための有効施策である事が各業界で証明されつつある。

■モビリティ×DXへの活用方法とは?

では、このロケーションテック分野のモビリティへの活用をどのように考えるべきなのか?
今回は2つの方向性を考えていきたい。

1つ目は、「人流データを元にした行動予測・行動変容の促進」である。

事例としては、箱根エリアで実施された(株)unerryと箱根DMOの取り組みが参考になる。
内容としては、箱根エリアへの来訪者の移動データを分析し、渋滞・混雑状況をデジタル上で可視化。その上で、恒常的な渋滞のメカニズムを探るというものだったが、ユニークなポイントとしては、混雑が発生する前の時間帯にスマホ上で「リアルタイムレコメンド」を行うことで、行動変容を促したという点である。

実際に、あるエリアでは渋滞が夕方に発生する傾向にあることから、近隣の入浴施設の割引クーポンと組み合わせ、夜間帯までの滞在を促した結果、情報配信グループの施設来訪率は非配信グループの約 4.7 倍と一定の行動変容が見られ、レコメンドによりピーク分散の可能性を示唆するものであった。

このように、位置情報のボリュームやタイミングから渋滞状況を予測し、事前に行動変容を促す事によってエリア全体での顧客体験を向上させていく事が、1つ目のモビリティ領域での活用方法である。

2つ目は、「オンラインとオフラインを融合させた新たな移動体験の実装」である。

これまでも、位置情報を元にしたプッシュ通知などはエリアマーケティングとして既に一般的なものだったが、今後は位置情報にプラスして、ユーザーの過去の行動履歴や現在の興味関心データを元に、よりパーソナライズ化されたレコメンド・コンテンツを展開する、という事が可能になるはずである。

ユースケースとしては、デンソーとNTTデータが協同実施した、「車流×人流データを活用した移動体験変革の実証」が参考になる。



上記資料は、株式会社NTTデータホームページ(https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2021/060801/)より引用

この実証では、移動体験・サービスの質向上、生活者の行動変容にともなう見込み客の送客支援の提供を実現するために、車載器から収集した運転特性や運転状況などの車流データと、スマホのGPSやBeacon反応ログなどから収集した人流データから、個人の特性を分析し、“運転状況の推定”と“個人の好みを把握”した店舗情報のレコメンドを行った。モニターに対する3カ月の車両走行検証の結果、レコメンドの有効性を確認することが出来たとしている。

これまでであれば、移動ルートや訪問時間などに突発的な変更があった場合は、その都度、目的地の予約の見直しが発生していたはず。或いは、地域の季節イベントなどの詳細情報、移動手段の手配方法は訪問前に十分な情報が得られず、結果として、現地での予定変更が求められるケースもあったのではないか。

その際に、この実証で提供されたようなサービスが実装されていれば、より良い顧客体験を実現できるはずであり、そのシームレスなオンライン・オフラインの融合の肝になってくるが位置情報(=ロケーションテック)となる。

■まとめ

「私は、お客様がどこにいようとも、新たな感動を提供し、お客様との接点を増やす新たな方法を作り出す、と決心しました」

この一節をご存知の方も多いのではないでしょうか。

こちらは、2019年にアメリカ・ロサンゼルスで行われたCES2019での、トヨタの豊田章夫社長のプレゼンでの一節である。

これまでの業態をアップデートしモビリティサービスカンパニーを目指す、という趣旨でプレゼンは行われたが、その実現のキーの1つには、今回のロケーションテックの技術が存在するのではないか。

顧客がどこで何の行動をしているのか?或いは、そこでどのようなニーズが生まれ、何のペインを抱えているのか?など、これまでオンライン上でのデータ収集だけではなく、オフラインでの人流データや位置情報を正しく捉え、ビジネスに活用していく事こそが今後の生き残り戦略の1つと考える。

モビリティ×DXの領域においてロケーションテックはあくまでも1つの分野だが、今後もロケーションテックの進化と合わせて様々なサービスが実装され、オンラインとオフラインを融合させた新しい移動体験が生まれてくるのではないか。

モビリティのDXには新たな体験創出が重要
以上のようにモビリティにおけるDXは、目的やデジタル技術を活用した新しい業務の仕組みだけでなく、移動のあり方をアップデートする、体験創出が極めて重要。弊社では、この記事で紹介したMaaS領域での「新規事業開発サポート」や「PoC実行サポート」などのコンサルティングを提供している。

なお、「新規事業開発サポート」と「PoC・概念実証」サービス詳細の資料はリブ・コンサルティングのWebサイトからダウンロードが可能(指定フォームへの情報入力が必要)。

「新規事業開発サポート」サービス詳細資料
https://www.libcon.co.jp/abc/download/detail_64/
「PoC・概念実証」サービス詳細資料
https://www.libcon.co.jp/abc/download/detail_62/

文:西口 恒一郎(株式会社リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ マネージャー)

2015年、リブ・コンサルティングへ入社。自動車メーカー、公共交通事業者、自治体を対象に、中期経営計画の策定、新規事業開発、M&A/PMIなどのテーマを担当。現在は、MaaS事業開発、地域モビリティサービスの展開など持続可能なモビリティ社会の実現に向け活動中。2020年より、三重県伊勢湾熊野灘 広域連携スーパーシティ推進協議会のメンバーとして、交通空白地の移動題解決に向けたモビリティサービス開発を担当

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