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MaaSで自由でサスティナブルな移動を実現する【丸紅インタビュー】

2022/5/27(金)

丸紅 産業システム・モビリティ事業部 モビリティ事業課長の佐倉谷誠氏(左)と課長補佐の朝倉謙氏(右)

丸紅株式会社(以下、丸紅)はインテル傘下で先進運転支援システム(ADAS)及び自動運転技術の開発を進めるモービルアイ社(正式名称:Mobileye Vision Technologies Ltd.)、同じくインテル傘下でオンデマンド交通・MaaSアプリの開発を行うMoovit社(正式名称:Moovit App Global Ltd.)との連携協定を発表した。
2社との協業の背景と今後の展望について、丸紅 産業システム・モビリティ事業部 モビリティ事業課長の佐倉谷誠氏と課長補佐の朝倉謙氏に、LIGARE編集長の井上佳三と株式会社リブ・コンサルティングの西口恒一郎氏が話を聞いた。

――モービルアイ社、Moovit社との業務提携を機に、これからモビリティ分野でどのような取り組みを進めていかれるのでしょうか?

佐倉谷氏:丸紅ではモビリティ分野を「モノの移動」「ヒトの移動」「データ活用・自動運転」「エネルギーマネジメント」の4領域に分けて事業開発を検討しています。その中でも、モービルアイ社とMoovit社との協業は「データ活用・自動運転」、「モノの移動」と「ヒトの移動」、という大きな部分を占めていくものになります。



すでにアメリカでは配送業のハブtoハブや宅配などのラストワンマイルでの自動運転配送サービス、いわゆる「モノの自動運転」が始まっています。丸紅はシリコンバレーの自動運転配送サービス企業のUdelv(ユデルブ)に出資をしていますが、日本においても同様にモノの自動運転の方が早く社会実装が進むと考え、高い自動運転技術を有するモービルアイ社と提携しました。

まずモービルアイ社のプロダクトであるADASを提供するアフターマーケット製品「MOBILEYE 8 CONNECT」で集めた各種データの分析と利活用を進め、その先には、物流事業者向けのモノの自動運転のサービス化を見据えています。

「Mobileye 8 Connect」システム構成。左からGPSアンテナ・本体・ディスプレイ(提供:丸紅)

「Mobileye 8 Connect」システム構成。左からGPSアンテナ・本体・ディスプレイ(提供:丸紅)



また、日本各地で従来の定期定路線の公共交通がオンデマンド化する流れの中で、市場の成長性とあるべき次世代モビリティーの形に合うオンデマンド交通システムを有しているパートナー企業を探していて、それがMoovit社でした。

――MaaSアプリ「Moovit」の特徴や他の違いや強みは?

朝倉氏:「Moovit」は、イスラエル発のMaaSアプリのプラットフォームです。日本を含む世界112か国、3500都市、対応言語は45カ国語、ユーザー数は約13億人以上でサービスを展開しており、2016年にはGoogleからベストローカルアプリに選定されるなど、グローバルで実績のあるMaaSアプリです。

Moovitアプリで、特に我々が評価しているのはシンプルで使いやすいユーザーインタフェース(UI)と拡張性の2つです。

まずUIについてですが、オンデマンド交通サービスが普及しているイスラエルでは、1都市で50台以上の車両でのオンデマンド交通サービスを提供しています。日本ではまだ実績がほとんどない大規模かつ複雑な状態でも問題なく稼働させていることからも、管理者にも運転手、ユーザーにも使いやすいUIになっていると言えます。

また拡張性の面では、オンデマンド交通と複合経路検索が同じ1つのアプリ内で表現できている点が特徴です。現在日本で実装されているMaaSアプリの多くは、オンデマンド交通はあくまでオンデマンド交通として別個のシステムになっています。

一方、Moovitはオンデマンド交通と複合経路検索が連動していて、複合経路検索の結果の一つとして、オンデマンド交通による移動や、公共交通とオンデマンド交通が接続した移動方法を利用者に提供できます。1つのアプリで公共交通とオンデマンド交通を組み合わせたシームレスな移動体験を提供できるのがMoovitの大きな特徴です。

加えて、Moovitのシステムはサービスのパラメーター数が多いので、マッチングの精度や予約完了から乗車までの待ち時間をどの程度許容してもらうのか、相乗りになった場合に最短距離での移動と比べてどれぐらい遠回りができるかなど、細かく設定が可能なので、地域に適したサービスを提供することができます。

複合経路検索はもちろん、そこに決済やチケッティング、運行状況確認、オンデマンド交通やマイクロモビリティなどさまざまな機能を盛り込めるため観光地域にも生活圏にも適用できます。さまざまな場面を想定したシミュレーションもできるので、その地域のニーズに寄り添いながらサービスの質を向上させていけるシステムだと思います。

「Moovit」アプリの画面イメージ(提供:丸紅)

「Moovit」アプリの画面イメージ(提供:丸紅)



――Moovitは世界100カ国以上で導入されていますが、海外ではどのような事例があるのでしょうか?

