MaaSはどうして実証実験で終わるのか? 都市型/地方型のモビリティ事業開発とアプローチ手法を解説【寄稿:リブ・コンサルティング】
2021/12/20(月)
“実証実験”が“実証実験”で終わってしまう。
ポストコロナを見据え、都市型/地方型それぞれのモビリティサービスの在り方の模索が続いている。その一方で、モビリティサービス開発には数多くの失敗パターンがあり、「実証実験だけで終了してしまう」「サービスを開始したものの想定よりもユーザー数が増加しない」といった問題が生じている。
各エリアにおいて持続可能なモビリティサービス開発を進めるためにも、「どのように地域のユーザーニーズを捉えたサービス設計を行うのか?」「どのように収益ポイントを作り、事業としての採算ラインを超えていくのか?」について考察していきたい。
ポストコロナを見据え、都市型/地方型それぞれのモビリティサービスの在り方の模索が続いている。その一方で、モビリティサービス開発には数多くの失敗パターンがあり、「実証実験だけで終了してしまう」「サービスを開始したものの想定よりもユーザー数が増加しない」といった問題が生じている。
各エリアにおいて持続可能なモビリティサービス開発を進めるためにも、「どのように地域のユーザーニーズを捉えたサービス設計を行うのか?」「どのように収益ポイントを作り、事業としての採算ラインを超えていくのか?」について考察していきたい。
■なぜ、“実証実験”で終わってしまうのか?
モビリティサービス開発における失敗パターンには様々な要因があるものの、分類すると大きくは3つに整理が可能である。1.“有望な新規事業領域”が見つけられない
まず、モビリティサービス開発では、自社が勝負できる市場や参入機会を見つけ出す事が第一歩である。PEST分析による外部環境予測や、ワークショップを通じて自社の強みや弱みを把握し、ビジネスの種を見つけ出すという手法が一般的である。しかしながら、この方法だけでは十分な探索ができないケースが多い。理由は明確で、“フレームワークありき”で取り組み始めることで、「既存の市場で勝負する」「自社の強みを活かせる事業をする」といった前提にとらわれることが多いからであり、結果として有望な新規事業領域を見逃してしまうケースが多い。
2.採算ラインを超えるための“ビジネスモデル”が構築できない
安定的に事業を継続させるためには持続可能なビジネスモデルを組む必用があるが、そもそも多くのモビリティサービスは公共インフラであり、多額のコストを支払う類のものではない。このようなサービス特性を理解した上で、他事業者とのエコシステムを通じて最終的に自社にお金が流れるスキームを構築できるか?といったビジネスモデルが求められる。しかしながら、実証実験フェーズで本腰を入れてこの議論が為されているケースは少なく、結果的に実装時に頓挫してしまうのが2つ目の失敗パターンである。
3.そもそもの“事業リーダー”が不在
新規事業を0から生み出し、そして、1から10に成長させていくためには事業を推進できるリーダーの存在が不可欠となる。しかしながら実際には組織内で事業開発を担当した経験、或いは、事業成立まで実現できた事業リーダーがそもそも不在、というケースが殆どである。新規事業開発には固有のノウハウや、難しい局面を乗り越えていくマインド/スタンスが求められるが、適正人材を社内だけでは調達できないケースが多く、そもそもの推進体制が構築できない事が多い。
以上、ここまでモビリティサービス開発における3つの失敗パターンを整理してきたが、では、実際にモビリティサービスの開発にあたり、どこから考えていくべきなのか。当然ながら、そもそも各エリアにおいて、どのような移動に関わる課題があり、どこに事業機会があるのかを特定すべきである。事象では改めて、都市型/地方型それぞれの移動課題と、今後のモビリティサービスの在り方について考えていきたい。
■都市型/地方型それぞれの移動課題と、今後のモビリティサービスの在り方
《都市型》公共交通が普及している都市部においては、都市一極集中による日常的な公共交通のラッシュや、テレワークの拡大や三密を避けた移動手段の確保など、移動ニーズの多様化が進んでいる。
その中で今後求められる方向性としては、「高付加価値化」が1つのキーワードとなる。
