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伊藤慎介氏 モビリティの技術と将来性 LIGAREビジネスセミナー in 特装車とトレーラ展

2017/11/6(月)


自動車業界の転換点

伊藤氏は「自動車業界は、Windows95が出る前のコンピューターと同じような状態にあると思っている」と述べる。クルマを単に移動する機能をもつハードウェアと考えれば、それを作り込むことに長ける日本の技術力は確かに強い。しかし、最近は移動するという機能に対し、新たなニーズが生まれてきている。自動運転やライドシェアなどがその例として挙げられるだろう。そして、そのようなニーズが実現すれば、自動車はもはやプライベートの空間のみならず、公共交通としての性格が強まる。そうすると、また新たなサービスが誕生し、全体のエコシステムが大きくなり、自動車は他業界も巻き込みつつ大きくなっていくだろう。

 

 

このようなクルマというハードウェアと、サービスの融合の一例がスマートキーだ。クルマの鍵を物理的でなく、スマートフォンで開けられるというものである。これが実現できれば、クルマを人に貸す場合でも、スマートフォンでのやりとりだけで可能になるというような、自由度の高いサービスが生まれてくる。

また、公共交通としての移動という機能のニーズを満たすためには、既存のクルマでなくても可能だ。特に2次交通という点では、パリでレンタルサイクルが普及していたり、rimOnOのような超小型モビリティが有用だろう。

地方の高齢者がクルマでは買い物や病院に行けなくなった場合、低速で小さな小型モビリティなら最低限生活に必要な場所に行くことができる。

小型モビリティの分野では、日本は極めて遅れていると言う。2人乗りの小型モビリティや、電動スケートボード、パーソナルモビリティといったものはいずれも公道走行が不可能だ。例えば少し前に流行ったセグウェイは、流行から10年以上経つ今でも公道走行は認められていない。

 

電動スケートボード「Zboard」



 

 

渋滞を解消するモビリティ革命

このようなモビリティの転換点において、国やメーカーは安全に注目しがちだ。もちろん安全は重要な要素だが、海外でモビリティ革命が進む理由は渋滞の問題だと伊藤氏は述べる。渋滞によって失われる個人の時間、また運転している時間そのものを、仕事に当てるために自分がしたくない運転をクルマに任せることを考える必要があると言う。また、公共交通機関のように、自分が通勤に使った後、また別の人を乗せることを繰り返せば1日中駐車場に止めておく必要がなくなるため、土地の有効活用にもつながるだろう。

このような点から、ライドシェアを行なうUBERのようなサービスが出現している。最終的には、渋滞の問題を解決するために、今あるクルマという資産をどれだけ効率的に運用し稼働率を向上させるかが重要だと伊藤氏は語る。

 

欧州を中心に実証実験が始まっている自動運転バス。フランスのEasymileはDeNAが、Navyaはソフトバンクの子会社のSBドライブが日本で実証実験を行っている。いずれもIT系の企業が実証を行っており、自動車業界とIT業界の垣根を越える取り組みとして注目を浴びている。



 

 

自動車業界を変えるIT業界のチャレンジ

これまでの議論をまとめると、今まではハードウェアとしてのクルマを製造し販売することで成り立っていた自動車業界も、カーシェアリングや自動運転のニーズが高まり公共交通としての性格が強まることで、プライベートな空間からパブリックな空間としての要素が大きくなっていく。そしてさまざまなサービスと連携していくことで、乗り物がさまざまな機能を持つようになる。その情報をつなぐ存在として、GoogleやUBERなどが台頭してきているのだと伊藤氏は言う。

 

日本、アメリカ、イギリス、フランスでの乗用車以下の車両制度。パーソナルモビリティや電動スケートボードは公道走行不可、小型モビリティも1人乗りのみと、車両制度の面で日本は遅れている。



 

その他にもIntelやMicrosoftなど、新しいことにチャレンジしている大企業がリソースを提供して新たな開発が進むということが海外では起きているが、日本では新しいことはリスクを伴うため止めておこうという発想になってしまう。「新しい乗り物にチャレンジしようとすると日本の環境は規制が多く良いものではない。新しいことをやるよりは毎日サラリーマンをやっている方が良いという発想になってしまい、ニュースは海外のものばかり。『やっぱり海外はすごい』と言うだけで本当に良いのかということを問いたい」と伊藤氏は、現在の日本の自動車産業への疑問を投げかけて講演を終えた。

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