朝倉氏:ヨーロッパとイスラエルの自治体や交通事業者が、ホワイトレーベルとして導入するケースが多いです。例えばオランダの交通事業者のAriba(アリバ)が展開しているMaaSアプリや、フランスの公共機関であるÎle-de-France Mobilités(イル・ド・フランス・モビリテ)が展開したMaaSアプリもそうです。
イル・ド・フランスの場合は、すでに別のMaaSアプリが稼働していたところに新機能を追加する際、拡張性の高いMoovitの一部機能を元々のアプリに取り込んでいます。

佐倉谷氏:単純に移動を便利にするだけであれば地図検索サービスで済みますが、詳細な移動データまでは取ることはできません。一方、Moovitにはリアルタイムの人の移動のデータが常時集まっています。世界各地でスマートシティの取り組みが進む中で、リアルな人の移動データをまちづくりや都市計画に活用していくという視点からも、国や公営の交通企業への導入が多い理由の一つと言えると思います。

朝倉氏:都市のエリア設計への貢献という話だと、メキシコの都市トルカでメトロの延伸計画が出た際に、MoovitがOD分析や人流分析をして、延伸時の移動需要がどの程度あるのかを示し、提案もしています。
ほかにも、メトロを延伸することでターミナル駅構内に新しい路線が増えた場合には、改札口などをどこに設置し、駅周辺のバス停の位置をどのように変える必要があるか、エリア内の人流データを分析して提案をしています。単にMaaSサービスを提供するだけでなく、地域の交通計画にも関わっていけるのが、Moovit社の強みだと思います。

Moovitがイスラエルで提供するオンデマンド交通サービスの車両(提供:丸紅)

Moovitがイスラエルで提供するオンデマンド交通サービスの車両(提供:丸紅)



――Moovit社は地域の交通コンサルタントに近い役割も担っているんですね。

朝倉氏:そうですね。これは我々が最終的に目指していきたい姿でもあります。
地域にサービスを落とし込む際には、地域事情に合わせてサービスのかたちを柔軟に変えていく必要があります。日本でもホワイトレーベルとして導入していきますが、データ編集や乗り換えのアルゴリズムを組むといった機能面については、海外での実績からも、システムの柔軟性の高さはわかっているので大きな心配をしていません。

それよりも課題となってくるのは、外国企業であるMoovit社に地域のニーズを深く読み取って伝え、それがイメージ通り実現されるまで、コミットメントし続ける部分だと思います。

サービスを最適にローカライズし、さらに、それが持続可能なものになるように、データの利活用含めて好循環させていくまでを実現していけるのが理想であり、それこそが丸紅の役割であり腕の見せ所なわけです。全国の丸紅支社とも連携しながら、地域に根ざしたサービスを提供していければと思っています。

――MaaSサービスの展開について、具体的な計画は決まっていますか?

朝倉氏:第1ステップとして、オンデマンド交通の稼働を2022年中に実証を行うことを目指しています。具体的には、現在企業の自社バスやマイカーに通勤を依存している工業団地向けに、新たな交通手段としてオンデマンド交通を提供することを目指しています。

まずはオンデマンド交通を地域に導入していただき、その次は位置情報を盛り込んで送客を促す施策や、公共交通と連携した複合経路検索など、機能を拡張しながら、ゆくゆくはマルチモーダルMaaSアプリとして日本全国の地域に浸透させていきたいです。

――最後に、2社との協業でこういう世界を作っていきたいなど、今後の展望について教えてください。

朝倉氏:丸紅は事業ビジョンに「持続可能な社会基盤の構築」を掲げています。モビリティ分野は環境貢献の面で大きく資するものだと考えています。具体的には、マイカーからのモーダルシフトを促すことであり、Moovit社のオンデマンド交通やMaaSアプリはそれに直結するものと捉えています。

今後、オンデマンド交通サービスをさまざまな地域で稼働させて、MaaS事業を推進していくのが直近の目標になります。その上で、丸紅全体としても環境貢献に資する提案をしていきたいと考えています。

佐倉谷氏:公共交通の効率化が急がれる今、バスの本数を減らし、台数を減らすという方法は確かに1つではありますが、それにより街のにぎわいが減るのは否めません。
人が自由に安価にシームレスに移動できる世界というのが、本来モビリティが実現すべき世界だと思いますし、かつ、それが環境にきっちり配慮したモビリティで実装されることが理想です。

今後、運転手不足がさらに深刻化してくるので、モービルアイ社の自動運転技術には非常に期待しています。またMoovit社のオンデマンド交通サービスによって、より地方の活性化を推進し、人が動きやすい世界、動きたくなる世界を作ることに寄与したいと思っています。

もう一つ、丸紅ならではという点では、異業種との連携は、総合商社である我々の一丁目一番地ですので、そういった取り組みも各地域でしていきたいですね。



(聞き手:LIGARE編集長 井上佳三、株式会社リブ・コンサルティング 西口恒一郎、記事:柴田祐希)



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