例えば、マルチモーダルでのサブスクリプションのような新しいサービス・料金体系や、移動先でのアクティビティとの連動等の、移動にプラスαする“高付加価値化”をテーマとした新しいサービスへの期待が強い。
《地方部》
その一方で、地方部においてはそもそも自家用車分担率が非常に高く、運転免許を持たずとも移動/生活ができるインフラ構築が急務となっている。
その中では、「効率化」が1つのキーワードであり、公共交通インフラに対する課題感が大きい地方においては、欧州版MaaSのように利便性と収益性のバランスをとるためのMaaSが求められ、“効率化”“持続可能性”をテーマにしたサービス構築がポイントとなる。
ここに記載した内容は平均的な都市部/地方部の移動に関する課題だが、実際には各エリアにおける実情は異なるはずである。本当に地域の人々の困りごとは何なのか?まだ顕在化していない事業ニーズはどこにあるのか?など、地域ごとにリサーチを行う事が必用である。
実際に当社でおこなった、ある過疎地域の移動課題に関する調査では、公共交通の不便さ、交通空白地の増加など既に顕在化している課題も大きかったが、本質的に着目すべきニーズは、「そもそも移動したい目的地/コトが無い」という声であった。仮に、そのような視点を持たずに公共交通インフラだけを整えたとしても、「そもそも移動したい」と思える目的がなければ、空気を乗せて走るコミュニティバスが増えるだけではないのだろうか。
■MaaS事業開発のアプローチ手法
最後に、MaaSの事業開発アプローチ手法について考えていきたい。新規事業開発のステップは大別すると6段階に分かれ、事業内容にもよるが凡そ半年から2年程度の期間を要する。
それぞれのステップにおいてポイントはあるが、ここではステップ2の「事業性評価」を中心に見ていきたい。
《事業性評価のポイント》
プロジェクトによって評価項目や基準に差異はあるものの、大枠としては以下の3つの観点で評価をおこない、明確なノックアウトファクターが無いかどうか検証する事が重要である。
1.リターン(事業参入可否、差別化要素、利益予測、継続性)
2.リスク(コスト、ステークホルダーとの関係性、経営資源の準備)
3.インパクト(市場ボリューム、経済効果、先進性・独自)
これまでの実績では各評価項目の中で半分程度はベンチマーク事例や各種事前リサーチから評価できるものの、残りの半分は「やってみないと分からない」という領域であり、だからこそPoC(実証実験)を通じて本当に事業成立するのか、という事を正しく評価すべきである。残念ながら多くのケースでは、PoCのためのPoCになってしまい、事業成立仮説が無い中、そもそも何の評価を行うのか?が不明確なPoCの実例は意外なほど多いというのが実感である。
持続可能なモビリティサービスを実現させるのであれば、PoC(実証実験)を通じて、上記のような事業性評価を十分におこない「本当に事業として成立するか否か」のシビアなジャッジは当然であり、また、評価を行う中で具体的な改善箇所も見えてくるので、より洗練された事業プランにする事も可能である。
4.最後に
事業開発で重要なのは、「誰にも思いつかなかったアイデアを発想すること」、ではなく、「まだ解決されていない社会課題を発見すること」がスタートライン。
そして、解決されていない理由が何か?を探求し続ける事が要所となる。
ニーズの大きさなのか技術なのかコストなのか、何が満たせればその課題を解決できるのか?
事業の成立要件を整理し、評価基準を明確にした上でPoC(実証実験)をスタートする。
都市部、地方部それぞれにまだ解決されていない社会課題/移動課題は山積みであり、むしろ、その課題は年々増加しているはず。だからこそモビリティサービス市場は魅力的であり、新たな事業が求められているのではないだろうか。
文:西口 恒一郎(株式会社リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ マネージャー)
2015年、リブ・コンサルティングへ入社。自動車メーカー、公共交通事業者、自治体を対象に、中期経営計画の策定、新規事業開発、M&A/PMIなどのテーマを担当。現在は、MaaS事業開発、地域モビリティサービスの展開など持続可能なモビリティ社会の実現に向け活動中。2020年より、三重県伊勢湾熊野灘 広域連携スーパーシティ推進協議会のメンバーとして、交通空白地の移動題解決に向けたモビリティサービス開発を担当